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本番前のひと時

 本番の予ベルが鳴る頃には、舞台の上手と下手に分かれて誰もが待機する。その時は上手と下手は分断されることが多く、あまりお互いの状況を把握してないこともある。弦楽器の場合、オケによって配置が様々なので両側の舞台袖を経験している人が多いのではないだろうか。

 上手と下手はどこのオケでも雰囲気が違うような気がしている。もっと言うなら、パートにより演奏開始直前の雰囲気が異なる。楽器ごとの性格にもよるのかもしれない。

 上手の方が静かなオケが多い。下手がうるさいということではないが、上手の方が和気あいあいと談笑が繰り広げられていることが多い。下手は影アナがあるため静粛にしなければいけない時間がある影響なのかもしれない。また、ステージのスケジュール管理をするステマネがいるからなのかもしれないが、下手は上手の様子を窺っているような雰囲気がある。下手でホールのモニター経由で上手の様子を見る人は時々いるが、上手にモニターがあったとしてもそのモニターを常に注視している人は稀である。

 上手は本ベルが鳴るまで下手の様子なんて気にしちゃいない。下手は本ベルがいつなるかと気にしているが、上手は、本ベルが鳴ってから、もう鳴ったのか、となることが多い。でも上手側では、本ベルが鳴って扉が開くタイミングだけソワソワする。下手だけ扉が開いて自分たちがおいていかれないのかの心配をしてしまう。その心配は下手も同じで上手の扉がちゃんと開くかの心配である。

 パート別でみても本番直前の様子は千差万別である。栄養ドリンクを飲むのはコントラバス特有の習慣なのではないだろうか。バイオリンは決してそんなことはしない。100%そうだというわけではないが、コントラバスで栄養剤を飲んでいる人を見かける確率は高い。バイオリンは、その日の最高音の音程を当てられるか心配している人、その日の演目に関係なく好きに曲を引き出す人、難しい部分をさらっている人、音楽談義をしている人、などなど個々である。ビオラはパートで世間話していることが多い。チェロは舞台袖で楽器ケースを開けるためかのんびりとしているように見えることが多い。他の楽器は楽屋でケースから楽器を取り出してから舞台袖に集まるので、そこで時間差があるように見えているだけでギリギリまで集合しにこないのではない。

 上手下手ともに共通しているのは、何かの用事か迷子かで逆サイド側に来てしまった団員を見かけた時の反応である。それだけはどちらの側でも皆同じ反応をする。不思議な目をするか、心配して声をかけるか、自分の楽器に誘い込むか、である。

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