打楽器と弦楽器
弦楽器は生物(なまもの)だと思う。気温、湿度、その他の要因によって音が変わる。それに対して、金管楽器は無機物であると思う。音質が無機物なのではなく、楽器自体が無機物であるように感じる。楽器の材質が金属であり、温度の影響は受けるが湿度の影響は受けない点で弦楽器とは異なる。ティンパニーについて、以前の私は金管楽器と同じ無機物に分類していた。胴は金属だし、ヘッドはプラスティックだからである。ところが、ヘッドが革の楽器を知るようになって、ティンパニーも生物なのだと思うようになった。
革ヘッドのティンパニーの扱いはとても難しい。自分が叩くわけではないが、叩いている人の様子をみて強くそう感じる。革ヘッドの扱いを見ていると、自分の楽器と全く同じことをしていると思うことが多い。弦楽器の弦はガット、ナイロン、スチールなど様々あるが、ガット弦の性質はティンパニーの革ヘッドと同じである。また弓の毛の状態も同じである。例えば、革ヘッドもガット弦も弓の毛も、雨が降ると表面が湿りっぽくなり音が悪くなるしたるんでくる。また、温度変化によって伸び縮みする。面白いことに、そのタイミングがティンパニーも弦楽器も一緒なのである。
ティンパニーは、練習開始前に、実際に叩く場所に楽器を設置して30分間くらい空間に慣らせるらしい。弦楽器もケースを開けて30分くらいたつとチューニングなどが安定する。弦楽器はチューニングの時に弦を少し引っ張って音程を下げるし、引っ張ることによって音色というか弦の張り具合を微妙に変化させる。革ヘッドのティンパニーもヘッドを手で押して同じような調整をする。スチール弦と比べるとガット弦は柔らかいので弓の当て方が微妙に異なる。ティンパニーでもプラスチックヘッドと革ヘッドで叩き方を調整するらしい。
弦楽器は弓順というものがあるが、ティンパニーの場合はLR(左手と右手)である。その感覚も実は一緒である。例えば、下のようなリズムの譜例の場合、ティンパニーのLRと弓順のアップダウンを合わせるとすんなりとリズムが合うことがある。逆に言うと、ティンパニーと一緒に弓順を考えないとリズムが微妙にずれてしまうこともある。同じ楽器の中で違う弓順でアンサンブルをするとリズムが合わないのと同じようなことがティンパニーとの間で起こる。意外ではあるが、ティンパニーとはいろいろな面で驚くほど扱いが同じである。
弦楽器の場合、楽器ケースに湿度を調整する薬剤を入れる人もいる。革のティンパニーも条件が悪い所で保管する時は除湿剤を部屋に置いておくそうである。その点も同じである。
私は先生から練習前も本番前も20分~30分ウォーミングアップしなさいと口酸っぱく言われていた。これは、自分の体の準備運動であると同時に、楽器を温めるためである。なので、本番の日の午前のステリハはウォーミングアップにはならない。管楽器はよく楽器を温めるという事を行っているが、弦楽器ではあまりされてない。特に本番直前のホール舞台袖でいつもそう感じてしまう。最近はエアコンで空調が調整されているため舞台袖とステージ上での温度差はあまりないが、古い施設だと今でも舞台袖とステージ上とでは気温も湿度も大きく違う。そういう時は楽器を温めておかないと、ステージで曲を弾いている最中にチューニングが狂いやすくなるし、弓の張り具合も大きく変わってしまう。本番開始前の30分は、私は楽器をずっと持っていることにしている。そうするだけで、本番中の楽器の狂いはかなり少なくなる。
弦楽器から少し離れた話題となってしまったが、木、革、ガット、毛などの生物の扱いは基本が同じと感じている。
<おまけ>
今までnoteにつけているタイトル画像について説明したことがないのですが、今回初めて紹介します。
この記事のタイトル画像を違和感なく素通りしている人もいると思いますし、ハテナマークが頭の中に飛び交っている人もいるかと思います。草を植えている植木鉢の正体は、、、実はティンパニーです!! なので、大小の植木鉢(釜)があります。きっと古くなって使わなくなったティンパニーの釜をリサイクルしたのでしょう。大きさも十分だし、底に穴はあいているし、植木鉢としてちょうどいいようです。ペダルがないティンパニーだからこその再利用ですね!。植わっている植物に注目するのではなく鉢に注目するのは、茶道のお茶碗を鑑賞するのと一緒ですね。