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ビオラ
バイオリンとビオラは非常に似ているが、「似て非なるもの」である。楽器自体の大きさの違いより、楽器の大きさと弓の長さのバランスが違うのが大きいと感じている。ビオラの楽器のサイズが大きいのは誰でも知っているが、ビオラの弓の長さはバイオリンとほぼ同じか短いということまで知っている人は少ない。ビオラの弓は短いのに、バイオリンよりも太く重く、毛の量も多い。ただし、持った時に感じる弓の重さは重量のバランスの関係でバイオリンより極端に重いと感じるものではない。一方、楽器本体の方はどのビオラを誰が持っても重く感じるものである。
ビオラの形はバイオリンとは微妙に違う。縦横の比、胴体の膨らんでいるところと窪んでいるところの比が違うし、窪みに対する駒のサイズの比率も違う。この微妙な形の違いにより音質が全く異なるものになる。形が同じで単にサイズが大きくなっただけではない。大きさの違いだけで形が全く同じなら、子供用サイズの分数バイオリンからの延長であり、音色はバイオリンのままとなるはずである。
ビオラはバイオリンとは違う楽器なので、当然弾き方も変わる。でも、一見同じであり、同じ弾き方をしても音は鳴るので混乱する。ビオラらしい音を鳴らそうと思った時に初めてビオラとバイオリンの違いを認識することになる。私もビオラをビオラの音質で弾くのはとても苦労する。弓のスピードと重さの乗せ具合がビオラになりきらないからである。
バイオリンのチューニングを下げてビオラの音域にすることができる。ビオラのチューニングをバイオリンにしようとすると弦が切れるのでそれはやめた方がいい。バイオリンをビオラの音に調弦すると音がたるむだけである。バイオリンらしい張りのある音質がなくなり、ビローンとした音になる。決してビオラらしい柔らかい音にはならない。バイオリンをビオラの弓で弾くと太い音質になる。逆にビオラをバイオリンの弓で弾くと軽い音というか、弓が楽器に負けた音しかでない。当たり前の現象かもしれないが、子供の頃の私にとっては不思議でしょうがなかった現象である。
日本のあるバイオリン奏者はチェロ弓でバイオリンを弾くことで有名である。弓を変えると確かに違う音がする。でも私にはとてもマネできることではない。といいつつ、私も本番の時にコントラバスをチェロ弓で弾いたことがある。それは決して望んでそうなったのではない。バス弓を忘れた人に私の弓を渡して、私がチェロから弓を拝借したのである。学生オケをエキストラで手伝っていた時なので、現役の学生にちゃんと弾いてもらおうと配慮しただけのことである。コントラバスはチェロ弓では全く音はでない。その時の本番は、見た目上の人数合わせと、初心者の学生が曲中で落ちないように弓を動かしていただけとなってしまった。