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女神のいる夜と朝 第一節 〜20代の詩の残像〜


明日の行方

そして、また春が来る
ふわりと陽射しに包まれ、
目を上げれば生まれてから
この身を晒してきた太陽がこれまでのことが無かったように笑いかける
相変わらず、この窓からの眺めは人の住処に覆い尽くされている

待ち続けている、待たされている
ここまでの一日一日は理想に対する挑戦だったのかもしれない。
自分の口から出てくることばを他人のことばのように聞いている間に
何人もの人の足音が近づいては去っていった。
近づき去る人に聞いてみたかったけど、聞けなかった。
悔やんでいる暇もなく、次の日、次の日、次の日

なぜかこの春は、心のどこかにやすらぎが寝そべっている

そしてその横にいるのは「諦め」と、押し込んでも押し込んでも顔を出してくる「希望」という名の女神


雨の夜


消えていった将来ゆめが、
行きすぎていった人たちが
浅い眠りを通過する

ぽつりぽつり、庇に雫が落ちる音
夢の地底に誘いをかける。

あのとき、あのころ、きみのかお
忘れられない瞬間きおくが蘇る

はっと、夜半に目覚め
雨音のリズムに安堵し、また過去に戻っていく。



実家のある街

久し振りに帰ってきた街に人影はまばら、
通り過ぎる車やバイクは見知らぬスタイル
風は2月なのに妙に暖かく、それだけが僕を受け入れてくれているようだ
その角を一歩踏み出せば景色は変わる。

坂道の向こうに浮かぶ懐かしい友の顔
「あれからどうしてたんだ?」
でも、それは幻でしかなく実際に目の前にあるのは小さな三角公園
遠目に幸せそうなカップルがおしゃべりしている

ずいぶん、僕は遠いところに来てしまったんだなあ、
諦めのように笑ってみる
懐かしい行き先掲示板のバスが行き過ぎるのをしばらく眺めていたあと
僕は家に向かった



最後に逢いたい


もうすぐ梅雨が来て、
街は濡れたシーツを被る。
騒がしい人々の足音さえ吸い込んでしまう季節が過ぎれば、
夏だ。
いま、君には、何も語れないけれど、
いつか、話しかける時がやってくる。
浮かれた季節の中で、また僕たちの想いが見事に裏切られていくだろうけど
夢を現実に変えられる力を誰でも持っていると信じている

緑が深まり日焼けの跡が鮮やかになり
君も時間の衣を羽織る
これが終点でないならば、
まだ遠くに答えがあるならば
君とは最後に逢いたい。


哀しい日には

うれしい日もあれば哀しい日もある
うれしい日には
何か、できそうな期待で胸が躍る。
うれしい日には
相手の顔が綺麗に見える。
うれしい日には
自分が大きく見えてくる。
大ぼら、はったり、自信たっぷり。
全ての憂鬱を忘れ、
昼の太陽は自分を照らし、夜の星座に心ときめかす。

哀しい日には・・・


静止画


①小さな形を横にしたり、縦にしたりして悩んでいる夜。

②明け方、彼の夢は理屈っぽさでいっぱいだ。

③倒れ込もうとしている老人がいつもの少年に笑われている。

④これから行く場所を聞きたいのに聞くことができない傍観者の群れ。

⑤晴れることを待っているてるてる坊主、君のことだよ。


諦め

離れていくのは心では無い。
夜が更けていくと微かに冷めたすきま風が、
俺の中に吹き始める。
だが、
離れていくのは心では無い。

たとえば愛するという言葉の意味が無条件に
君を待つことだとするならば・・・

たとえ話は、たとえに過ぎず、俺は今、眠りたい。

月もない灰色の夜空の下で、
一人きりの部屋で、
明日が見えない穴ぼこだらけの自分を抱え、
ときおり、唸り声をあげる風の音を聞きながら。
君を待つ心の温度が融点を割っていく

目覚ましのデジタル時計は音も立てずに刻々と画面を変えて行く。
だが、
離れて行くのは心では無い。
そう思いたい。

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