![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155023750/rectangle_large_type_2_c1f2ccc56b6bd1e8f84a5d77addde71b.jpg?width=1200)
感情が凪だった日
3ヶ月前から、毎月婦人科で生理を止めるための注射を打っていた。
私は月経困難症である。
出血量は大量で 痛みは気が遠のくほど酷く、しかも生理期間は毎回1週間以上続く。10代の頃から生理は憂鬱の種だった。
結婚後 不妊治療をしても無事に子供が産まれる事はなく、私にとって子宮は「私史上、最も残念な臓器」と言わざるを得ない。
不妊治療を諦めてからは長年ピルでコントロールしてきたが、年齢的に生理自体を止める治療を勧められて、この注射にたどり着いた。
簡単に言うと女性ホルモンの値を下げて、生理を起こさせなくするのだそうだ。
副作用として更年期障害のような症状が出る人もいるとのこと。
妊娠の予定もなく、生理のうっとおしさにうんざりしていたので「生理をなくす」という注射は私にとって一筋の光、いや一刺しの光であった。
普段注射針を直視できないほど注射嫌いな私であっても、この時ばかりは喜んで上腕を差し出した。
注射を打ってからも、最初の1ヶ月は不正出血がだらだらと続いていた。
それ自体は不快であったが、喜ばしいこともあった。それは、感情がぶれなくなったことである。
この感情のどっしり感は、生まれて初めて感じるものであった。
一言で表すならそれは【凪】。
感情がホルモンに掻き乱されないというのはこんなに快適なものなのか!と私は大変に感動して、生理がない男性を心底羨ましく思った。
というか、この注射を打つまで、己の持つ情緒不安定さが生理(ホルモン)に関わるものだと全く気づいていなかった。
この【凪の期間】は大変生きやすいものであった。
仕事先でもプライベートでも、落ち込みすぎたり怒ることがまず無かった。いつも平然としていられる。
子供の頃から喜怒哀楽が激しいと言われてきた私が40過ぎて手に入れた、まさかの凪の時。
悟りを開きたかったら生理止めればいいんじゃない!くらい、生理を止めることは悟りへの近道だと思う。(※婦人科の先生曰く「逆に感情が荒立ってしまう人もいる」とのこと)
「こんな穏やかに生きらる時があるなんて」と感激しながら過ごしてきたが、残念ながら3ヶ月目に副作用の更年期障害がやってきた。
私の場合は急激な火照りと発汗だった。ホットフラッシュというやつだ。
火照りと発汗程度ならやり過ごせるのではと最初は軽くみていたが、これがなかなか大変なものだった。
仕事中も、仕事着を脱ぎ出したくなるような暑さに、暑くないのに額から滴り落ちる汗。
雪の降る日に部屋でタンクトップで過ごすほどだった。
さらに、この2月の採血では中性脂肪の値が高くなっていた。
生理を止める注射は、一旦中止となった。
注射は中止になったが、わたしは凪の時を過ごす事が出来てとても良かったと思う。
私の人生にあんなに心穏やかな日々があるとは。
もし何でも欲しいものを与えてやると神に聞かれたら、私はきっと【永遠に続く凪の期間】と答えるだろう。
リュープロレリン注射とわたしの残念な臓器よ、一炊の夢を見させてくれてありがとう。