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プレゼント
心当たりのない荷物が届いた。品名を見るとシャンプーだった。
よくよく宛先を見ると、住所が途中で終わっている上に苗字が間違っている。
だけど大まかな住所は合っているし、名前は私の名前だ。
その間違っている苗字はこの辺にはいないため、誤配送ではなく、ほぼ私宛ての荷物だと思って間違いない。
そうなると購入してもいない品物が届いたということになる。
送り主の会社のHPや口コミを検索してみると、定期購入の販売スタイルで、なかなか解約できない会社だということがわかった。
面倒なことになったなぁと、憂鬱な気持ちになった。
シャンプーの会社に電話した結果、荷物に表記されている「途中までの住所」と「苗字が間違ってる私の名前」で何者かによって契約されていることがわかった。
だけど契約時の電話番号とメアドは私のものではなかったし、支払いはコンビニ決済だったのでカード情報は漏れていない。
とにかく何かの間違いだから解約してくださいと伝えると、解約はできないと言われた。
契約してもいないのに、解約できないのである。
物理法則の及ばない世界が電話の向こうには広がっていた。
「とにかく解約はできないので警察に相談してください。こちらも被害者の可能性があるので」とよくわからないことを言われたので、「念のため情報を確認したい」と伝え、契約時の何者かの電話番号とメアドは手に入れ電話を切った。
次に市の消費者センターに電話して相談すると、とても親身になってわかりやすく対応してくれたものの、やはり「警察に行ってください」と言われた。
とにかく私は警察へ行かなきゃいけないようだ。
お腹の辺りがざわざわしたので、くだらないyoutubeでゲラゲラ笑ってエネルギーを切り替えてから、警察へと向かった。
無差別に送りつけられてるのかもしれないけど、もし誰かの悪意によるものだったらと思うと悲しいし、面倒に巻き込まれている事実も嫌だし、何らかの支払い義務が生じたらと考えると不安だし、何より今日は家でゆっくりする日だと決めてたのに妨害されて不満だった。
このエネルギーに自分を留めるのはとても損なので、警察署までの道のりを歩きながら自分のエネルギーをひたすら切り替えていく。
斎藤一人さんの天国言葉「愛してます・ついてる・嬉しい・楽しい・幸せ・ありがとう・感謝します・許します」を歩くリズムに合わせながら何十回と唱え、見えない存在たちやご先祖さまに感謝を捧げる。
すると、街路樹や道端の草花たちが鮮やかさを増していく。
曇ったヴェールがどんどん剥がされ、世界は輝きを取り戻していった。
私の気分はとても良くなっていったし、太陽も顔を出し始めた。
気温がどんどん上がってきたので、あと2駅分くらいはもうバスに乗っちゃおう、とバス停で足を止めると、ちょうどバスが来て乗ることができた。
落ちた気分と波動を元に戻したら、きちんとシンクロしていく世界に戻れた気がして、さらに感謝の言葉をマスクの中で呟いていく。バスの窓から警察署の建物が見えてきた。
警察ってすごい、と思ったのは、やはりその問題解決能力の高さだ。
事件や問題を扱う機関だからこそ、的確なジャッジで「これは事件ですらない」と切り分けることが上手いのだと思う。
ひろゆき並みの論破力と行動力で、問題も私の不安も一瞬で蹴散らしてくれた。
面倒くささと憂鬱さから解放された私は、晴れ晴れと警察署を後にして駅を目指した。
気分はいいし気持ちも軽くなったので、再び感謝の言葉をマスクの中で呟いて歩く。
私が私らしい次元にいられると、道端の植物たちもどんどん話しかけてくれる。
ところが駅へ着くと、乗りたいバスがちょうど目の前で行ってしまったのだ。ちなみに次のバスは40分後である。
あれ、何でだろう?いい状態になっていたはずなのに...?
でもここでも自分の波動を落とさないように「なかなか読む時間が取れなかった本を読む時間ができた」ということにして鞄から本を取り出した。
ふと前を見ると、よく知ってる中学生の子がベンチに座っている。私たち親同士が仲良くしてる近所の子である。話しかけると向こうも驚いて、恥ずかしそうに「バスが目の前で行っちゃって...」と言っていた。
その子も買ったばかりの本を持っていたので、しばらく待つね〜なんて話しながらお互い読書の世界に入ったのだが「ママが近くにいるから来てくれる!」ということになり、ご厚意により私も図々しく乗せてもらえることになった。
実はこのママ友さんはARMY友達(BTSのファン)なので、しょっちゅう情報交換をしている間柄でもあって
この日はちょうど前日にオンラインファンミーティング(コンサート)があったばかりだったので、実はその時私が一番会いたい人でもあったのだ。
車に乗り込むなり「昨日すごかったね〜!!」とコンサートの感想を色々シェアして盛り上がり、家まで送っていただいた上にものすごく楽しい時間を過ごさせてもらえた。
さらに「ちょうど渡したいものがあったの!」と言って差し出されたのは新大久保のお土産で、BTSのフォトカードとステッカーを私の分も買ってきてくれていたのだ。
もうありがたいやら感激やらでとにかく感謝が間欠泉の如く吹き上がった。
バスに乗れなかったのは不運ではなく、素敵な時間のプレゼントだったのだ。
思わずこのママ友ファミリーの末永い健康と幸せを祈ってしまったし、鮮やかに解決してくれた警察の方の健康と幸せも祈った。
そもそもこの嬉しい時間を逆再生で辿ると、消費者センター、シャンプーの会社、注文していない荷物、と順々に脳裏に浮かんだので、私の情報に似せて契約したうっかり八兵衛のことも含めて、登場人物みんなの幸せもまとめて願った。
人は天が裁くものだから、それでいいのだ。
私の仕事は私でいること。それ以上でもそれ以下でもない。
誰かの幸せを祈ることは、祈れる時点で自分へのギフトだと思うし、
一見すると不運に見えるところから愛を探し出すことも、実は私たち人間に贈られたプレゼントなのだ。