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連載小説「光と影」第2章 米国へ:17二人の時間
ユナはアメリカの生活に慣れていた。もともと英語が話せた彼女は、適応することは一瞬であった。
富雄も毎日の生活と仕事に追われるだけであった。特別ユナを恋人のように接することはなかった。ユナもそれ以上を望むことはなかった。
それでも、アパートの一室で、そして職場で常に共に寝泊りしているにも関わらず、二人の関係はそれほど近くならなかった。
連載小説「光と影」第2章 米国へ:16 二人の生活
アメリカでの新たな生活が始まった。今まで一人で生きてきた富雄の生活は一変していた。
同じアパートに異性がいる。ユナが韓国でも日本でもない、このアメリカに来ることは、想定していなかった。富雄にもそれを解釈することに、相当な時間がかかった。急激な展開にある面、たじろいでいた。
富雄は初めて女性を知った。彼の知っている女性は母と五つ年上の姉。そして祖母であった。交際した経験もない彼には、女性と
連載小説「光と影」第2章 米国へ:15 空港からの電話
富雄は気分がよかった。毎日がどこか希望に満ちていて、幸せであった。
ユナの手紙の中の聖書の引用文がそうさせたのか、それともユナの米国行きがそうさせたのか、彼自身には判別しなかった。
単純に言えることは、雲がかかっていた闇から解放された気分であるということである。
富雄は生まれて初めて、自分が価値ある人間でると認められたようでもあった。
連載小説「光と影」第2章 米国へ:14 あなたは光
富雄は鳥のさえずりで目を覚ました。
カーテンを開けると、日差しはやさしかった。そして、窓の隙間から冷たい風が入ってくるのを感じた。
アメリカの生活で彼の心を慰めてくれるものの一つに鳥のさえずりがあった。鳥の種類も多かった。
そんな鳥のさえずりが、どこか希望を運んでくれる幸福の鳩のようにさえ感じた。
連載小説「光と影」第2章 米国へ:13 理想の国の光と影
富雄はサンフランシスコでしばらく様子を見つつ、同僚の無事を確認した後で、どうするかを決めることにした。数日後ようやく連絡はつながった。同僚はみな無事であった。本社がワシントンにあり、ワシントンで過ごしていた彼らは、幸運にもテロの被害は逃れていた。
しかし、彼らだけでなく、アメリカ全土は悲しみに暮れていた。それは、ワールドトレードセンターやハイジャックの飛行機で犠牲になった犠牲者とその家族はか
連載小説「光と影」第2章 米国へ 12:同時多発テロの勃発
富雄はラスベガスに着いた。街はどこかひっそりとしていた。
すぐに彼はネットのつながるカフェに入った。そこではすでに人だかりがあった。テレビの前にみなそのニュースにくぎ付けになっていた。
ある者は叫び声をあげ、そこから立ち去るものがいれば、ある者は茫然とその場に立ちすくんでいた。
連載小説「光と影」第2章 米国へ 11:自然への畏敬
セントルイス、カンザスシティーに寄り、数日を過ごした。そこから西へと高速道路70をひたすら走り続けた。
当面はラスベガスを目的地としていた。
ラスベガスに入る前に、グランドキャニオンに寄るという計画を立てた。道なりにとにかく走りつづける時間と日々が続いた。
周囲の景色は当面はかわらなかったが、徐々にごつごつとした岩や砂漠に変わっていた。見たことのない景色が目の前に現れては消えた。周りは
連載小説「光と影」第2章 米国へ 10:発砲事件
当面の目的地であったシカゴへ向かっていた。富雄はシカゴで観光の時間を費やそうと思っていた。
ドライブ中に彼はラジオを付けたり、音楽を流すことが多かった。ラジオは彼にとって唯一の情報源でもあったからだ。
シカゴを目の前にしたときであった。ラジオのニュースに恐怖を覚えた。
シカゴで連続無差別発砲が起こっているということである。
アメリカにきて初めて銃の発砲事件を目の前にしているのである
連載小説「光と影」第2章 米国へ 9:移民と労働
富雄とキムは夜の8時に待ち合わせ場所であるドーナッツショップで再会した。
「キムさんの家はこの近くなんですか。」
「そうですね。オーナーの家で間借りをしてるんですけど。」
「じゃ、奥さんと子供はどこに?」
「はい、妻と子供達は実はニューヨークにいます。もともとそこが彼女の仕事場なので。一緒に住めればいいのですが、まだ事情が許さなくて。」
「そうですか。奥さんはニューヨークで仕事をし
連載小説「光と影」第2章 米国へ 8: 日本食レストランの韓国人
インディアナポリスは、以前工場が立ち並ぶ工業都市として栄えていた。しかし、現在は閉鎖された工場が置き去りにされている。
富雄はインディアナポリスを目的地としているわけではなかった。実際はその先のシカゴが当面の目的地ではあった。
高速を降り市内に入り、車を走らせると、日本食の看板が目についた。富雄はすぐに車をその食堂に駐車させた。もちろん、日本人が経営しているとばかり思っていた。
中に入
連載小説「光と影」第2章 米国へ 7:白人と黄色人種
その晩、富雄はふとメキシカン料理店で出会った白人の女性のことを思った。彼にとって白人の女性と接し、会話を交わしたのは初めてであった。それゆえか、かなりのインパクトがあった。
青い目。金髪の髪。そして快活ぶり。彼にとっては、このアメリカ旅行に匹敵するほどの、衝撃でもあった。
さらに、
「どうして、こうも、肌の色つやが人種によってことなるのか。どうして、目の色が違うのか。髪の色が違うのか。
連載小説「光と影」第2章 米国へ 6:コロンバスの女性
気分の良い朝を迎えた。そして一路シカゴへ向かった。
ハイウェイはどこまでも続いた。まっすぐに道は続く。
アメリカの広大な大地が広がる。晴れ渡る空。雲が流れていく。
しばらくすると、街並みが見えてきた。アメリカ中部の都市・オハイオ州のコロンバスである。コロンバスは中西部の最大の都市といわれる。小さいが、なぜか都会の雰囲気につつまれていた。