One Morning
朝7時、我が家にはバターのいい香りが立ち込めていた。
最近君がパンを焼くことにハマって、休みの日は早起きをして焼き立てのパンを朝食に出してくれるようになったからだ。
目覚ましのやかましいアラーム音では無く、それだけで空腹を満たすどころかますますお腹が減ってくるその香りが最近の僕の目覚まし代わりだ。
「おはよ、ちょっと手伝ってよ」
可愛らしい花柄のエプロンを見に纏った女神は、寝起きの僕を台所に誘った。
今日は甘いのとしょっぱいのを作るそうだ、君はシナモンパンを作り、僕はベーコンパンを作る。
ライ麦を混ぜ込んだ生地はもうすでに香ばしい香りを放っていて、起き抜けの僕の腹はぐぅぐぅと音を鳴らす。
ケラケラと僕の腹の音を聴いて君は笑う、少しだけ恥ずかしくなってベーコンとパン生地を巻くスピードが上がる。
そう言う君はシナモンの粉を吸い込んでしまったのか顔をクシャッとさせてむせていた。
お返しに笑ってみると君もケラケラとまた笑って、そうしてあっという間にオーブンの天板の上には美味しそうな光景が広がる。
予熱したオーブンに天板を入れるとここからはしばらく休憩の時間、僕は早起きしてくれた君のためにコーヒーを淹れる。
ミルに豆を入れてゴリゴリと砕くと、これまたいい香りがする。
少し濃いめに淹れたコーヒーをゆっくりと飲みながらパンが焼けるのを待つ、庭に差し込む朝日が柔らかいから多分今日はよく晴れるだろう。
「なんか得した気分だね」
早起きをすると1日が長い、せっかくの休みの日だからどこかへ出かけようか、お昼はどこに食べに行こうかなんて話しているとオーブンのアラームが鳴る。
君がパンの焼き上がりを見てニコッと笑ったのを見て、僕は付け合わせのサラダを作り始める。
とは言ったもののレタスをちぎってタマネギをスライスして切ったトマトを乗せた簡単なものだけど、美味しいパンには余計なものはいらないのだ。
今日は一段と上手く焼けたみたいだ、焼きたてのパンを頬張る君の笑顔が僕の心を満たす。
そんな特別な朝、ここから僕たちの1日が始まる。
今日はどんな1日になるんだろうか、君が笑ってくれていれば、それだけでなんてことのない1日が最高の1日になる。
憂鬱な梅雨の晴れ間に僕はお腹いっぱいの幸せを感じていた。
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