Friend Ship

「ちょっと!聞いてんの!?」
顔を真っ赤にして机をドンと叩きながら彼女は怖い顔をして僕に言う。
かれこれ1時間ちょっとこんな感じで、特に今日は激しくて言い出しっぺの僕も流石に参ってきていたところだった。
「ったく、それでさ…」
相当溜まっているとは思っていたが…まさかこれほどとは。
何やら思い詰めた顔をしていたから飲みに誘ってみたらこれである、凄まじいマシンガントークと止まらない酒、透き通るような白い肌が今では茹で蛸、いやもはや酢蛸か、と想像したら面白くなって一人で笑ってしまった。
「…なぁに笑ってんだっ!」
いかん、逆鱗に触れたようだ。
彼女の怒号にも似た声が響き渡るが、週末で賑わう居酒屋では、これもまた喧騒の一つになっていた。

ひとしきり捲し立てるように愚痴をこぼして酒を飲んだ彼女は酔っ払って机に突っ伏してしまった。
「大丈夫?水飲む?」
返事はなく、その代わりに彼女はスースーと寝息を立て始めた。
僕は一息つくと追加で一杯ビールを頼んで一人静かに飲み始めた、こうなると多分なかなか起きないのを知っているからだ。

彼女の終電の時間が近づく、僕は彼女をそろそろ起こすことにした。
「ほら、電車無くなっちゃうよ?」
いつもならここで起き上がるところだが、今日は飲んでいた量が違った、これがなかなか起きない。
体を揺すっても反応無し、刻々と迫る時間を他所に彼女は気持ち良さそうに寝息を立てている。
とっくに終電の時間が過ぎた頃ようやく目を覚ましたが、寝ぼけ眼で全く動こうとしない。
僕は諦めて会計を済ませて動こうとしない彼女をおぶって居酒屋を後にした。
幸い僕の家ならここからそう遠くない、丁度よく通りかかったタクシーを捕まえて、力ない彼女と一緒に家路に着いた。

家に着くと彼女をベッドまで運ぶ、もうこれはどうしたって起きないぐらいに深く深く眠っている彼女を寝かせると、せめてジャケットぐらいはシワにならないようにと脱がせて布団をかけた。
それにしてもこの華奢な体でどれだけ溜め込んでいたのだと少しだけ不憫に思った。
責任感が強く、与えられたことに対していつも全力な彼女は会社の中でも一目置かれていた、それが故にめんどくさい奴らにも目を付けられることが多かった。
その度にいつも実績で黙らせていた彼女は僕には強い人に見えていた、でもたまにこんな彼女を垣間見ると誰しもただの人間で見えないところで踏ん張っているんだよなと再確認させられる。
お疲れ様と小さな声で言うと僕は寝巻きに着替えて少し硬いソファーで眠りについた。

朝ごはんを作っていると匂いに釣られてかのっそりと彼女が目を覚ました。
「おはよう」
「…またお世話になってしまいまして、すみません」
「もう慣れっこだよ、シャワー浴びてきな、着替え置いておくから」
「…お言葉に甘えて」
二日酔いで頭が痛いのだろう、ゆっくりと立ち上がって少しふらつきながら彼女は風呂場に向かっていった。
僕はそれを見届けて、味噌汁の準備を進めた。
二日酔いには昔から味噌汁と決まっている。

「はぁ、生き返る…」
少し大きめのスウェットに着替えてすっかりさっぱりした様子の彼女はもう味噌汁を三杯も飲んでいる。
「ありがとね、いつも」
「ううん、いつものことですから」
「うう…優しさが沁みる…」
そう言って彼女は四杯目の味噌汁を飲み干した。
「もう一眠りしたら?休みの日だし、それに相当飲んでたから頭も痛いでしょ?」
「…では、お言葉に甘えて…」
そうして彼女はまたベッドで眠りについた。
今度は健やかな寝顔だった、多分夕方まで起きてこないだろうなと言うぐらいぐっすりと眠った。
僕は一服でもしようかとベランダに出た、今日の天気は五月らしくポカポカと穏やかだ。
ふと、こんな関係を側から見たらなんと言うのだろうか、と少しだけ考えて僕はたばこに火を付けた。
暖かい日差しを浴びていると彼女の寝息が少しだけ聞こえてきた。
なぜか口を尖らせて眠っているのに気付いて、僕は一人で笑った。

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