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暖かいかもしれない
冬の海は気持ちが落ち着く気がする。
逆に夏の海は無条件でテンションを上げざるを得ないのがあまり好きじゃない。
灰色の空の下で海は静かに波音を立てているのが心地よくて、この世界には私しかいないんじゃないかと思うぐらいのささやかな静寂に私は包まれた。
ただ、寒さには耐えられず鼻をずずっと啜ったら、少し離れたところから手を振って、近場のコンビニで買ったおでんを携えた君が来た。
冬の海に行きたいなんて風変わりだね、と言いながら隣に腰掛けておもむろにがんもどきを頬張り、そのあまりの熱さに悶える君を見てバレないようにマフラーに顔を埋めて笑った。
今はふたりの世界だ。
他には何もない、強いて言うなら熱々のおでんが私たちのお供だ。
ぼーっと水平線を眺めていたら、急に頭の上下を手で挟まれた。
どら焼き、としたり顔で言う君を見て今度は隠さずはははと笑った。
体を芯まで冷やす風が、なぜか心地いいなと感じたのは多分おでんのせいではない、と思った。