Date

「なぁ〜なぁ〜、はよ起きて〜」
遠くから誰かの声がする。
微睡の中で、段々と頭が覚醒していく感覚と一緒に視界が開けると彼女が頬を膨らましていた。

「おはよ」
「おはよう、起きた?」
「うん、ありがと」
「もぉ〜、今日デートや言うたのそっちやで?」

そうだった、今日はデートに行こうって僕から誘ったのだった。
昨晩は少しお酒を飲んで、心地よく微睡んでいるうちに眠ってしまったみたいだ。

「ほーら、早く布団から出て、準備していくでー!」
無理やり布団を剥がされていそいそと準備を始める。
だんだんと意識がはっきりしてきた時に気付いたのは彼女のポニーテールだった。
この髪型は僕が1番好きな髪型だ、多分気合いの表れなんだろうなと思っていたらどうやらニヤついていたらしい。

「なーにニヤついてんねん、デートの日や言うのに寝坊助でもう…」
「ごめん、いやさ、ポニーテール、可愛いなって」
「…ほんま!?嬉しい!」

どうやら機嫌が取れたようだ、子供みたいに目の前で結った髪をブンブン振り回している。
その光景を見ていたらまたニヤついてきた自分がいたから急いで洗面所に行って顔を洗った。


「さぁ、今日はとことん付き合ってもらうで〜」
意気揚々と軽くスキップで少し先を行く彼女をゆっくりと追いかける。
この前の看病のお礼に今日はとことん買い物に付き合う予定だ。
電車を乗り継いで少し大きいモールへ、寒くなってきたから新しいコートが欲しいそうだ。
日差しがある分まだ暖かい今日はトレンチコートに身を包んでいて、少し大人びて見える。
「ほら!早よ歩かんと置いてくで〜!」
周りを気にせず僕に大声で呼びかける、周りから見れば僕たちは休日にデートを楽しむカップルそのものだろう。
何故かそれが嬉しくて、僕は知らぬ間に早足になっていた。

「ちょっと奮発してしまったなぁ、でも可愛かったし似合ってたやろ?」
新しいコートが入った大きな紙袋を抱えて嬉しそうに彼女が微笑む。
重たそうだから持つよと言ったけれど、頑なに自分で持つと言って聞かなかった。
大切なものは自分で持つと言うのが信条らしい。

「お腹空かない?ご飯食べに行こうよ」
「たしかにお腹ぺこぺこやわ〜、晩御飯はそっちの好きなやつでええで、今日は1日連れ回したからなぁ」
「…そしたらさ、行きたいところあるんだけど」

そうして連れていたのは最近家の近くに新しくできたお好み焼き屋だった。
彼女の好物はたこ焼きだけど、今日は僕の好きなものに付き合ってもらうことにした。

オーソドックスに豚玉と、海鮮焼き。
なんでもあまり小細工してないものが美味いのだ。
ジリジリと生地が焼ける音が耳に心地よい。
まだかまだかとそわそわしている彼女は「もうええんちゃう?」としきりに催促するが、じっくり待つ。
良きタイミングがやってきたところで僕はヘラを2本、手に持ってひっくり返しにかかった。

「腕の見せ所やな、期待してんで?」
何故かえばって腕を組む彼女をよそに僕は失敗しないように、丁寧にお好み焼きをひっくり返した。
さっくりと焼けた生地の上にカリッと焼けた豚肉が良い色で、我ながら良きタイミングだったなと思った。
ほわ〜と嬉しそうに少しだけ歯を見せながら笑う彼女に早く食べさせたくなって手早くソースとマヨネーズを塗り、青のりを振る。
切り分けたお好み焼きをお皿によそう。
ヘラでは食べないのと聴いたことがあったが、火傷してしまうからあまり好きじゃないと彼女は言っていた。
まだ鉄板から移して時間が経っていない熱々のお好み焼きを一口頬張ると、彼女はハフハフと顔を歪めている。

「…うんま!なかなかやるやん!」
またしても僕よりも誇らしげに微笑む彼女を見て、熱々だったことを忘れて僕も頬張ってしまった。
ハフハフする僕を見て彼女が声を出して笑う、心地よい時間が過ぎていく。
なんでもない、でも特別な1日が心を満たす。
ゆったりと過ぎる時間を少し焦げたソースの匂いとともに、噛み締める。
何があっても彼女が笑っていたら、僕はきっと大丈夫なんだと、そう思う。

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