Coming of Age

なんてことない1日のはずなのに、朝からソワソワしているのは何故だろう。
妙にパリッとした姿に身を包んで、僕は地元から駅2つ分離れた場所にある市民会館へと向かっていた。
そうだ、何を隠そう今日は成人の日。
いわゆる僕は新成人というやつだ。

都内の大学へ進んだ僕はこの日のために生まれ故郷である大阪に帰ってきていた。
すっかり関西弁が抜けて標準語になってしまった僕は少しばかり久しぶりに会う人たちと話すのが気恥ずかしいところがあった。
見渡せば見知った顔だらけで、でもみんなあの頃の面影を残しつつ少し大人になっていて、それもまた小っ恥ずかしい。
都会に染まったなぁなんて冗談を交えつつ、会場に入るとその年ともに成人を迎える20歳の男女がたくさんいた。
僕はと言うと無駄に長い市長の話も、新成人代表のありがたい言葉もそこそこに目線をチラチラさせて誰かを探していた。

結局見つけることができず、会場を後にしようとした時に遠くから大きな声でおーいと聴こえたものだから、その声が聴き覚えのある声だったから、振り返ると彼女がこちらに駆けて来ていた。
履き慣れないブーツに転けてしまいそうになりながら、息を切らせて駆け寄る彼女に僕も自然と足が向いた。

「久しぶり」
「久しぶり〜、元気やった?」

変わらない、ここまで人は変わらないで居られるものだろうか。
あの頃のように変わらず花が咲いたような笑顔で彼女は僕の目の前に立っていた。
山吹色の振袖が大人っぽいが、表情はあの頃のままで少し安心した。

「帰ってきてたんや、探したんやで」
「俺も、全然見つけられなかった」
「ぎょうさん人おるもんなぁ、でも会えてよかった」
「俺も、会いたかった」

別に恋仲であったわけでも今あるわけでもないのだが、幼馴染という縁は根深いもので、妙に安心したのを覚えている。

「振袖、いいじゃん」
「せやろ〜、似合うやろ〜」

ピンクやむらさき、派手な色が目立つ中で彼女の振袖はとても穏やかで、それがまたよく似合っていた。

「いつまでこっちいるん?」
「今夜の新幹線で戻るよ、明日授業あるし」
「そうなんや〜、寂しいなぁ…」
「俺も、なんかもっと早く会いたかったなぁ」
「…恋しかったん?」
「そんなことな…」
「私は、寂しかったで?
 …恋しかったで?」

ニヤニヤしながら聴いてくるから、変に強がってそんなことないと言おうとした僕の言葉に被せるように彼女はそう言った。
急だったから、何も言い出せなくなった僕の代わりに彼女はまた話し出した。

「ずっと一緒やったんに、急におらんくなるから…私は寂しかったで?」

会えない距離じゃない。
でも、僕らを隔てるには十分な距離だったんだろう。
僕にも向こうで友達もできたし、休みの日に気軽に遊びに行ける"親友"のような間柄の人もできた。
しかしながら、もっと近くにいた彼女のことがどこか頭をよぎる時がいくつもあった。
このアイスを食べたらどんな顔するかな?とか、彼女でもないのに、考えてしまう僕がいたのは否めなかった。

「いつでもこっち遊びに来いよ、待ってるから」
「ほんま?」
「うん、案内するよ」
「じゃあ、近いうちにデートやな?」
「デートって、そんな大袈裟な…」
「大袈裟やないで、うちはそういうつもり、嫌?」
「…ううん、正直嬉しいかも」

やったーと小躍りする彼女の笑顔はやっぱり花が咲いたように満開だ。
積もる話も沢山ある、人がガヤガヤしている密集を抜けて、僕たちは勉強会によく使っていた行き慣れた喫茶店に入ることにした。
苦いのが苦手だったのにカッコつけてブラックを頼んだ僕は後で散々彼女に笑われるのだが…これはまた別のお話で。

大人になるってよく分からないけど、今日僕の中で何かが動き始めた。
噛み合った歯車は過ぎた時間を取り戻すかのように、楽しい笑い声と一緒に動き出した。

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