◆ 話のネタ ◆ No.22『愛はかげろう』人生で一番悲しかった時
雅夢(がむ:男性2人のフォークデュオ)の『愛はかげろう』という曲は、中高年の方は、ご存知だろう。 私が、大学3回生の時、大ヒットした曲で、私の人生の中で最も悲しかった時の曲です。
大学2回生の冬、友人 I 君が「誰か、A町で家庭教師する奴は、おらんか? お医者さんのお嬢さんで小学4年生や」 「A町は、大学から30kmは、あるけん車持っちょる奴しか、無理じゃのぉ」
「S(私の事)、お前、車もっちょるけん、行けるんじゃないんか?」 「行けるけど、今、家庭教師2つやっとるけぇ、よっぽど条件が良うないと
A町まで行かんで」
「お医者さんだから、条件は、ええと思うけん、1度その家に行ってみてもらえんか?」
「まぁ、ええよ」
私は、軽い気持ちで引き受けた。
2月の寒い日曜日で朝から雪が積もり、その家から
『車は、危ないので電車で来るよう』電話があり、車なら1時間のところを
2時間半かけて電車で訪問した。
医者であるお父さん、詩人のお母さん、長女Bちゃんと5歳下のCくんの4人家族だった。
「雪の中、わざわざお来し頂きありがとうございます。まず、少し娘の勉強を見てやって下さい」との事だったので、1時間、Bちゃんの勉強ぶりを見ました。
その後、お父さんとお母さんに食事をすすめられ、たくさんご馳走とお酒をよばれたころ、「娘の状況は、どうかね?」と訊かれ、
「酔っ払ったので、自分で自分の首を切るようなことになるかもしれませんが、正直、お嬢さんには、家庭教師は不要です!」
「う~ん 実は、我々も娘が勉強ができないとは、思っていない。 ただ、喘息で学校を頻繁に休むので、勉強が遅れると気にしてはいけないので、そばで、見守ってやって欲しくて、家庭教師を探していたんだ」
ということで、毎週水曜日 2時間、おやつ&夕食付きで、40年以上前でしたが、1回5千円(内ガソリン代 千円)という破格の条件で小4の女の子Bちゃんの家庭教師をすることになった。
Bちゃんは、明るくかわいい子で非常に頭のいい子だった。 ただ、小さいころから喘息で苦しんでおり、これまで何度も入退院を繰り返していた。
お父さんのお話では、「女の子は、思春期を迎えると体質が変化するので、それに伴い喘息もだんだん快方にむかうことも多い」とのことであり、小4の冬~小5にかけては、学校を休む頻度も随分減っていた。
Bちゃんは、学校でも人気者で、友達も多く、”ゲロゲロ新聞”という学級
新聞を作っていろんな記事を書いており、その頃、はやり始めていた
雅夢の『愛はかげろう』という曲が、大好きでその記事も載せていた。
家庭教師も順調に続いて、小6になった春、雅夢が最寄りの都市に
来ることになった。 Bちゃんは、お母さんに、「雅夢のコンサートに
行きたい 行きたい! 行きたい!!」と強く何度もせがんでました。
4月から喘息も安定して、一人で歩いて学校へ通えるようになり、お母さんも喜んで 「それじゃ、このまま一人で学校に通えたら6月14日の雅夢のコンサートに連れて行ってあげる💛」と約束して、こっそり、Bちゃん、Cくん、お母さんの3枚のチケットを購入した。
Bちゃんは、それからも、毎日1人で、頑張って学校に通っていました。
そのころ、「雅夢のお兄ちゃんにあげるんだ ♬」と言って、フェルトで雅夢の三浦 和人さんと、中川 敏一さんのミニ人形を作り始めており、家庭教師に行く度に少しずつ出来上がるかわいい人形を私に見せてくれていました。
5月のある日、Bちゃんは、突然、ひどい喘息の発作を起こし自宅で倒れてしまいました。 お父さんの病院から自宅まで車で15分かかり、お父さんが駆け付けた時には、呼吸が15分停止し意識不明でした。 すぐに応急処置をし、30km離れた大学病院の集中治療室に運ばれ、面会謝絶となりました。
私は、お母さんから電話で「あんなに元気になっていたBちゃんが、意識不明で面会謝絶・・・・!! 」とただただ、驚くとともに・・・・
『何かできないか?』 考えてみたのですが、面会謝絶の集中治療室・・・・まったく無力な自分に情けなくなりました。
それで、当時付き合い始めていたK子さん(今の妻)と一緒に、父のお墓の前で地面に正座し、ひたすらBちゃんの命をお助け下さいと祈ることしかできませんでした。
お母さんからの電話で「意識が戻らないけど、あれだけ雅夢のコンサートを楽しみにしていたので、Bの手にチケットを握らせているんです・・・・どうか、意識が戻りますようにと祈りながら・・・・」
コンサート数日前、お母さんから「先生、娘の意識は、まだ戻らないけど、あれだけ、楽しみにしていたので、Bの代わりに行って下さい、
弟のCを叔母が連れて行きます。 6月14日18時半に会場入口で、待ち合せて・・・・・・」と連絡があり
「わ、わかりました、Bちゃんの代わりに行かせて頂きます」
私は、何かできないか一生懸命考えて、Bちゃんの為に、雅夢のLPを買ってサインをしてもらおう! そうすれば、意識が戻った時に、とても喜んでくれるはずだから・・・・
と思い、コンサート当日の14時頃、LPを購入してコンサート会場に入り、雅夢は、まだでしたが、若い女性マネージャーに事情を話すと
「そういったご事情でしたら、雅夢は、サインをしてくれるので、LPをお預かりします」と引き受けてくれたのでした。
この女性は、後に三浦さんの奥さんとなった人でした。
私は、嬉しくて、嬉しくて、面会謝絶でしたが、大学病院に行って、Bちゃんに『雅夢がLPにサインしてくれる、今日は、Bちゃんの代わりにコンサートに行って、しっかり聴いて来る』という報告をしたくて16時頃、K子さんと一緒に大学病院を訪れた。
「すいません、面会謝絶とは聞いているのですが、Bちゃんの病室は、どこでしょうか? ご家族の方と面会ができれば・・・・」
「・・・・・・ ・・・・ あのぉ、・・・Bさんでしたら、本日お亡くなりになり・・・ご家族とご自宅にお帰りになりましたけど・・・・」
「・・・・・・ えっ、それは、いつですか?・・・」
「・・・今朝10時です・・・」
私は、頭の中が、真っ白になりました。
今のように携帯電話はありません、
18時半には、コンサート会場で、チケットを持った叔母さんと弟のCくんと待ち合わせになっているので、行くしかありませんでした。
・・・・・一体、どんな言葉をかければいいのか?・・・・・
会場入口で、Cくんと叔母さんを見つけた私が、
「この度は・・・・・」と言いかけると
叔母さんが、Cくんに見えないように、人差し指を唇に当て
「まだ、Cは、Bの事を知りませんから・・・・」とささやいた。
あぁ、1日中、Cくんの面倒を叔母さんが見ており、おねぇちゃんが、亡くなった事は、まだ伝えていないんだ・・・・・・
そして、雅夢のコンサートが始まった。
会場の真ん中あたりの席で、叔母さん、Cくん、私の順に並んで
コンサートを聴いてました。 雅夢の最初のコンサートツァーで
ヒット曲は、デビュー曲の『愛はかげろう』だった。
いよいよ、最後の曲となった時、三浦さんが、
「本日は、皆さんにお伝えしたいことがあります・・・・
それは、僕らのコンサートを非常に楽しみにしてくれていた
小学6年生のBちゃんという女の子がいます。
・・・Bちゃんは、小さいころから重い病気と闘っていて、
大変残念ながら ・・・・
今日この会場に来ることができませんでした ・・・・
今も一生懸命病気と闘っています ・・・・
今日は、Bちゃんの為に、この歌を歌います。『愛はかげろう』!」
Bちゃんのお母さんが、今日の状況を雅夢に電話されており
『何も知らない弟がいるので、亡くなった事は、告げないで欲しい』
と依頼されていたのでした。
♬ 窓ガラス 流れ落ちてゆく雨を
細い指先で なぞってみる
くもりとかして すべる指先に
伝わる冷たさ 心にしみる
忘れ去られた 部屋の片隅
貴方の影 今もゆれている
『愛はかげろう』つかの間の命
激しいまでに 燃やし続けて
別れはいつも 背中合わせに
人の心を ゆらして
別れ言葉を 口にする貴方は
いつもとちがって やさしすぎた
はき出すタバコの 煙の影が
教えてくれた 偽(つく)り言葉と
あつく いだかれた日々を
倖せと言えば かなしい
『愛はかげろう』さめきった愛の
過ぎ去る後に 残るものは
いつも 女の乾いた涙
さまよい歩く 迷い子
『愛はかげろう』つかの間の命
激しいまでに 燃やし続けて
別れはいつも 背中合わせに
人の心を ゆらして ♬
歌:雅夢 作詞・作曲 三浦 和人
『愛はかげろう』が始まると、失恋の曲ですが、悲しいメロディー、
歌詞がBちゃんと重なり涙が止まりませんでした。 横に何も知らないCくんが居るので、声を出すわけにいかず、とうとう耐え切れず曲の途中で席を
立ち、会場の一番後ろの隅っこにへたり込んで、号泣しつづけました。
曲が終わって、一瞬シーンとなった後、大きな拍手が鳴りやまず、
満席の観客は、アンコールを求めました・・・・・
それにもかかわらず、雅夢の2人は、非常に不機嫌そうな引きつった表情で、ステージをサッと後にし、鳴りやまないアンコールの拍手に答えることは、ありませんでした・・・・
後日分かったことですが・・・
コンサート終了後、会場から、Bちゃんの自宅まで30kmもあり、
きちんとした地図もなく、夜間で非常に分かりづらい家を探し出し
夜10時過ぎに、雅夢の2人は、Bちゃんの家に到着しました。
・・・Bちゃんの棺の横で 『愛はかげろう』 を歌ってくれたのでした・・・
・・・・・雅夢のギターには、Bちゃんが一生懸命作っていた未完成の
人形が、ゆれてました・・・・・
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