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ひとり森で潜水艦  26基礎作り①

月と森のサブマリン

前回、
建築確認証が届いた時の、
心の奥底に眠るバケモノが目覚めた。
そう、
心の奥深く深層のイドの怪物。
だが奴は…。
再び心の深底でグーグー。
…。
となれば、
建築許可が出た今、
次は、
トンカチだ。
いくぞ。
ひとり森で潜水艦。
ブクブク。
…。
まず基礎。
大地に根を張る基礎。
大地に?。
そう。
脆弱な基礎では、
ピサの塔が傾いたように、
ドバイのブルジュ・ハリファだろうが斜塔になる。
となると、
…。
どんなに立派な建物でも、
地震や風圧、シロアリ、その他いろいろな敵に、
グラリと傾き、
崩れ落ちる。
ドドーンとな。
で、なにすればいい?。
建てる地盤を調べる。
地盤?。
そうだ。
軟弱なのか強固なのか?。
…。
調べました。
早いな。
幸い建築予定の大地は扇状地にあり、
地下には、
巨大な岩が隙間なくゴロゴロと眠っている強固な地盤と分かりました。
本当か?。
はい、
だから基礎穴を掘るのに苦労し、
運命の巨神兵を買う事になったのです。
…。

なるほど。
巨神兵の購入理由のひとつがそれか。
…。
さて、
基礎など造った事がないから、
どう作るのか、
…。
あれこれ調べた。
なるほど。
…。
まずは型枠作りが必要です。
なんだその型枠ってのは?。
コンクリートは固まる前は、
ドロドロの生ビールなんです。
生ビール?。
セメントという石灰石や粘土等々を焼いて粉にしたものと、
砂やジャリに水を入れ混ぜたもです。
だから、
ある意味半液体なのです。
ほ~半魚人…。
この生コンを型枠に流し込むと、
水和結合という化学反応により、
生コンクリートは凝固する…らしいです。
なるほど。
さらに、
型枠は強固に作らないと破裂するといいます。
破裂?。
生コンの比重は2グラム/立方センチ。
水の倍か。
そうです。
1.5mの高さの型枠に生コンを流し込むと、
下部の生コンの圧力が半端無いのです。
どのくらい半端ないのだ?。
計算すると…。
バチバチ…。
出ました。
生コンを流し込む上面から下方1.5mの部分に、
もし艦長が型枠の板になって打ちつけられると、
打ちつけられる?。
そうです、板になりきって打ち着けられていると想像してください。
しょうがね~な~。
で?。
すると、艦長の胸の面積はおよそ、
約50㎝×50㎝ぐらいですから、
その部分に7.5トンの力が加わります。
え~7.5トン。
ホントか?。
マンモスに踏まれてるじゃね~か。
そうです。
つまり、その力で型枠を押し広げようするわけです。
そりゃ適当な型枠じゃ-バンっだな。
ハイ。
となると強度が必要となるわけか。
ハイ。
…。
というわけで、
型枠の作り方を研究した。
あれこれ…。
ふむふむ…。
さて、
自前の材料は、
以前熱くなって、
盲目的に自作製材機まで製作し、
成功と失敗を繰り返して製材した、
あの、
厚さ4㎝の赤松の板。
あれを使おう。
一般的には、
型枠はコンクリートが固まったら外す。
だが、
それでは折角自作した赤松の板がもったいない。
となれば、
そのまま貼り付けたままにすれば、
取り外す面倒もなく、
外部は外断熱にもなり、
基礎内部は板張りの壁となる。
…。
すばらしい。
板張りの壁ができちまう。
一石二鳥だ。
やったな。
ははは…。
なかなか良いアイデアだ。
…ですが、
外部の地面に接している部分は湿気で腐敗菌にやられますよ。
それに、シロアリにも狙われます。
そうか、それは弱った。
何かいい方法はないか?。
あります。
防腐剤を塗り、
基礎の回りに外気が通る空間を作れば良いと思います。
なるほどスパシーバ。
ありがとうございます。
さらに考えました。
何んだ?。
型枠破裂を防ぐ方法です。
プロは破裂を防ぐ為に、
両側の型枠同士を直径5ミリ程の鉄棒で連結し、
ナマコンが型枠を広げようとする力に対抗させます。
そうか、
その手があるのか。
なら、
赤松の板型枠も長いナットをボルトで固定すればいい。
ハハハ。
やったな。
ハイ、
しかし、問題もおきます。
どんな?。
この鉄棒はコンクリート内部に残存する事になりますが、
型枠を外した後に鉄棒の端部が外部に露出します。
ほ~。
この露出した部分はそのまま放置すると錆びます。
それを防ぐために、
完成後、生コンを塗り込めるらしいのです。
そうか。
ちょっと待て、、
コンクリート内部の鉄は錆びないのか?。
錆びません。
どうしてだ?。
コンクリートは強アルカリ性なのです。
ん?アルカリだと錆びないのか?。
はい酸性だと酸化されますが、
アルカリだと酸化されません。
なるほど。
…。
なら長いボルトナットで赤松の板を連結して、
型枠を作ろうと一時考えたが…。
ダメじゃないか。
ハイ。
露出しているボルトナットの部分は、
外部の水分と反応して錆びて、
膨らみ、
やがて、
ジワリジワリと、
コンクリートが割れます。
…。
そりゃいかん。
…。
ハイ。
やがて潜水艦の船体に亀裂が入り、
勢い良く海水が艦内に吹き出します。
…。
艦長海水が入ってきました-。
穴を埋めろ-。
吹き出し圧力が強すぎて無理です-。
…。
いやいや深度が深ければ、
一瞬で爆縮(ばくしゅく)します。
爆縮?。
そうです。
あの水深3800mで潰れた潜水艦タイタンの様に…。
なんと千分の1秒という一瞬で潰れ、
内部の人間は痛みも感ずる暇もなく、
血と挽き肉になりました。
…。
や、矢…ヤバイな…。
…。
となると、
型枠の赤松の板を鉄棒で結び、
その型枠を後々まで残すとなると、
鉄棒を生コンで塗り込める事ができないな。
ハイ。
さらに、
金属の熱伝導率が高いため、
夏場、
地下の低温により、
鉄棒が冷やされ、
外部の鉄棒に結露ができます。
そして、
やがてこの鉄が錆び膨らみコンクリートが割れる事になります。
結果、
森の潜水艦は海の藻屑となります。
…。
ブクブクだな。
…。
さらに、冬場鉄棒を伝わり熱が逃げます。
外断熱として赤松の板を残す意味が減ります。
…。
ならどうするんだ?。
…。
ン~ン~。
考えました。
…。
なんだ?。
…。
錆びない、
熱を伝えない素材の棒を使えばいいのではないかと。
あるのか?。
…探しました。
ありました。
直径13ミリのプラスチック棒がネットにありました。
プラスチック棒?。
ハイ。
錆びない。
さらに熱伝導率も小さい。
そうかでも強度は?。
計算してみます。
パチハチ。
でました。
一定の面積に配置すれば、
十分生コン破裂を防げると出ました。
そうか、
だが、
問題は、
そのプラスチック棒で型枠の板をどう止める?。
それがアリストテレスです。
なにパスカルか?。
ハイ。
…。
艦長。
何だ?。
プラスチック棒の先端部分をネジキリして、
ナット状にし、
ボルト締めができるようにすればどうでしょうか。
…。
ええぞ、
ええ~ぞ、
それ。
となれば、
ネジ切り道具だ…。
いろいろ調べていると、
水道管にネジ切りをする道具がネットオークションに格安で発見。
これでプラスチック棒の両端にネジ溝を切り、
そのプラスチック棒を赤松の板に穴を開け通し、
ナットで締めれば、
生コンが押し広げようとする力に対抗できるではないか。
ふふ。
…。
そんな思考実験をアナログ頭で転がし、
いけると判断。
そして、
部材調達。
ネットで水道管ネジ切り装置を落札。

そろったところで、
実際にプラスチック棒にネジ切りをし、
いろいろ実験。
艦長。
何だ?
いけます。
そうか、いけるか…。
…。
そんな事をしつつもと、
休日となれば、
ひとり型枠大工になり、
おら~、
働くぞ~。
と、
朝から晩まで、
トンテンカン。
まずは外側の型枠作り。
道具はコースレッドというネジが切られたクギ。
それをインパクトドライバーという、
充電式の電動ドライバーで、
回転させながら打ち込み、
木と木を接合させてゆく。
この接続力は強い。
使うコースレッドのネジクギの数は半端ない。
ここで安く買ったマルノコ昇降盤で、
自作した赤松の板を成形し、

形を整え、
インパクトドライバーで型枠作り。
お天道様が東から上がり、
西の山並みに落ちてゆくまで、
型枠大工は一心不乱に働くのであった。
エンヤコラ。
…。
その懸命に造るエネルギー源は、
何時の日か、
月と森の中を、
ブクブクと潜る潜水艦に乗る夢だ。
野望だ。
世界の月と森を潜るのだ。
フフフ。
…。
やがて、
夕暮れ時に、
カラスが鳴く。
カァ~。
寂しい気分が胸を締めつける。
おお、
夕暮れだ。
…。
そんな作業を
週末の休日、
日がな一日、
朝から晩までやっていると、
やがて、
心に灯る提灯(ちょうちん)の灯火。
できてきたじゃ~ないか。
う、
うれしい。
…。
そして、
外枠が徐々に出現。
なかなかいいぞ。
防腐剤を塗り、
休日の過酷な型枠作業も突き進む。
だが、
勤めに出かけ、
家で眠る間も、
次の作戦が、
頭の中をぐるぐる回る。
どう戦うのか?。
敵のミサイルをどう打ち落とすのか?。
作戦は?。
…。
と。
そして次の作戦決行。
…。
休日の前日。
コンビニのATMで、
残高の少ない小生の秘密口座から、
お金を下ろす。
チャリン。
…。
そのなけなしの金を握り、
休日に、
鋼材屋にオンボロ4トントラックで乗り付ける。
口径13㎜の異形鉄筋を百本程くださ~い。
なけなしのお金を払い、
鉄筋をトラックに乗せ森に帰還。
そして、
一本、一本、
その鉄筋を、
ネットオークションで買った、
油圧切断機で切りながら、
内部の床に異形鉄筋を組む。
…。
一般的に木造建築の基礎鉄筋は一重らしいのだが、
重量のあるビルなどの地下の基礎は二重配筋をするのだという。
土圧で床下や地下壁が歪むのを防ぐためらしい。
木造の森のサブマリンの地下に、
そんな強固な二重配筋は必要ないが、
そこは森の潜水艦。
強度は高い方が深海に潜れる…。
…。
艦長-。
何だ?。
今、深度1.4mであります。
なかなか深いな…。
…。
外側の型枠ができ、
汗垂らしながら、
地階床の二重配筋をし、

やがて壁部分の鉄筋を組み上げ、
さらに、
内側の型枠作り。
休日のほとんどを費やし、
家族サービスもはさみながら、
太陽は東から上がり、
西の山にくるくると沈み、
季節は変わる。
やがて外側と内側の型枠ができると、

長いドリルで穴を開け、
新開発した両端にネジ切りをしたプラスチック棒を差し込み、
ナットで固定。
それを延々と50㎝間隔でぶち込み、
何百と固定してゆく。

さらに地階の上に1階の床を支えるH鋼材をのせ溶接作業。

そして、
基礎作りをはじめ1年。
型枠第一段階が終了。

となれば、
…。
おお、
ああ、
時は流れ、
陽は登り。
山に沈み。
夜空のミルキーウェイを、
星々が流れ、
心は暗黒の宇宙に潜ってゆく。
…。
この世はマルチバース。
無数に存在する宇宙の中、
生命が生まれる事が可能な、
この宇宙に運よく生まれ、
この星に生きる。
…。
そして、
ついに、
訪れる。
戦いの時。
そこは、
まさに、
戦場。
たったひとりの森の潜水艦乗りの、
修羅場がはじまる。
そう、
月と森のサブマリン、
生コン打ちの戦い。
…。
と思ったが。
…。
心の奥底。
意識されない無意識の奥深く、
それは、
深海に降り積もるマリンスノーの如く、
過去の無数の記憶や、
悔恨と悲しみ、
喜びと挫折…。
欲望と野望。
…。
様々な意識されない無数の記憶の泥濘(でいねい)が、
ゆっくりと渦を巻き、
落ちてゆく、
その底。
その降り積もるマリンスノーの中。
ぐーぐー寝ていたイドの怪物が、
ふと瞼(まぶた)を開けた。
なに、
またイドの怪物出現かよ…。
ん?。
それでいいのか?。
…何が?。
お前は気付いているだろ~。
…。
しかし…。
しかし?。
やらなければお前の野望は果たせないぞ…。
…。
イドの怪物との会話は続いた。
そう。
その葛藤は長い事心の中に押し込めていた…あの疑問?。
だが、
その問題は次第にエネルギーを蓄え、
巨大化してきていた。
…。
確かに、
あの問題を解決しなければ、
俺の野望は達成できない。
だが、
今でなくてもいいんじゃないか?。
とか思ったが。
その巨大化した問題が、
俺の頭の上にマンモスの様にのしかかる。
グリグリ。
…。
となれば戦うしかない。
…。
と言うわけで、
基礎作りを一時中断して、
次回はじまる、
新たなる戦い。
できる自信が無い。
経験も無い。
なんにも無いが、
まず、
やってみるか。
…。

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