長谷川潾二郎に魅せられたひと①洲之内徹
2024年は長谷川潾二郎生誕120年ということで、私が感じている長谷川潾二郎の魅力について書いていきます。
長谷川潾二郎は遅筆で寡作の画家として知られていますが、誰もが知っている画家ではありません。しかしその一方、熱狂的なファンもいました。
その筆頭で、最も有名なのが洲之内徹(1913ー1987)。
洲之内徹は、美術エッセイストで画廊経営者。著書「気まぐれ美術館」シリーズは、美術愛好家(特に60代以上)の必読書というレジェンドです。画廊を営んでいながら、自分が気に入った絵は決して売ろうとせず、「買えなければ盗んでも自分のものにしたい絵」を収集していました。
潾二郎の最も有名な「猫」は、洲之内徹のそんな「盗んでも自分のものにしたかった絵」として知られています。
一方、画廊経営者としては、遅筆で寡作の画家、潾二郎の絵を100点以上も売ることが出来たそうです。どうしてそんなことが出来たのでしょうか。
昭和43年6月号の「みずゑ」を抜粋します。
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有難いことに、長谷川さんの絵のかき方は一風変わっている。風景だと、木を1本ずつ仕上げ、それがすんでから地面にとりかかる。静物なら、机の上の瓶だの果物だのをひとつずつ完成させてから机を描き始めるが、そのときは、背景はまだ白い下地のままである。だからよんどころない事情で中断してしまっても、描いてきたそこまでの部分は完成しているし、どうしてもうまく行かないところがあっても、その部分のために他の部分を捨ててしまうのは勿体ない。
その成功している部分や捨てがたい部分を生かすことを思いついて私は長谷川さんと相談しながら、いろいろと工夫をして、古いカンバスを切り取った。ほかの画家ではちょっとできないことだが長谷川さんの絵だとそれが可能なのだ。私の一策であるが、長谷川潾二郎の美しさを充分に生かした小品がたくさん生まれた。私の扱った百点あまりの、半分くらいはそういう作品である。
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じつは上の桜の絵も切り取ったもので、サインは右下ぎりぎりに書かれています。
この切り取り、一時期だけだったそうですが、潾二郎の作品を少しでも多く私たちが見ることができるのは、この洲之内徹のアイデアのおかげといえるでしょう。洲之内徹にとって、長谷川潾二郎の絵は「切り取ってでも世に出したくなる絵」だったのです。