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長谷川潾二郎、あらわる
私は時々、家出して長い間音信不通の息子達のことを考えるように、私の画の運命について考えることがある。
ある人が(画は画家の手を離れると一人歩きします)と言ったがそれは本当だ。
運命はあの画をこれから何処へ持って行くのだろう。私は幸運の星が彼を守ってくれるようにと祈っている。(長谷川潾二郎 1936年/ 夢人館4長谷川潾二郎 岩崎美術社より)
2021年2月。京橋あたりを散歩していると、通りかかった画廊で入札会が開かれていた。美術好きの夫が一緒だったので、ちょっと覗いてみようか、となった。
伊藤若冲、円山応挙、岸田劉生…ビッグネームぞろいの作品群から少し離れたところに、それは1枚だけかかっていた。
ぬくもりのある色鮮やかな毛糸玉がいくつも描かれた絵。
明るい絵だなぁ、と思った。
「知らない画家」と呟くと、夫は「長谷川潾二郎は宮城県美術館にある『猫』」が有名だよ」と言った。「非常に寡作の画家なんだよ」
夫は2010年に宮城県美術館で開かれた潾二郎の回顧展に行っていたのだ。
潾二郎の作品は、日常のありふれたものが画題となり、はっとするほどの美を宿している。
日々の営みが特別であり奇蹟だと、見るものを大いに励ましてくれる。
当時、全くの異業種へ飛び込んだ私は、毎日精神的に追い詰められていた。しかし、気に入った画が我が家にやってきたことで、大いに高揚し、(大変おこがましい限りだが)潾二郎の人生の一部を預かった気持ちになった。
2024年。潾二郎生誕120年。
より多くの人に潾二郎の画を見てもらいたい。潾二郎の魅力を伝えたい。
その思いで、私はこのnoteを始めることにした。
幸運の星として、潾二郎の画を守れますように、と祈って。