レモン姉さん、天国に
やあ、おはよう。朝晩はめっきり涼しくなってきたな。
昨晩は、オレと二人暮らしのアルジの足に頭を乗っけながらネトフリを見てた。こうやって、毎日が過ぎていく。
今朝、ドッグランを散歩していたところ、近くの都営団地に住む「レモン」(ビーグル犬、メス・14歳)の飼い主のお母さんが一人で他の飼い主やワンコたちを待っていた。
レモン姉さん、日曜日の朝、老衰で亡くなったんだって。
俺がまだ生後3ヶ月の子犬でドッグランデビューしたての頃、他の成犬から俺を守ってくれてくれたのが最初の出会い。俺は誰とでも仲良くできないので、少ない遊び仲間となっていろんな遊び方教えてくれたな。
本当に、本当にありがとう。
俺は、姉さんの愛用オモチャの中から小さなボールを形見として選んで口に咥え、彼女のことを思いながらドッグランをゆっくり回った。
ワンコには、ある言い伝えがあってさ。
死んで天国の虹色に光る橋を渡ると、主人や親きょうだい、出会った仲間達と再会できるんだって。今頃、レモン姉さん、新しい野原で遊んでいるのかな?ところで、俺が先に死んだら、アルジ(還暦)はどうするんだろ。多分もうワンコは飼わないんだろうな。・・・そうか、俺はアルジにとって最後のワンコになるんだな。
ということで、俺は生きなきゃいけない。実は、ヘビに噛まれて以来、あまり食欲がなくて、水以外はミルクと少々のジャーキーで過ごしていたんだ。
俺は心を入れ替え、散歩から自宅に戻ってくると、ボウルに突進し食べ残したエサのカリカリ(実はあまり好きじゃない)を猛然と食べ始めた。
ヘビに噛まれ、自転車に足を踏まれても、俺がひとりぼっちになったり、アルジ達を独りにするよりはマシさ。
夕方、聞き慣れた足音が近づいて、玄関の扉が開くと俺は耳をヒコーキの翼みたくして胸めがけてジャンプし、全身でアルジや家族を出迎えてやるんだ。ネット会議とテレビばっかりで運動不足のコイツらをグイグイ街中引っ張り回して長生きさせなきゃならないんだ。
俺? 今? そうだな、アルジも働きに行ったし、今は誰もいない居間で、一番快適なIKEAの椅子の上で丸くなり、消し忘れたラジオで、涼しくなった信州からの便りなんかを聞いているところさ。(あー、楽ちん)
あ、もう一つ。最近、掃除ロボット君と友達になった。俺が床に寝ていると「仕事増えるから、抜け毛こぼすんじゃねーよ」とか言いながら体当たりしてくるが、コイツなかなかの働き者だ。
じゃ、レモン姉さん。俺がそっちに行くのはもうちょっと先にするぞ。
天国で再会したら、そっちのことを色々教えてくれ。