この世界で一番大切な君へ
人形・ハンバーグ・睡眠
25XX年
僕の住んでいる町は変わり果ててしまった。
大半の人は致死率75%のウイルスに殺され、生き残った人達は水不足によりまた死んでしまった。
僕のお父さんやお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんも死んじゃった。
でもお父さん達は僕にたった一機の人形を残してくれた。人形というかアンドロイド?とか言うやつらしい。
見た目は凄く可愛くて、前情報なしだと人間と見間違えるくらいに綺麗に作られてる。
僕の話す言葉も通じるし、僕と一緒に生活もしてくれる。
バッテリーとかは大気中の酸素からエネルギーに変換してるらしい。最近の科学って凄いんだね。
僕が彼女と初めて出会った時はもう僕の家族はいなかった。
たまたま僕が家に帰って何か食べれるものないかなって探しに行った時に見つけた。
地下室みたいな所に彼女は閉じ込められていた。
僕が地下室に入ると、突如目を開けて僕の方へ走ってきて抱き着いてきたんだ。
最初は凄くビックリしたけど、だんだん彼女の体が人肌と同じくらいに暖かくなっていったんだ。
その瞬間から僕は涙が止まらなかった。
それから僕は彼女といつも一緒に暮らしている。
彼女が時々作ってくれるハンバーグはとても美味しいんだ。
どこで食材を手に入れてるのか聞いたら、隣町にあるスーパーに買いに行ってるらしい。
まあ見た目とか話し方とか人間そっくりだし、両親が残したお金もまだ沢山あるからね。
彼女のハンバーグ、何が美味しいってお母さんが作ってくれたハンバーグにそっくりなんだ!
肉汁の溢れるお肉に、噛めば噛むほど旨みが広がるこの感じが……凄く懐かしい……
いつもこのハンバーグを食べると僕は気付かないうちに涙を流すらしい。全く自覚無いんだけどね。
でも僕が泣く度に彼女は優しく抱きしめてくれるんだ。
そして週に一回はハンバーグを作ってくれる。
そのハンバーグを食べる度にまた泣いてしまう。
僕が泣くと抱きしめてくれる。
どうやら僕はもう彼女無しでは生きていけないようだ。
寝る時もいつも僕の隣で寝てくれる。寝る必要無いはずなのに。
でもそれが凄く暖かくて安心するんだ。
それでも心配事がある。
いつか彼女が僕の目の前から消えてしまうんじゃないかなって。
明日起きたら急にいなくなったりしてないかな。
それが怖い。
思ってたよりも彼女に依存してしまってるみたいだ。
いつか僕が過去を乗り越えられた時、彼女に依存しすぎないくらいに落ち着けるといいな。
そして彼女にいっぱい恩返しがしたい。
暖めてくれてありがとう。
慰めてくれてありがとう。
ハンバーグを作ってくれてありがとう。
優しく抱きしめてくれてありがとう。
今度は僕が彼女に暖かさをお返しする番だ。
でも今だけは……この温もりに包まれていたいな……
いつもありがとう。僕は君が大好きだ……