【その6】女と男の世界 値段がついた2時間500万円を断った女だと
とうとう来たか
この世界は何を売る?
酒を売る?
当たり前だ
酒だけならそこら辺のベンチで
飲めばいいじゃないか?
ウーロン茶だって、
その辺の自動販売機で飲めばいいじゃないか?
知っていますか?
男たち、あの自販機のウーロン茶が
この店に一歩踏み入れたら
幾らに化けるか?
その世界に男は何を求めて
街路樹の灯りに蛾のよう吸い寄せられる
私は何を売る?
この男たちに何を売る?
心がボロボロになる
誰かに泣きたくなる
そうだ!
あの借りはこれだけの高いものだった
ママが笑って許してくれたことは
私のこの涙だけでは返せないものだった
しっていた! この出来事が
一生自分を苦しめることを
私はわかっている
ここに来たのは
此処で成功することでない
老舗と言われ一流と言われた
ここにきたのは
あの恩を返すためだけ
ママの命がかかっていたから来ただけ
これから生きるママのことも考えた
健常者には戻れないと聞いた
居場所がなくなる
今までも幸せでなかった人だった
この店の負担だけでも最小限にしてやりたかった
「よかったのよ。
無理しなくても」
この言葉の意味はママと私にしかわからない
今夜も店を開ける時間だ
どうする?
どうやって今夜を乗り切る
例のごとく奥に陣取られた
出ていくしかないか
と、ドアが開いた。
珍しく取り巻きはいない
カウンターに座った
この客はカウンターには座らない人だ
女の子がおしぼりをもって渡そうとしたときに
「今日はママに話があってきた」
と言われた。奥に座ろうとした時だが戻って
カウンターに入った
相対する形になった
客からは私の顔は正面に見える
この客、長谷川さんという
彼は笑いながら
カウンターに帯付きで5束積んだ
「ママ、これで俺と2時間付き合ってくれ」
前代未聞だ、
店は満席だ。
例の客達も見ている
私が困っているのをこの人は見ていた。
この辺りでは最高の客だ
あちら系にも顔は効く
金も仕事上も最高な男だ
どの店も狙っているが
女には手を出さないのは有名だった
そうだ。この前キスを仕掛けた男だ
誰も何も言わない
2時間500万円の値段が付いた
現金だ、カウンターの上にある
私の答え一つで運命が変わる
「ありがとうございます。
この値段に釣り合うように
精進してからお受けします」
咄嗟に出た。
これで私を口説く男はいなくなった
そして、この店は終わった
こういう方法もあったのか!
私はママとしても経営者としても資格をなくした
「やっぱりな、こんなはした金では首は縦には振らないか!」
「ママの男になる男は大変だな、
これ以下では返事はないということだな」
此処で、しっかり釘を刺された
「じゃ、しょうがない
諦めるか、
ママ、今日のお客は
俺のおごりだから飲ませてやってくれ」
と一束置いて帰ってしまった
この金には裏がある
この男も腹は痛まない
誰も何も言わない
静かだ
まさか、
私が断るとは思っていなかったのだろう
金は貰った
みんなに飲ませるか
一晩100万の貸し切りだ
明日の朝は何時に来るのだろう?
相当怒っているだろうな
この噂はすぐに知れ渡る
「2時間500万円を断った女」 と
ありがとうございました
噓のような本当の話です
今夜もよい夢を見てお休みください
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