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『全体主義の起源3』第十章

第十章 階級社会の崩壊


全体的支配は大衆運動がなければ、そしてそのテロルに威嚇された大衆の支持がなければ、不可能である。
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モスクワ裁判レーム一派の粛清も、他ならぬ大衆がスターリンやヒトラーの背後に立っていなかったら不可能だったろう。

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テロル:ドイツ語のTerror、恐怖政治の意味
モスクワ裁判:1936年から1938年の間にモスクワで行った反革命分子に対する「公開裁判」。全部で3回。「見世物裁判」や「茶番劇裁判」と揶揄される。
レーム事件:長いナイフの夜事件。1934年ナチ党が行った突撃隊に対する粛清事件。

(ヒトラーやスターリンの)この人気は、大衆の愚かさや無知を利用した巧妙な欺瞞的プロパガンダの産物では決してない。なぜなら、全体主義運動のプロパガンダは確かに嘘だらけに違いないが、決して秘密めかしてはいないからである。

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1 大衆

政党は、利益政党、世界観政党として国民国家の諸階級を政治的に代表するか、あるいはアングロサクソン諸国の二大政党制におけるように、公的問題の取り扱いに対してその時々に一定の見解と共通の利害を持つ市民を組織するかのいずれかである。

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世界観政党:特定の政治的理念の実現を目的とする党

全体的支配の機構が絶えず要求する厖大な人命の損失に耐えるだけの充分な人的支資源を、これらの小国は持たなかった。
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ヒトラーは、開戦までの被支配人口数が彼の支配に或る程度の抑制を余儀なくせさせていることをよく自覚していた。
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全体的支配は大人口の基礎なしには不可能だというまさかにこの理由から、この支配形式はなかんずく中国やインドにおけるアジア専制的遺産を継ぐに極めて適しているように思われる。これらの国には、権力を蓄積し人間を破壊する全体主義運動の装置の回転を絶えず維持するに足るだけの無尽蔵な人的資源がある。
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全体主義の独裁者にとって内政における最大の危険は自国の人口激減とそれに伴う権力低下だが、この危険はアジアでは意味を持たない、、、

9〜10頁

民主制という統治原理は住民の政治的に非積極的な分子が黙って我慢していることで命脈を保っているに過ぎない。
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議会における多数派など見せかけだけにすぎず、反議会的な運動は人民の多数を代表するところまで迫っており、政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたにしてもそれは決して国の現実を反映などしていない。

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第十二章 全体的支配

全体的支配に課せられた第一義的な、最も重要が課題の一つは、イデオロギー的に不可謬でなければならず、、、

150頁

世界的規模で全体的支配権を得ようとする闘争と他の全ての国家形式および支配形式の破壊は、あらゆる全体主義体制に固有するものである。

156頁

1 国家機構

全体主義国との外交的な取り決めの際に非全体主義世界が犯した大抵の誤算の根底には、常識からするそのような思慮が働いていた。
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万人の認める常識の掟が明らかに通用しなくなっている世界にどのように対処すべきかと必死で考えても、何の結論も得られなかった。
譲歩と大きな国際的威信とを用いて全体主義国を正常な国際関係に引き戻すことはあらゆる正当な期待にもかかわらず、何としても不可能だったし、我々は敵の世界に囲まれているというイデオロギーに根差した全体主義国の主張が正しくないことを行為によって証明して見せようとする全ての試みは、徒労に終わった。

外交的勝利は戦争を避けるという結果を得ただけで、そんな勝利など有名無実のものにすぎず、全体主義政権は相手の妥協性に対して一層の敵意を持って応じる。

157〜158頁

以上の論説は、ヒトラーとのミュンヘン協定やスターリン相手のヤルタ協定を念頭にしたもの。

全体的支配が最も恐れているのはテロル(恐怖政治)が無用なものとなることだ。

159頁

(全体主義国において)国家機構は単に名目的な権威を、党機構は現実の権力を有する。
国家機構は、党の現実の権力が国家の権威の陰に隠れて外部に対して身を守るための有名無実の表構えだ。

162頁

命令受領者が命令者の意思を悟ってそれに従って行動する。
命令者はそれを前提に、わざと不明瞭な形で命令を伝える。

166頁

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