美味しい“モンテクリスト“サンドを食べてドラマ「モンテ・クリスト伯」を思い出す
先日山形へ行った際、市内のベーカリーでたいへん美味しい「モンテクリスト」サンドを見つけた。
黒を基調としたシックな外観にブーランジェリー・パティスリー両方の看板が掲げられたその店の構えは、界隈ではかなり目につく。入念に下調べをした上での初訪だったが、棚に並ぶ様々なパンの焼き加減や香り、色艶、商品ラインナップを見るに、ここは良い材料を使って確かな技術と経験、知識を併せ持つ方による店と確信した。
それならば尚のこと早く食べたくなって、本来自宅に持ち帰って温めて食べたいところを、待ち切れずにホテルの部屋でワインと共にいただいた。
「モンテクリスト」は、クロックムッシュとフレンチトーストの両方の特徴を兼ね備えた、カロリーを考えてはならない類のリッチなサンドイッチである。即ち、ハムまたはベーコン、チーズを挟んだパンを卵液に浸し、たっぷりのバターで両面をこんがり焼き、仕上げに粉糖やメープルシロップをかけて供される。甘味と塩味の組み合わせがくせになり、中に挟む具やバター、シロップ等の組み合わせ次第でいくらでもリッチにつくれる背徳の食べ物。
今回買ったのはカリカリに焼かれたベーコンとチーズが挟まれ、シロップは予め浸透されていた。常温のままでももちろん美味しかったけれど、温めればもっと美味しかったのに…と、待ちきれなかった自分にやや反省。でも後悔はしていない。
美味しいなあと味わいながら、今更のようにふと疑問がわいた。なぜ「モンテクリスト」という名なのだろう?その由来や起源は?
軽く検索してもあのデュマの小説「巌窟王(モンテ・クリスト伯)」に由来する、としか出て来ない。そうではない、私が知りたいのは何故その名がつけられたのか、その理由の方なのだ。だって、ものすごく長いあの小説を通して読破した訳ではないが(子供の頃、少年少女向けにまとめられたシリーズ本で読んだ程度)、作中にこんなトーストが出て来るとは到底思えない作風だからだ。そういう内容、雰囲気の作品ではない。
それに、作中に登場するならその場面や関わる登場人物等もセットで知られているはずで、これまでに観た同作のミュージカルやドラマの小道具として出て来ていても不思議はない。作者のアレクサンドル・デュマ・ペールがフランス人作家であることぐらいしか、フランス生まれのパンとの共通項が見出せない。
気になって更に調べていくと、「モンテクリスト」はカナダで人気の朝食であるとの情報が出て来た。カナダ???
まあ、元フランス領だし頷けない訳でもないが、なぜカナダ?メープルシロップが使われているから?フランスからフレンチトーストやクロックムッシュ等が持ち込まれ、カナダ流にアレンジされていくうちにこの形になったということだろうか。まあ、アメリカでも人気があるようだし(この高カロリーな感じがいかにもアメリカっぽい食べ物ではある)、広くアメリカ料理ととらえても差し支えはなさそう。
それにしても、なぜあの作品名がつけられたのか、私の知りたい要素は全くもって解明されない。
諦めきれずに再度検索ワードを入れ替え探していると、ある韓国発のサイトに行きついた。そこで紹介されていたモンテクリストサンドイッチの起源説が、私には最も素直に受け入れられた。
曰く、このメニューがアメリカ合衆国ワシントン州エバレットの「モンテクリストホテル」のキッチンで誕生したためその名で呼ばれるようになったとのこと。ちなみにこのホテル名は、同州ノースカスケードのモンテクリスト鉱山から取られた。
バターで黄金色に焼かれ、ところどころ焦げ目のついたパンに真っ白な粉糖をふりかけた様子を、雪化粧した山の姿になぞらえたのでは?それなら大変しっくり納得がいく。まあ、「巌窟王」由来はないよね…。
そんな訳で「モンテクリスト」について考え続けているうちに、久しぶりに2018年のフジ系ドラマ「モンテ・クリスト伯」が観たくなり、ついFODを契約して一気に観返してしまった。放送当時から私は割と面白く視聴していたのだが、重要な役を演じた俳優がその後逮捕されたため、地上波での再放送はきっともう難しいのだろう。この頃のドラマらしく振り切った演出と、やたらと耳に残るおディーン様の主題歌「Echo」が印象的だった。一度聞くとあのサビが脳内で再生され続けるんですよね…。
時代設定を現代に置き換えた時点でどうしても突っ込みどころは頻発するのだが、それでも復讐される側三人の人物像はドラマ上の設定をぶらさずに深化させていたし、取り巻く女性陣のキャラクターと顛末もなかなか。その他の人々の設定と人物像にも手抜きがなく、巧い役者が多く出演して独特の世界観が成立。エンタメ作品として楽しめるドラマだった。原作もの、特に文学作品は制作側の意図や狙いを盛り込み難く、中途半端になりがちなので、ここまで振り切ってくれると却ってすがすがしい。
ちなみに今クール観ていた「全領域異常解決室」も同じ脚本家だそうで、オリジナル作品のこちらはこれまでにない切り口の神々の話で大変面白かった(面白「かった」、というのはFODでひと足先に最後まで観たから)。八百万の神をこのような設定で実在化させるのは興味深く、親しみもわく。十年ほど前に神社巡り及び狛犬探し(それはまあ様々な狛犬さん方が存在する)にはまっていた時期もあったので、久しぶりにそうした趣味も復活させてみたくなった。