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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑤公明党は「水素・アンモニア」志向


アジアにサプライチェーンの大構想

さて、各政党の「脱炭素」政策比較も第5弾まで来ました。今回は、自民党と連立与党を組んで久しい公明党の政策を見ていきたいと思います。参考にしたのは、同党ホームページにある「2022参院選政策集」です。

まず、大目標がどうなっているかというところですが、「気候変動対策への貢献」という項目には、こんな記述がありました。

2050年カーボンニュートラル、2030年度中期目標、エネルギー基本計画を堅持します

2030年度中期目標というのは、菅義偉政権のときに決めた、この年までに温室効果ガスを46%削減するという例のアレですね。また、エネルギー基本計画を堅持、ということは、2030年時点で再エネの電源構成比率が36~38%ということです。まあ当たり前といえば当たり前なんですが、与党なので現在の政府の目標がイコール公明党の目標だということがわかります。

次に、具体的な政策はどうなっているか、という部分です。〈エネルギー安全保障の強化と2050年カーボンニュートラルの両立へ〉という項目には、次のようにあります。

再生可能エネルギー最大化に向けた送配電網のバージョンアップや、充電インフラ(約3万→2030年までに15万基)、水素ステーション(166→同1000基)の整備を促進します

グリーンイノベーション基金を拡充し、次世代蓄電池、大規模水素・アンモニアサプライチェーン構築など、大規模研究開発プロジェクトを推進します

再エネの普及について具体的な数値目標も含めて書いていますから、それなりのやる気を感じます。

一方で、もう一つ力点が置かれている「大規模水素・アンモニアサプライチェーン構築」というのは、今の日本政府が進めようとしている政策ですね。

つまり、水素・アンモニア混焼によって天然ガスや石炭などの火力発電の炭素排出量を減らしつつ、これらを温存。その技術を東南アジアを中心とした海外にも展開して、水素やアンモニアを流通させるサプライチェーンを築こう、という構想です。

これらの技術は、海外NGOなどからは「炭素排出量を減らせると言ってもその量はわずかであり、新技術が短期化で開発できるかも分からない。本来は全廃に持っていくべき化石燃料への依存を温存するだけで、根本的な対策にはならない」などと批判のある分野であることはこれまでお伝えした通りです。

一方、今の日本政府の立場からしたら、再エネの普及によって火力発電を全廃できるという海外NGOらの主張こそが実現困難な理想論であり、現在ある火力発電の技術を発展させつつ有効利用できる水素・アンモニア関連技術を使った方法こそが現実的、という反論になるのでしょう。

公明党の路線というのは後者の立場であり、自民党の路線ともニアリーイコールであると解釈できると思います。

再エネよりも水素・アンモニアに投資

政策集には、この路線に沿った具体案が色々書かれていました。

水素、アンモニア、再生可能エネルギー(再エネ)、蓄電池といったエネルギーの供給側に加えて、自動車産業や素材産業など需要側のエネルギー転換についても検討を深め、投資を積極的に進め、脱炭素の実現と新しい時代の成長を生み出すため、クリーンエネルギー戦略を策定します

再エネよりも水素・アンモニアを先に持ってきている記述の順番に注目です。再エネの普及も進めるとは書いてありますが、水素・アンモニアにより力点を置いているというニュアンスがにじみ出ています。

下記の項目からも、同じような文脈が読み取れます。

日本全体をクリーンエネルギーを中心とした、経済社会・産業構造に転換していくためには、多額の投資が必要となります。日本が、国際的な大競争を勝ち抜けるよう、水素・アンモニアなど具体的に成長が見込める分野を中心に、官民を挙げて投資を加速すべく、必要となる施策を大規模に積極的に行います

ここなどでは、再エネは言及すらされていません。すでに中国など諸外国にシェアを握られてしまった再エネよりも、日本独自の技術である水素・アンモニアに投資していこうよ、ということのようです。

再エネについては、下記のような記述もあって、やる気がないわけではないことがわかります。

再エネ導入の切り札とされる洋上風力発電については、製造拠点や物流インフラの整備など国内のサプライチェーンの形成に取り組むとともに、日本版セントラル方式導入を早期に実現させ、2030年の導入目標(10GW)達成を促進します

家庭用の太陽光パネルや蓄電池、燃料電池システムを導入する際の補助制度を創設し、太陽光など再エネによって発電された電気を最大限活用できる環境を整備します

しかし、特に太陽光についてなどは一般論にとどまっていて、水素・アンモニア関連技術について書いているときほどの熱量が感じられないように見えました。

自民よりかなり抑制的な原発政策

最後に、原発政策についてはこんな記述がありました。

徹底した省エネや再エネの主力電源化に向けた取り組み等を通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原子力発電に依存しない社会をめざします

これらは現政権下で決定した「第6次エネルギー計画」にも盛り込まれている内容ですから、これ自体はそれほど突出した内容ではありません。

しかし、岸田自民政権はこうした文面は維持しつつも、原発の新増設や建て替えについて検討するよう指示するなど、内実は原発復権に舵を切ろうとしています。これに対して、同党ホームページにある「Q&A 公明党の原発政策」には、

公明党は(中略)原発の抑制的な活用を通じて必要な電力を確保することを一貫して訴えており、「原発に依存しない社会」をめざす考えに変わりはありません

政府は「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」といった方針を示していますが、原発の新設・増設は認めません

とあり、原発政策については自民党との間にはっきりと違いがありそうです

「独自技術」で勝負も、ガラパゴス化が心配

ということで、全体として見ると公明党の脱炭素政策は、「水素・アンモニア」関連技術の開発や普及にかなり明確に力点を置いていることがわかります。

再エネの普及も進めるけれど、日本独自の水素やアンモニア関連技術を開発しつつ、石炭火力や天然ガス火力を低炭素化して延命していく。そしてそれをアジア諸国などにも広げ、技術も輸出してこの地域の脱炭素政策における日本のイニシアティブを確立していく。これこそ日本が国際的な競争に勝ち残りつつ脱炭素を進める道なのだ、ということですね。

しかし、前述のようにこれらはいずれも、脱炭素への効果の大きさや実現可能性の点で論争の的になっている技術でもあります。もしこれらの技術が世界的なスタンダードになれずに「ガラパゴス化」してしまった時は、日本は競争に勝つどころか、国際社会から取り残されはしないだろうか…という一抹の不安がよぎりました。

他党との比較で言うと、「再エネ普及」に力点を置いていた立憲民主党や共産党とは大きな差がありますし、「原発」に力点を置いているように見える日本維新の会ともまたスタンスが違うことがわかります。

自民党の差については、同党の政策集があまり具体的ではないので難しいですが、原発に対する積極性において差がありながら、水素・アンモニア重視路線はほぼ重なる、といったところでしょうか。

個人的には、公明党は再エネ普及にも力を入れていそうなイメージがあったので、ここまで明確に「水素・アンモニア」>「再エネ」というバランスの記述になっていることには驚きがありました。

公明党に自民党の政策の偏りを修正する「バランサー」の役割を期待するとしたら、原発についてはある程度は機能しそうなものの、再エネ普及についてはあてに出来なさそうです。現政権下で再エネ普及のペースがなかなか上がらないのも納得できる気がします。

【このシリーズの記事一覧はこちら】
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた①自民党は記述少なく、にじむ原発推進への思い
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた②立憲民主党は「2050年再エネ100%」ぶち上げ
各政党の「脱炭素政策」を読み比べてみた③日本維新の会は「原発熱心、再エネ興味薄?」
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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑦れいわ新選組は「30年までに石炭火力全廃」言い切り

【参考資料】
公明党ホームページより「2022参院選政策集
同「Q&A 公明党の原発政策

(タイトル画像)
UnsplashHans-Peter Gausterが撮影した写真   


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