悲惨なプラモデル
小学二年生の頃の話です。
繊細なプラモデルを作り上げたことのない私にとっては、それは尊敬に値します。
一生懸命お年玉やお小遣いを貯め、当時、流行っていたガンダムのプラモデルや戦艦のプラモデルを購入し、それを一生懸命作る同級生達がいました。
まず、このガンダムのプラモデルを作る同級生の話なのですが、家の中で接着剤を使ってプラモデルを作ると接着剤の臭いが家の中に籠るので、公園のベンチで作っている谷君。
この谷君は、お金持ちではないのですが、とにかく、たくさんガンダムのプラモデルを作っていたのです。それは、小学生とは思えないほど繊細に、そしてリアルに作り上げられていました。
出来上がったガンダムのプラモデルに塗装をするのですが、ただ塗装をするのではなく、下地には必ずグレーの色を着色し、その塗装が乾くと次にオリジナルの色を丁寧に筆を使って塗るのです。
そして、このオリジナルの色の塗装が乾くと、次に紙ヤスリで少しずつ削り、よりリアルに仕上げるのですから、時折、公園でガンダムのプラモデルを作っている谷君の完成した、このプラモデルのクオリティの高さには、同じ歳の私は感心していました。
こうして、リアルに塗装したガンダムのプラモデルが一つだけではなく、いくつも公園のベンチに並んでいるのです。
そんなある日、谷君がせっかく作り上げたガンダムのプラモデルに、カッターナイフをライターで炙り、熱したカッターナイフでプラモデルに傷を入れているのです。
私は谷君に「お前なにしてんねん」と尋ねました。すると谷君から「今からプラモデルの写真を撮るねん」と返事があったので、プラモデルを持って草の生えている空き地について行きました。
空き地に着くと、ガンダムのプラモデルを地面に置いて、テレビで見たガンダムの戦闘シーンに似せ、戦っている状況を谷君は一生懸命カメラで撮影するのです。
わたしは「なるほど!」と感心しながら谷君を観察していました。
すると、谷君は最後になるとガンダムのプラモデルに持っていたライターで火をつけたのです。当然、ガンダムのプラモデルは燃えます。それを、谷君はラストシーンとしてカメラで撮影するのです。私は「もったいないことする奴やなぁ」と谷君を引き続き観察していましたが、このガンダムのプラモデルが燃えてドロドロに溶け原形を留めていない状況の中、谷君の背中が微妙に震えているのです。
私は、谷君の背後から正面に回り込み、谷君の顔を覗き込むと、谷君は涙を「ボタボタ」とこぼしながら泣いているのです。しかも谷君は「せっかく、作ったのに」と口に出し、続いて「せっかくお年玉を貯めたのに」と言うのですから、私は谷君に「当たり前じゃ」と言いました。
結局、谷君に残ったものは、もはやガンダムなのか何なのか分からない状態のプラスチックの燃えカスと、このガンダムの戦闘シーンを撮った写真のみだったのです。
谷君本人がやらかした、想い出深きこの一部始終は、私の心に残っています。
この谷君とは別に、やはりプラモデルを作ることが好きだった横山君。
この横山君は、住んでいる文化住宅の階段で一生懸命接着剤を使って、戦艦や空母のプラモデルを作っていました。
この横山君もお年玉やお小遣いを貯め、コツコツこれらのプラモデルを購入し、作っていたのでしょう。
この戦艦等のプラモデルの設計図は、複雑なもので、完成すれば水に浮かべて走らせるものでした。
そのため、モーターや電池が必要だったので、複雑なプラモデルの設計図と数の多いパーツを組み合わせるものでした。
無論、一つ一つのパーツにプラモデルの箱に描かれている絵のように塗装をするのですから、見ていて気が遠くなるような作業に、私は感心していました。
完成までは、数日間は掛かるものだったのですが、先に塗装した塗装が乾いてからプラモデルを組み立て、見事な出来栄えの戦艦や空母のプラモデルの数々。
完成したプラモデルではあるものの、小さな連合艦隊といった具合のプラモデルを横山君と横山君の弟達と一緒に真冬の小学校のプールに持ち込み、学校のプールに浮かべ、この小さいな連合艦隊がプールの水上を走る姿を、私は横山君兄弟と一緒に眺めていました。
しかし、25メートルの小学校のプールを勇ましく走る戦艦のプラモデルの中で、一番最初に沈んだのは戦艦大和でした。
続いて、次々とプラモデルの連合艦隊が真冬のプールで沈没したのです。
とうとう、最後の1隻の戦艦のプラモデルも沈没し、勇ましい姿の小さなプラモデルの連合艦隊は、誰から攻撃を受けたわけでもなく、勝手に全滅したのです。
真冬なので、さすがに、プールの中に入って沈んだ戦艦のプラモデルを引き上げることは出来なかったのです。
こうして、谷君の時と同じく、横山君も、真冬の小学校のプールサイドで涙を流し泣いていました。
横山君のプラモデルの戦艦の沈没理由として考えられることは、接着剤がちゃんと乾いていなかったのか?それともモーター部分に水が入り沈んだのか?詳細な原因は分かりませんが、確かに、この横山君の費やしたプラモデルの制作の時間と、お小遣いを貯めるために費やした時間は、間違いなくプラモデルの連合艦隊と共に、真冬の学校のプールの藻屑と消えたのです。
泣きながら横山君は私に「どないしよう?」と、言っていましたが、私はそんな横山君に「知るかぁ」と返事を返しました。
そして、友達の作るプラモデルの最終結末にいつも私に「ドキドキ」「ハラハラ」する展開が待っていました。
このような想い出は、私にとってかけがえのないものです。