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【東大文科三類19組駒場祭企画】 「駒場から本郷まで歩いてみた カフェ巡り編」
この記事を見つけてしまった皆さん、ごきげんよう!
こちらは東大文科三類19組です。弊クラスの駒場祭企画の一つとして駒場から本郷まで歩くことになりました。歴史ある有名建造物を巡る班と綺麗な夜景を巡る班、素敵なカフェを巡る班に分かれています。当記事はカフェ班の紀行文です。カフェ班では駒場から本郷の間にあるカフェを訪れました。本当にどれも素晴らしいカフェばかりです。それではごゆるりと。
駒場キャンパスを出発
2022年10月某日午前10時、我らが「カフェ探検隊」は、東京の街に点在するという珠玉のカフェ探しをスタートした。偉大なるGoogle大先生によれば、駒場から本郷までは徒歩で約2時間かかるという。我々は長旅になる予感を抱きながら本郷に向けて歩き出した。
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去る晩秋、やがて来たる冬…。中の人は最近人生初のコートを買いました。
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コカマキリ「ヤー! パワー!」
1. 松涛に鎮座する宝石:「ガレットリア」
東京大学駒場キャンパスこと駒場外国語大学附属自然公園(正式名称)から渋谷駅まで歩く通りに「ガレットリア」なるカフェがあるとのことで、我々探検隊は調査することにした。ガレットリアではその名の通り「ガレット」をいただけるらしい。それまでの人生ろくにカフェ探しなどしなかった私には、ガレットが何かすら分からなかった。未知の世界への恐怖感と何かが始まる期待感に揉まれつつ、私は出雲大社の平成の大遷宮で手に入れた蘇守を握りしめ、ガレットリアへと侵入した。
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ガレットを知らない方は少なくないと思われる。そこで偉大なるWikipedia大先生にガレットが何か教えていただく。
”ガレットはフランス料理の名称”
”日本では特にそば粉生地を薄く焼いたブルターニュ風ガレットを指すことが多い。”
”ブルターニュ地方は雨が多く小麦の育成には不向きな土壌であり、痩せた土地であった。中国からソバが伝わると、貧しい農民や労働者はソバを利用したガレットなどを主食とするようになった。”
だそうである。
緊張でカチコチになっていた我々のもとへいよいよ料理が運び出されてきた。ガレットを見た我々はそのあまりの輝きに気絶しそうになった。
いざ、その料理をご覧あれ。
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慣れないナイフとフォークを使い、ガレットを食べやすい形に切る。ガレットの生地は柔らかく、ナイフはまるで自身が何かを切っているということにすら気づかぬように滑らかに皿の上に到達した。
ガレットを口に入れる。小麦粉の生地とは舌触りと風味が少し違う、柔らかなそば粉の生地。チーズの塩気にトマトの酸味、それらを和らげる卵のまろみ。シャクシャク音立て崩れる白菜。
これは旨い、と私は思った。食感、味、このガレットの全てが音符となり旋律を奏でている。
我々探検隊は、もはやガレットが既知のものとなった嬉しさに加え、このガレットを「初めて」食べることはもうできないのだという寂しさをほのかに感じながら最後の一切れを口に入れ、味わった。それからガレットリアを後にした、「また来よう」と頷き合いながら。
2. 駒場で文豪の気分を体験:「BUNDAN COFFEE&BEER」
東京大学駒場キャンパスこと駒場外国語大学附属自然公園(正式名称)のそばにある駒場公園(正式名称)。その正門付近に位置する「日本近代文学館」に文豪の気分を味わえるカフェ「ブンダン」があるとの噂を聞きつけ、我々は調査することにした。「文豪の気分」……。毎年遊ぶん学部文学部へ多くの人材を輩出する文科三類の民としては心躍るワードである。我々は駒場公園内部にある旧前田家本邸の和館と洋館をしばし眺めてからブンダンへと足を踏み入れた。
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中へ入るとまず大きな本棚が目に飛び込んでくる。その本棚の中に又吉直樹の『火花』が見えたので読みながら料理を待つことにした。
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私のお目当ては村上春樹の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に登場する朝食を完全再現したメニューである(ちなみに読んだことはない)。渡されたメニューを開くと他にもいろいろ興味深い料理があった。
「芥川、鴎外、谷崎潤一郎の炭酸水、夏目漱石のあたたかいチョコレート、シャーロック・ホームズのビールのスープとサーモンパイ……」
それぞれのメニューの下には説明が書かれているのだが、これがまた面白い。数々の文豪のエピソードなどが書かれており、メニューを読んでいるだけでも楽しかった。
いよいよ料理が届く。「ハードボイルド・ワンダーランド」の朝食セットである。これが、世界が終わる日の朝に主人公が最後に食べた朝食……(※読んだことはない)。
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それではいただこう。
大ぶりのソーセージをナイフで切り分ける。弾力のあるソーセージはナイフを拒み逃げようとするが、なんとか捕まえる。そして口に運ぶ。ソーセージは口の中でやはり逃げようとするが私の歯は逃さなかった。歯によってほぐされていくソーセージ。肉汁が噴き出してくる。旨い。次にソーセージの後ろに隠れていたフランスパンを捕まえ口に運ぶ。ガリッと耳に心地良い音が響く。シャキシャキとした野菜を食べ、「芥川」と名付けられたコーヒーを飲み終え完食。
世界が終わる日の食べ物は、たとえ普段吐きそうなほど不味いものでも、きっと美味しく感じられることだろう。しかし、明日世界がどうなろうとも、この朝食の美味しさは不変のものだ。
我々は完食したあとも、朝食の余韻に浸りながらしばらく静かに本を読み、それから「ブンダン」を後にした。
3. 代々木公園散歩がてらにジェラートを:「fun. ice!」
代々木公園そばに、冷たいジェラートをひっそりと売り続ける店があるとの噂を隊員2が聞きつけてきたので、我々は調査することにした。中の人にはジェラートとアイスクリームの区別がつかなかったので、再び偉大なるGoogle大先生にご教示いただいたところ、どうやらアイスクリームとジェラートでは乳脂肪分が異なるそうである。ジェラートの方が乳脂肪分が低いらしく、要するにヘルシーなのだ。度重なるカフェ探しの影響で糖尿病と肥満の危険性が著しく高まっている我々探検隊にとってはありがたい話である。
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「fun.ice!」さんのジェラートは全品卵不使用なので卵アレルギーの方でも安心である。生産者から旬の果実や野菜を直接仕入れ店内でジェラートを作っているそうだ。
我々は店内へ侵入し、どのジェラートを選択するかで苦悩した。
私が選んだジェラートはこれである。
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白、淡い緑、淡い茶色。秋ですね。
私はまず「ミルク」のジェラートを口に入れた。冷たさとなめらかさが舌をくすぐり、ミルクの濃厚さが鼻へと抜け、ジェラートを飲み込んだ後も残った。次に「ピスタチオ」のジェラートを口に入れた。ピスタチオ特有のまろやかなコクが口の中を駆け巡り美味しい。そして最後に「焦がしキャラメル」のジェラート。口に入れた途端、頭の中に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。「焦がし」と名のつくからには炙った香ばしさを味わえるのだろうと予想していたのだが、想像以上だったのだ。キャラメルの甘さ、それを受け入れつつしかしその逸脱を制御する「焦がし」の苦さ。甘さと苦さ、一見対立しているように思える両者が、むしろただ甘いだけじゃない、ただ苦いだけじゃない、深みと統一感のある新しい味わいを生み出していたのだ。アウフヘーベン。互いに否定しあうことなく、むしろ手と手を取り合って高みを目指す甘さと苦さの両者を、我々も見習わなければならないと感じた。
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「fun.ice!」さんでジェラートをいただいた我々はしばし代々木公園を散歩した後、更なるカフェを見つけに新宿方面へと歩き出した。
刻一刻と寒くなっていく中でも冷たいジェラートを販売し続ける「fun.ice!」。しかしそこには、素材にこだわり体に優しいジェラートを作る温かさがあった。
4. 新宿でお洒落なフレンチトーストを:「cafe AALIYA」
日曜日の午後、秋にも関わらずねめつけるような日差しが煩わしい新宿の街を我々探検隊は彷徨っていた。ものすごい人の数で目眩がする。こんなところに秘宝なんてあるのだろうか?
我々の探していたカフェは「cafe AALIYA」。どうやらフレンチトーストなるものをいただけるらしいと他の探検隊の隊員から聞いたのだ。我々は新宿の街をゆく華美な服装をした人々と高層ビル群を見比べた。緑豊かな駒場外国語大学附属自然公園(正式名称)で日常を送る我々にとって、新宿の街はもの珍しい光景なのだ。
人波に揉まれながらも目的地にたどり着いた。
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どうやらお店は地下にあるらしいが、日曜日の午後ということもあってか、束の間のバカンスを過ごす他の探検隊が押し寄せてきており、行列に並ぶこととなった。行列に並ぶ最中、我々は地下の様子を伺おうとしたが徒労に終わった。しかし、秘宝を既に手にしたらしい他の探検隊が満足そうに階段を上がってくる様を何度も目撃し、この地下にある秘宝が只者ではないことを察した。
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自分たちの分の秘宝がなくなってしまわないか気が気でなかった。
いよいよ我々が秘宝を受け取る番となり、フレンチトーストと対峙した。
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この探検によってナイフとフォークの扱い方にも慣れてきた。
煌びやかなフレンチトーストを前に我々はしばし緊張で硬直していたが、勇気を振りしぼりナイフとフォークを手に取った。
いよいよ食す。
先に食べ始めた隊員3が、口に入れるやいなや「これはうまい」と笑い出した。
私も丁寧にフレンチトーストを切り分け、まずは何もつけずに口に入れる。途端、思わず隊員3と目が合い笑ってしまう。
口に入れるとすぐとろけてしまうほど柔らかいフレンチトースト。あまりの衝撃で味わう前に思わず飲み込んでしまった。もう一回、何もつけていない状態のフレンチトーストを口に入れた。また、笑みがこぼれる。口に入れると溶けていく。そしてほのかに甘い。今度はキャラメルソースをかけていただく。やはり美味しい。我々はよく味わってこのフレンチトーストを完食した。
フレンチトーストを食べ終えた我々は他の探検隊と同じく満足げに階段を上り、再び新宿の喧騒へと一歩を踏み出した。
もう新宿の街は怖くない、堂々と歩こう。
5. 新宿の喧騒から逃れ会話を:「新宿ダイアログ」
「cafe AALIYA」から堂々と歩き始めて3分、新宿の大通りから新宿御苑へと向かう脇道へ逸れたところに、とあるカフェを見つけた。
「新宿ダイアログ」。我々は長居するこそなかったものの入ることに決めた。
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新宿ダイアログはベジタリアンうってつけのカフェである。偉大なる食べログ大先生に伺うと、健康に良さそうな料理が数多く存在することがわかる。我々が訪れたのは昼時というにはかなり遅い時間であったため、ランチメニューはほとんど売り切れてしまっていた。我々は時間的余裕を持ち合わせていなかったため、すぐに飲めそうな「酵素ソーダ」と「ジンジャーエール」を頼んだ。
3階の席へと案内された。我々は窓側の席から外を眺めた。
傾き始めた黄金色の太陽の光が室内へと差し込み、外には新宿御苑の豊かなみどりがほの見える。我々の隣に案内された別の探検隊は仲良さげに談笑していて、笑い声が日曜午後の新宿を彩った。
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開放的な雰囲気です。
いよいよ我々のもとへドリンクが運び込まれてくる。
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インスタ映えする酵素ソーダとジンジャーエール。
爽やかな酵素ソーダとジンジャーエール。炭酸の泡が絶えず浮かんでは消える。酵素ソーダの底の方に沈むブドウの実も炭酸の泡を身にまとっていた。
酵素ソーダを口に近づけていくと、ただの炭酸ブドウジュースとは異なる、ワインのような芳醇な香りが鼻に抜けていった。一口飲んでみる。やはりただの炭酸ブドウジュースではない。ほんの少し発酵したブドウの風味が口の中で転がる。甘すぎるということもなく、渋すぎるということもなく、すっきりとした味わいで美味しい。
飲み終えた我々は会計を済ませるために2階へと降りていった。2階でも他の探検隊によって絶えず会話が繰り広げられ、普段は自動車や大広告の音が絶えず聞こえる新宿とは思えないほどほんわかとした雰囲気が醸し出されていた。ダイアログ。私はその重要性をこの探検の間に再認識し始めていた。
私が代金の650円を支払おうとすると、ランチメニューにありつけなかった我々探検隊のことを思ってか、「まけるよ!払うのは500円でいいよ」と店員さんがおっしゃってくれた。我々は今にもこぼれんとする涙を拭って代金を支払い、霞む視界の中転げ落ちないようにそろりそろりと階段を降り、再び歩き出した。
「新宿ダイアログ」。その名の通り、騒がしい新宿の街のはずれに、豊饒な会話と優しさがひっそりと存在していた。
6. 新宿御苑の緑を眺めつつゆったりと:「BOWLS cafe」
「新宿ダイアログ」から歩いて2分のところ、新宿御苑のそばに穴場のカフェが存在しているとの噂を聞きつけ、調査することに決めた。牧歌的な日曜の午後、新宿御苑から帰ろうとする家族やカップルを横目に、我々探検隊は「BOWLS cafe」へと侵入した。
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落ち着いた店内が新宿の喧騒を忘れさせる。隣の席に座っていた貴婦人方が中国へ旅した時のことを静かに話していたのでしばし盗み聞きしながら料理を待った。我々探検隊はいかなる時も情報収集を欠かさないのだ。今回も中国のカフェについて何か有力な情報を得られるのではないかと思ったが結局得ることはできなかった。
いよいよ料理が届く。
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ナッツがルーの上に散らされ、赤と黄のパプリカが色彩を加える。
カレーを一口分すくうとスパイスの香りが鼻をくすぐり抜けていった。口に入れるとナッツがザクザクと音を立て、続いてスパイスが舌を刺激する。飲み込んだ後もスパイスの風味が残り続けクセになる。甘すぎず若干アジアンな感じが美味しい。
カレーを食べ終えた私のもとにプリンが届いた。
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ほどよくかためのプリン。口に入れるとほのかな甘みとカラメルのほのかな苦味を感じる。私は古き良き昭和を感じ、涙した(平成15年生まれ)。
我々は新宿御苑の緑を眺めていた。新宿御苑を出てくる人の流れは絶えない。太陽が人々の笑顔を照らす。人々の笑顔を観察する木々も、そよ風に枝をまかせ、心なしかご満悦の表情を見せている。
探検隊に入るまでは、世界がこんなにも明るく、輝かしい場所だとは思ってもいなかった。私はとめどなく溢れる涙を、カレーのスパイスと昭和のノスタルジーをもたらしたプリンのせいにした。
7. 神楽坂で大人なフレンチトーストを:「シマダカフェ」
新宿から歩き続けそろそろ疲れ始めた我々は、メッキが剥がれ、ほのディープな雰囲気が姿を現しつつある日没後の神楽坂を歩いていた。街灯のオレンジ色の光が上品である。
神楽坂は雰囲気の良い路地が数多く存在している街である。人々を魅了してやまない神楽坂の路地がどのようなものか探索すべく、我々はとある路地へと侵入した。
路地を進んでいくとあるカフェに出会った。「シマダカフェ」さんである。
「シマダカフェ」さんの内部は世間で騒がれているらしいハロウィンの装飾がなされていた。薄暗がりに暖かいライトが色を生み出す。我々は案内された席に腰を下ろし料理を注文した。
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談笑していると料理が届いた。
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真ん中の蝋燭が1/fゆらぎを感じ心地よい(?)
それではいただこう。
私はフレンチトーストを切り分け口に入れる。カリッと音を立てたかと思うと中は驚くほどトロトロフワフワである。「cafe AALIYA」さんのフレンチトーストがフワフワストレート160km/hであったのに対し、「シマダカフェ」さんのフレンチトーストはカリフワカーブ135km/hであった。梨のコンポートも美味しい。
しばらくフレンチトーストを食べ進めた私は、届いた「初恋ソーダ」を飲んだ。しかしこれがまた衝撃的なものだった。
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初恋ソーダはノンアルコールカクテルで、ザクロの香る炭酸にフレッシュライムを一絞りしてある。私は一口飲んでみた。なるほど、甘酸っぱさがどこか初恋の懐かしさを思い出させる。そして飲み込んだのだが、余韻はなんと、苦味。初恋は甘酸っぱい、しかし、やがて破滅するその初恋の余韻は、苦い。
感慨に浸りながらちびちびと初恋ソーダを飲んでいた私を隊員4は茶化した。
「めっちゃゆっくり飲むね」
「忘れたくないからね」
それでも日々記憶は薄れていく。初恋の記憶も薄れてしまっていたし、きっとこの探検の記憶もいつかは消えてしまうのだろう。しかし、忘れ去られていた記憶は時々、「お前、俺のこと忘れたのかよ」とでも言わんばかりに飛び出してきて私を混乱させる。私にとっては初恋ソーダがその起爆剤だった。
この探検の記憶が蘇るのはいつになるのだろうか、いや、そもそもこの探検の記憶が消えてしまうのはいつなのだろうか。私はそんなことを考えながら「シマダカフェ」を後にした。
8. 小さな路地を抜けた先に茶葉の香りが:「神楽坂 茶寮 本店」
「シマダカフェ」を後にした我々は引き続き路地探索を続けていたのだが、しばらく歩くと、豊穣な茶葉の香りが我々を手招きした。我々は吸い寄せられるようにして歩き続け、気がつくとあるカフェの前にいた。
「神楽坂 茶寮 本店」。路地探索は諦めようと私は思った。我々はカフェに呪われているのだ。「飛行機は美しくも呪われた夢」ならぬ「カフェは美しくも呪われた夢」。我々は内部へと侵入した。
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路地裏でひっそりと探検隊を待つ行燈が愛らしい
店内には茶道に用いられる柄杓や茶釜が置かれていた。我々は案内された2階の席で談笑しながら料理を待った。
いよいよ料理が届く。
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手前の「炙りサーモンといくらの出汁茶漬け御膳」があまりに美味しそうで、夕食を食べずにこの記事を執筆している11月某日午後11時30分現在、中の人はキレそうである。
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私は「利き茶アイス」をいただいた。利き茶アイスでは玄米茶、抹茶、煎茶の3種類のアイスを楽しむことができる。抹茶アイス、煎茶アイスを一口ずつ食べ味の違いを感じてから最後に玄米茶アイスを食べた私は驚いた。抹茶アイスも煎茶アイスも濃厚で美味しかったのだが、玄米茶アイスの濃厚さは群を抜いていたのである。玄米茶の香ばしさが口の中にも鼻の中にも充満し、まるで周りの空気の構成比が窒素78%、酸素21%、アルゴン0.9%、二酸化炭素0.03%…から玄米茶100%に変わってしまったような錯覚にとらわれた。私はあふれる玄米茶の中で窒息寸前であった。慌ててセットで頼んでいた抹茶をいただくと、周りの空気の構成比は玄米茶100%から玄米茶50%、抹茶50%に変化し、私は事なきを得た(?)。
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4羽の鶴が未来へ向けて円陣を組んでいる。
食べ終えた我々は、次も得体の知れない何かに手招きされるのではないかと怯え(少し期待もしていたが)、足早に路地から神楽坂通りへと抜け出した。
神楽坂……。なかなか恐ろしく、そして、なかなか楽しい街である。
9. 後楽園での散歩後にホッと一息:「葵屋 びいどろ茶寮」
あのびいどろの味ほど幽かな涼しい味があるものか。…(中略)…あの味には幽かな爽やかななんとなく詩美と言ったような味覚が漂って来る。
「びいどろ茶寮」……。2つのビー玉を優しくぶつけてみた音のような、どこか涼しさを感じさせる「びいどろ」という単語に、サラサラ手の平からこぼれ落ちていく水を連想させる舌触りの「茶寮」という単語。
長らく小石川後楽園内部を散歩し続け喉の渇きを感じていた我々探検隊は退園することにした。そこで出口まで歩いていったのだが、入園時には気づかなかったお店を見つけた。それが「びいどろ茶寮」さんであった。
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小石川後楽園の入園料は大人1人300円であるが、こちらは園外に位置しているため入園料を払わなくても入ることができる。
我々は後楽園を見渡せる席へ案内された。
しばらく談笑していると「季節の和菓子とお抹茶」が届いた。
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抹茶を一口飲む。やはり抹茶を飲むと気分が落ち着く。今夏熱海と鎌倉で抹茶をいただいたときは、飲んだ瞬間にカーンと頭が冴え渡り、みずみずしい葉や木々が喉を優しく撫でていくかのような感覚を覚えた。そのときは底の薄い夏茶碗と夏らしい和菓子で涼しさを感じたが、今や秋。こちらでいただいた抹茶は厚底の冬茶碗に入っており、和菓子も秋を感じさせる「栗」に「月兎」であった。もうすぐで凍えるような寒い冬がくる。夏に涼しさを感じさせた抹茶は、今度は我々に寄り添うようにして体も心も温めてくれるはずだ。
私は茶碗に大人しく身を潜める抹茶を眺めた。抹茶は動かず澄んでいるかのように思えるが、実際には濁っていて茶碗の底は見えない。私はその濁った抹茶の中に何があるのか探り当てるようにして少しずつ飲んでいく。そのたびに頭が冴え渡り、数々の情景が頭に浮かんでくる。色づき始めた木々に、落ち葉を踏み分ける乾いた音。深い森で彷徨っているとどこからか漂ってくる芳醇な木々の香り……。
こひまつちや 色づき始めた 木々と君 落ち葉踏み分け 裂ける身も葉も
またつまらぬ短歌を思いついてしまった。抹茶を飲むたびに短歌が空から降ってくるので困っている。いつもは持ち歩いている手帳に思い付いた短歌をメモするのだが、今回ばかりはメモする気にならなかった。私はこのつまらぬ短歌を心の中に大切にしまっておくことに決めた。
我々は「涵徳亭 びいどろ茶寮」を後にした。本郷はもうすぐである。
10. 本郷の歴史の重みを感じながら:「喫茶ルオー」
駒場キャンパスから歩き続け、いよいよ本郷キャンパスが見えてきた。我々は本郷キャンパスのそばを走る本郷通りを北上していた。
しばらく歩くと、かの有名な赤門が見えてくる。
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赤門を通り過ぎさらに歩き続けると、昭和レトロを感じさせる喫茶店が見えてくる。
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「喫茶ルオー」さんだ。画家の森田賢氏が1952年、赤門前に開店した「画廊喫茶ルオー」が閉店後、1979年に移転し営業を再開したのが現在の「喫茶ルオー」さん。昭和の時代から東大の学生が入り浸ってきたお店だ。
我々は2階の席へ案内された。
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しばらく談笑していると料理が届いた。
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「セイロン風カレーライス(セミコーヒー付き)」を注文した。昔ながらのカレーである。口に入れた瞬間には甘いカレーかと思ったが、スパイスによって気がつくと額に汗をかいていた。肉がほろほろと口の中でほぐれ、ほくほくのじゃがいもが子ども時代の懐かしさを感じさせる。美味しい。
私はかつてこの店を訪れたであろう先輩たちのことを想った。
私が生まれる遥か前の1952年から、このお店は学生の議論の場であった。今回我々が訪れた際も、東大の文学部生と思われる学生が江戸時代の財政について語り合っていた。東大紛争の際は、怪我をした学生がこちらへ逃げ込んできたこともあったそうだ。悠久の昔から、様々なバックグラウンドを持った学生が集い、様々な議論や世間話をしていた……そう考えるとこの場が異常な重みを帯びてくる。私には半袖のYシャツを着、学帽を膝に乗せ、暑さのせいか緊張のせいかカレーのせいかは分からないが額から汗をかき、意中の相手と一生懸命話をする昭和の学生の姿が見えた。
懸命に頭を捻って考えてみると、実は我々探検隊も東大生である。今はまだ1年生として駒場で過ごしているが、2年生の後半になれば本郷へ強制収容される隊員が大半だ。
我々もこの「喫茶ルオー」を訪れた学生の仲間入りだ、我々も彼らの系譜を継いでいる身なのだ。我々の存在はやがて「この店を訪れた学生たち」の存在と溶け混じり合い、「喫茶ルオー」という一つの大きな布を構成する一要素となる。そう考えるとゾワっと鳥肌が立つ。
カレーを食べ、その後に運ばれてきたケーキも食べ終えた我々探検隊は「喫茶ルオー」さんを後にした、「本郷に通うようになったら常連になろう」と約束して。
本郷キャンパスに到着
「喫茶ルオー」さんを後にした我々はいよいよ本郷キャンパスに到着した。
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我々は歩き切った達成感を噛み締めながら安田講堂へ向かって歩いていく。
今回の探検では計22km、約7時間歩行した。
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偉大なるGoogle大先生は計11kmの経路を我々に提示しなすったが、10のカフェのためにその2倍の距離を歩くことになった。しかし、偉大なるGoogle大先生が提示した経路を歩くよりもきっと多くの発見をしただろうと感じている。
いよいよ安田講堂の前へ到着した。
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沈んでいく太陽が安田講堂を照らすのをやめ、名残惜しそうに離れていった。
我々は安田講堂の前に立った。足が棒になった我々の前に、あと数年で竣工から100年を迎える安田講堂が立ちはだかる。そのあまりの荘厳さに我々は恐ろしくなる。
私は約1年前、必死に受験勉強をしていた時代を思い出した。
受験期にはいろいろなことが起こった。
共通テスト当日にトンガ島が噴火し、刺傷事件も起こった。二次試験一日目の前日にはロシアがウクライナへ侵攻した。私は普段あまり湯船に浸からないのだが、直前期は毎日湯船に浸かっていた。ロシアがウクライナへ侵攻したその日、私は湯船に浸かりモクモクと立ち込める湯気をぼーっと眺めながら頭の混乱を抑えようとしていた。時代は変わりつつある。そのことを肌で感じたその日、私は、これからの時代、自分はどうやって生きていったら良いのかを真剣に考えていたのだ。しかし結局分からず、まずは受験に合格するしかないのだと自分を納得させた。
「私も歴史の中に組み込まれている人間のうちの1人である」。このことをカフェ探しの最中にひしひしと感じた。しかし、自分がこれからの時代にどのようにして生きていったら良いのかはまだ分からない。「これからの社会を生きるあなたたちにはこのような資質が求められますよ」と言う人はたくさんいるけれど、実際にそれらが本当に求められているかなど誰にも分からない。
時々、立ち止まりそうになる。自分自身にのしかかる諸問題と、社会の抱える諸問題が、複雑に絡まり合って一つの重い鉄球となり、私の上に落ちてくる。
しかし、「歩き続けるしかないのだ」とこの歩行中に何度も思った。隊員6が歩行中に「歩き続ければ全部解決するよ」と冗談で言ったが、私はこの言葉に強く賛同した。
これからの世界で何が起こるかは分からない。我々はもしかしたら日々細くなっていく綱の上を歩いているのかもしれない。しかし、屁理屈かもしれないが、綱がどんなに細くなっていったとしても、その綱がどれほど虫食いだらけだったとしても、そこには面積が存在している。我々はきっと踏破できる。だから歩き続けなければならない。
我々はお互いの健闘を讃え合い、しばし安田講堂を眺め感慨に耽った後、解散した。我々の探検はきっとこれからも続いていくだろう、「人生」という形をとって。
編集後記
以上が我々の駒場から本郷まで歩いた軌跡である。ここまで読んでくださった皆様、ありがとう。ここからもだいぶ長くなるがぜひお付き合い願いたい。
カフェとは、いったい何なのだろうか。
人生で初めてカフェに行ったのは高校2年生の春だった。かの有名なスターバックスである。慣れないカタカナのメニューを噛みながら店員さんに伝えると、店員さんは私の全く知らないサイズ表記を提示することで応戦。私は長居するつもりは毛頭なかったにも関わらず「ヴェ、ventiサイズで(一番大きいサイズだ)」とドヤ顔で注文し痛い目を見た。私は空いている席に一人で恐る恐る座り、周りで仲間と楽しそうに美味しそうに飲む垢抜けた人々を観察し、「自分はここにいるべき人間ではない」と悟った。それから2年、全くカフェには行かなかった。むしろ「カフェとかいう雰囲気だけの場所になんて金輪際行くもんか!」とさえ思っていた。
転機が訪れたのは2022年7月。人とカフェに行き、「あれ?」と思った。楽しい、と感じたのだ。それから一人で因縁の相手であるスタバへ行き、あっさりと倒した。どうやらカフェは自分が今まで思っていたものとは違うらしい、と気がついた。駒場祭企画で駒場から本郷の間にあるカフェを巡ろうと決定した時、迷わず参加することに決めた。
仲間と行くカフェがこんなにも楽しいとは思わなかった。
普段の授業で見る姿とは異なる仲間の姿。普段マスクの下に隠された豊かな表情。弾み、段々と深まっていく会話……。私は衝撃を受けた。
我らが探検隊に限った話ではないだろう。
さまざまな来歴を持った人々が、さまざまな理由でカフェにやってきては消える。さまざまな人間関係が凝集し泡立っては消える。カフェに来ても必ずしも楽しいとは限らない。好きな人とカフェに来て緊張してうまく話せず苦い思いをする学生もいれば、失恋を仲間に慰めてもらう人もいる。こんな光景が、全国、いや全世界で、現在だけでなく昔から繰り返されてきたのだ。一つ一つのカフェが「歴史」を背負っている。カフェは決して雰囲気だけ取り繕った場所などではない。こんな当たり前のことに大学生にもなって初めて気がついた自分に絶望するとともに、新たな成長を感じた。
感染症流行により飲食業界が大打撃を受けたことは記憶に新しい。カフェも例外ではなかった。感染症により今述べたような「カフェの役割」が少なからず失われてしまったことが残念である。遠くない未来に、再びカフェが人間関係の布をつくる役割を惜しみなく果たせるようになることを願っている。この紀行文を読んだ方が少しでもカフェに行きたくなってくれていたなら、私の役割は十分に果たされたと言えよう。
まだまだ書き足りないような気もするが、ここまでとする。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
ブログ掲載を許可してくださったカフェ様方、ありがとうございました。
そして、文三19組のみんな、ありがとう。
2022年11月某日 晩秋の木々薫る駒場キャンパスにて。
文三19組カフェ探検隊 隊長H
文三19組ではこの小企画以外にも8個ほど企画を実施しました。
以下のQRコードから企画内容を見ることができます。
興味のある方はぜひご覧になってください。
![](https://assets.st-note.com/img/1668495318704-lWpplSKbnr.png)
他にもフランス革命人生ゲームを作ったり、フランスクイズを作ったり…、どうやら料理対決もあるらしい?!
これは見るしかない!!