42歳一独身公務員の旅行記(東京編)①「ロスト・イン・トーキョー」
それで僕は東京にいる。東京のど真ん中の、JR新橋駅のSL広場にいる。
友人の田宮(仮名)は俳優をしていて、彼が舞台にでる、というので大阪から東京にやってきたのだ。1泊2日で。で、観劇後に新橋に来たのだ。
田宮は、僕がまだ役者志願だったころ、とある演劇のプロデュース公演で共演したことをきっかけに仲良くなった。
ボクシングを題材とした舞台だった。田宮はお金持ちの両親から超過保護に育てられた、世界最弱にして最強のチャンピオン役、僕は彼のライバルであり、前科27犯でスキンヘッドの凶悪ボクサーの役だった。約1ヶ月間の稽古期間中、田宮と僕はずっと練習していた。田宮の芝居に対する取り組み方は本当にストイックで、僕が下手なアドリブをすると彼は本気で怒ったものだった。
「オギヤマサン!練習通りやってよ!」(ちなみに彼はその舞台の直後、芸能事務所からスカウトされるのだが。)
僕は三角での食事を終え田宮と別れた後、そのまま茅場町のホテルに戻るのが勿体なく、新橋にきたというわけだ。
19歳の時、(20年以上も前になるが)僕は大学受験で生まれて初めて1人で大阪から東京にやってきた。その時初めて新橋駅に降り立った時のドキドキ、胸の高鳴り、あのフワフワした浮遊感、一生忘れられない。圧倒的な人の多さ。並び立つ高層ビル。きらきら光る街灯、ネオン。近未来都市感。初めてトーキョーを目の当たりにした衝撃は凄まじかったことを覚えている。
40歳の僕は19歳の気持ちに束の間戻り、新橋近辺を彷徨い歩き始めた‼️
新橋から少し歩き、まずは銀座を彷徨う。
銀座、数寄屋橋交差点、三越、不二家・・・このいかにも江戸って感じのネーミングも良い。銀座は夜がよく似合う・・。
銀座をブラブラ歩き、また新橋に戻る。
新橋で、僕はどうしても見ておきたいものがあって、それを見にいくことにした。
SL広場から烏森口に移動し、高架下を背に烏森通りを歩く。カプセルホテルのアスティルがあり、両脇は居酒屋、コンビニ、ラーメン屋、と看板がビカビカ輝き、酔っ払ったサラリーマン達が笑い声をあげながら歩いている・・・。
さらに歩き続ける。やがて、烏森通りの飲食店はだんだんと少なくなり、オフィスビルが増えてくる。通りはにわかに暗くなってくる・・。
それでも歩き続ける。無心で歩き続ける・・・。いつしか自分は20年以上(正確には21年)前の、19歳の自分に戻っている!
大通りの交差点に差し掛かる。
この交差点に出た瞬間、だ!
「あっ!!」
遠くで、オレンジ色の光が見えた!
東京タワーだ!
そうだ!これなのだ!!
19歳、初めてこの交差点から東京タワーを見た時に、「やっぱり東京で一発あてないとあかんわ!」てなんかそれはもうわけわからんくらいエネルギーが腹の奥底から溢れ出てきたのだった。
少し歩いたら、東急インとビルに隠れて東京タワーは見えなくなった!
暗闇の中、静かにオレンジに輝き続ける東京タワー。やはり、東京のランドマークは東京タワーだろう。
この場所にくるとついつい、もう19歳には戻れないんだなー、とか、あの頃はガムシャラだったよなー、なぞ、ついアマでおセンチな青春ドラマの主人公気取りな気分になってくる。
ええか、いうとくで、あんた川口春奈ちゃうで。独身のおっさんやで。ええやん!そんなんわかってるし!
フワフワした気持ちのままあまりに心地よくて、僕は夜風を浴びながら茅場町のホテルまで歩いて帰ったのであった。
おしまい
宜しかったら、スキしてください!
また、他のエッセイも宜しくお願いします。