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成長記録
こどもの成長記録ってつけていますか?
赤ちゃんのころ、1歳までは頑張って毎日記録していた。だけど、それ以降は毎日過ごすのに必死でそんな暇はないー。なんてことが多いと思います。
身長と体重は年に数回学校で計測しています。これほどデータが取れる国って他にはないらしいですよ。(詳しくは学校保健統計調査を見てください)
極端に成長の異常が疑われる例についてはその値で医療機関の受診が指示されると思います。
せっかくこんなデータがあるのに医療に活かせていない問題があるのでご紹介します。
大腿骨頭すべり症
大腿骨はこどもの骨のときはこんな形です。先端の丸いところ(骨頭)と長い部分(骨幹部)とは成長軟骨で繋がっています。
出展:https://www.soysource.net/2018/08/slipped-capital-femoral-epiphysis/
成長軟骨はもっと小さい年代では横に広く、大転子と呼ばれる部分まで繋がっています。
成長とともに、大人の骨に置き替わっていき、ついには大腿骨の首部分にあたる頚部と呼ばれる部分に薄く残ることになります。その時期が成長期が始まる前になります。
軟骨は大人の骨と比べて構造的に弱いので、その時に強い力がかかることで壊れてしまいます。そうすると上の図の右側の様に骨頭がずれてしまいます。この状態になると大腿骨頭すべり症と診断されます。
日本国内における発症率は10万人あたり3人程度と言われています。これは近年急激に増加していると報告されています。その原因として食生活の欧米化や生活様式の変化による肥満が影響しているのではと考えられているのです。
大腿骨頭すべり症は発症してしまうと治療がかなりやっかいなものとしてわれわれの中で認識されており、とても悩ましい疾患の1つです。
治療法として決まったものはありますが、今のところそれを行ったとしても将来的な成績は良くありません。最高の治療はまだまだ確立されていないと言うことです。
出展:https://www.ctisus.com/responsive/teachingfiles/musculoskeletal/180086
この画像はこの疾患の代表的な例で、向かって右側の大腿骨は潰れて変形しています。脚の長さも変わってくるため、大人になる前までに数回の手術が必要となることもあります。
肥満の解消による予防の可能性
では、どうすることができるのでしょうか。
まずは、下の表を見て下さい。
これは小児の各年齢における身長と体重を男女別に層別化したもので、パーセンタイル曲線と呼ばれます。同じ年代に100人いたとすると、上の線から(97, 90, 75, 50, 25, 10, 3)人目までがそこに入ることを示しています。
90以上となればBMIで上位10人に入ります。日本人の肥満度は欧米にくらべて低いですが、90パーセンタイル以上となると肥満の人である確立は高くなることでしょう。他にも上のグラフでは日本人の成人の標準BMIである21-22あたりが50%のラインになっていることがわかります。
この図はBMIパーセンタイルと大腿骨頭すべり症の発症数を棒グラフで示しています。一目瞭然でBMIと大腿骨頭発症との関係性がわかります。90パーセンタイルというラインが1つの目安になります。
男児の10-13歳が大腿骨頭すべり症の好発年齢のため、その間の90%のラインを確認すると、『BMIが21以下(10歳),23以下(13歳)』というのが1つの基準となってくると思います。この時期の男児は成長期を迎え、急激に体格が変わってくるので、BMIも大きく変わる可能性があります。瞬間的ななものではなく、定期的に計測することも重要になってくるかもしれません。
そこで、学校でせっかく計測しているのであれば、その値で危険性を知らせることができるはずなのに、その様な取り組みはこれまで聞いたことがありません。これはわれわれの仕事がまだ足りないからと言われそうですが、もともと有病率が低い疾患であったため認知されていないことも関わっています。
クリニックでは身長、体重が気軽に測れて、そのデータを各自が自由に見られるようにすることを考えています。既存のアプリでも同様の機能があるので、それを利用するかどうかも含めて今後の検討です。
股関節脱臼の予防と含めて、体重のコントロールだけで予防できる可能性のある『大腿骨頭すべり症』もいっしょに予防していきたいです。
中川将吾
小児整形外科専門ドクター