「お金・相場」に関する幸福否定 6:相場における異常行動・心因性症状-1


* 用語説明 *

幸福否定理論:心理療法家の笠原敏雄先生が提唱。心因性症状は、自らの幸福や進歩を否定するためにつくられるという説。娯楽は難なくできるのに、自らの成長を伴う勉強や創造活動に取り組もうとすると、眠気、他の事をやりたくなる、だるさ、その他心因性症状が出現して進歩を妨げる。このような仕組みが特定の人ではなく人類にあまねく存在するという。

抵抗:幸福否定理論で使う"抵抗"は通常の嫌な事に対する"抵抗"ではなく、許容範囲を超える幸福、自らの成長・進歩に対する抵抗という意味で使われている。

反応:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など


前回は、反応について、もう少し詳しく説明する必要を感じたため、1970年代に小坂医師が精神分裂病の治療法を通じて反応を発見し、心理療法家の笠原先生が幸福否定理論へ発展させた過程、そして、現段階において私が芸術、金融に関する反応を調べるようになった経緯を書きました。

今回は、相場において観察できる反応(心因性症状・異常行動)について書いてみたいと思います。


本連載の主な主張点と、他の分野との前提の違い


当連載においての主張は大きく分けて、

①相場において、観察できる異常行動(不合理、自滅的な行動)は、脳の作用ではなく、「幸福否定理論」で言う反応であり心因性症状である。

②相場における反応の原因は、お金儲け以外の側面に主な原因がある。

の二点になります。

まず、①の相場において、観察できる異常行動は、脳の作用ではなく、「幸福否定理論」で言う反応、心因性症状である、から説明していきたいと思います。

近年、"人間の不合理な行動"を扱っている分野として、行動経済学が注目されています。

私は、この分野に関しては、"人間の行動は合理的である"という架空の前提をもとに発展してきた経済学を批判し、"人間の行動は合理的ではない"という、素人からすると当たり前の事実に立脚し、大きな方向転換をした、という意味での功績は大きいと考えています。

行動経済学では、投資における不合理な行動も取り上げており、様々な具体例は参考になるのですが、不合理な行動の原因は、心因性の症状ではなく、"脳の錯覚である"という、根拠のない前提があります。(注1)

この前提は、素人でもわかるような間違いがあるのですが、その点についても、簡単に書いておきたいと思います。

行動経済学の代表的な学者であり、2002年にノーベル経済学賞(正確にはスウェーデン銀行賞)を受賞した、心理学者のダニエル・カーネマンは、

"私は脳の中の二つのシステムをシステム1、システム2と呼ぶことにしたい。(中略)

・「システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。(筆者注:経験や直観で判断し、深く考えないで判断するケースのこと)

・「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしまるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連つけられることが多い。"(筆者注:考えて判断するケースのこと)
(『ファスト&スロー』(上)/ダニエル・カーネマン著,2014,p41)

また、システム1および2という名称は心理学で広く使われていると述べています。

しかし、主著である『ファスト&スロー』の"結論"(同(下)、p326)において、"このシステムが実際に脳の中のどこにも存在しないことも、よく理解されていることと思う。"と、何らかの方法で確認された事実ではない事を、あっさりと述べています。

また、全く別の問題を全て、システム1、システム2という分け方で扱っている事にも問題があります。

以下の4例は、ダニエル・カーネマン、リチャード・セイラーというノーベル賞経済学賞を受賞した、行動経済学を代表する学者の代表的な著書に
挙げられている例ですが、これらを"システム1、もしくは2の脳の働き"で説明しています。

例1:ミュラー・リアー錯視

画像1

(出所:WIKIPEDIA

3本の線を比較すると、真ん中の線が長く見えるが、上記の水平線は全て同じ長さである。(参考:カーネマン,上,2014,p53)

例2:

バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?

(中略)バットとボール問題に答えた大学生の数は数千人に上るが、結果は衝撃的だった。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、プリンストン大学の学生のなんと50%以上が、直観的な、つまりまちがった答え(筆者注:正解5セント,誤答10セント)を出したのである。(引用:カーネマン,上,2014,p83~84)

例3:

決定1 次のいずれかを選んでください。

A 確実に240ドルもらう。
B 25%の確率で1000ドルもらえるが、75%の確率で何ももらえない。

決定2 次のいずれかを選んでください。

C 確実に750ドル失う。
D 75%の確率で1000ドル払うが、25%の確率で何も失わない。

(中略)回答者は得をする場面ではリスク回避的になり、損をする場面ではリスク追及的になりやすいことが確かめられた。

(中略)回答者の73%が決定1ではA、決定2ではDを選び、BとCの組み合わせにした人は、わずか3%にすぎなかった。
(引用:カーネマン,下,2014,p186~187)

例4:アッシュの同調実験

画像2

(出所:WIKIPEDIA

紙に書いた線の長さの比較で、どれが同じ線か?どちらが短いか?などの質問をし、答えが明解な質問に関しても、3割以上の人が周囲(サクラ)の明らかな間違いに同調する、という結果を得た有名な実験。

行動経済学の研究者で、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーは、著書『実践行動経済学』の中で、アッシュの同調実験を扱っている。(参考:p94)


以上の4例を見てみると、確かに、日常において、注意を払わずに経験や直観で決断する場合(システム1)と、深く考えて対応する場合(システム2)がありますが、上記においては例2のみが、錯覚に該当します。

例1は器官の問題なので、同じ長さの線に長短を感じたとしても、"正常"であり、治療や訓練を必要とはしません。カーネマンが定義する、システム1を使ったからという事にはならないでしょう。

例3、4のリスク回避と、集団への同調という問題は、脳の問題ではなく、非常に重要な心理的な問題であり、本連載で取りあげる相場における反応(心因性症状、異常行動)にも大きく関係します。

確かに、人間には基本的にリスクを回避する傾向や、集団へ同調する傾向があります。しかし、同時に、そのような"現状維持"や"目先の安心"に安住しないように、わざわざリスクをとって成長を促す不安定な環境を選択するという特徴も、人間のもう一つの重要な側面になります。

相場に置いては、お金を稼ぐという目的で始めたとしても、

・原則として思考や判断は自分自身のみ
・材料は、チャート、値動きのみ
・世の中(対象)の仕組みの検証を繰り返す
・成長しないと損失を出し続ける(反省の繰り返し)

という状況に否応なしに置かれてしまいます。

相場で観察できる心因性症状や異常行動(不合理な行動)が、人間に内在する幸福否定という仕組みによるものと判断していれば、幸福否定を乗り越える必要性が出てきます。

対して、脳の錯覚という狭い考え方に押し込めてしまうと、"もともと人間は、難しい事は判断できないから、国や専門家が簡単にパッケージ化して
選ばせればよい”という方向に対策が進む事になってしまいます。事実、カーネマンとセイラーの著書には、そのような対処例が多く載っています。

以上が、行動経済学と私の考え方の違いになります。

次に、②の

・相場における反応の原因は、お金儲け以外の側面に主な原因がある

を簡単に説明したいと思います。

"お金儲け以外の側面に主な原因がある"という点に関しては、相場においては、所得が高く、資産がある人でも多くの人が失敗するので、ある程度の確証は得ています。

しかし、"では何が原因なのか?"という点に関しては、"このような可能性があるのではないか?"という着想を得ている段階であるため、今後、検証が進むにつれて、新たな内容や視点が追加される可能性が高いという事をお断りしておきます。

現時点で想定している反応の原因としては、

まず

・値動き・チャートを通して、(自分自身の願望を入れずに)世の中の仕組みをありのまま見る
・自分自身の内面をありのまま見る
・行動として、リスク回避、集団への同調を乗り越える
・本来ならば関係がなさそうな、物や事象の繋がりを探る

という、点で必然的に非常に強い抵抗に直面するという事が挙げられます。

"世の中の仕組みをありのまま見る"、"集団への同調を乗り越える"という点については、私自身の経験を本連載での2回、3回で扱った"信用創造"を理解してから、金(Gold)を保有するに至った経緯にあたります。(注2)

また、"経済的に制限され、生活に時間を奪われる状態"よりも"自由な状態"のほうが抵抗が強いため、"自由そのものへの抵抗が原因である”という可能性も考えましたが、そうすると、ある程度の資産がある年金生活者(経済的な自由、時間的自由を既に手にしている)には、抵抗が働かない事になります。

しかし、相場に関しては、既に経済的、時間的自由を得ている人が成功するという事はありません。

私は、自分自身の経験も踏まえ、相場で出る反応は、"自由な状態"も含め、通常の生活に関係する"初級者クラス"とは異質であると考えています。

また、各々違う視点で、相場に取り組んでいるにも関わらず、"このやり方ならば、たいした抵抗はない"というやり方が存在しないのも不思議な点です。

私は、自身の関心が強い"世の中の仕組み"という視点でチャートを見ますが、例えば、フィボナッチ数列(エリオット波動)で相場を見たり、周期という視点で相場を見る人もいます。

抽象的な表現になってしまいますが、相場における反応に関しては、各々の関心が強い分野の根源的な原理に迫る時に出現するような、強い反応が出ると感じています。

この点に関しては、上記の通り、様々な要因の着想を得ている段階なので、本連載の後半で、まず自分自身が相場において、どのように反応を追いかけ、どのような症状が出たか?という経緯を書き、その後、(許可が取れればという条件がありますが)別の人の具体例を追加する、という方法で進めていきたいと思います。


それでは、"相場に対する抵抗"を見ていきたいと思いますが、"相場に対する抵抗"の中にも"相場そのものの抵抗"と、”それ以外の抵抗”があるので、検証の対象を絞る事から始めてみたいと思います。


相場において観察できる異常行動・心因性症状:検証の対象


一口に"相場で観察できる異常行動・心因性症状"と言っても、様々な人が様々な目的を持って取り組むので、それぞれの原因があります。

そのため、相場をやる目的別に分けて、考えてみたいと思います。

相場師や実業家の著書やインタビューなどは、かなり脚色されているものが多く、"実際は、実務は別の人物が中心になってやっていた"という事もよくあります。

あえて、イメージしやすいように著名人の例を挙げますが、あくまで表に出ている情報を元にした説明です。


A 権力・競争に勝つことが目的で相場に取り組む人

・ジェシー・リバモア (1877年7月26日 - 1940年11月28日、米国相場師)

現在でも関連本が出版されている著名な相場師。4度破産し、自殺している。

・ドナルド・トランプ氏
・孫正義氏

両氏共、ビジネスの根幹は、安く買って高く売り抜ける事です。相場、投機、投資の目的が、権力を得る事や、競争に勝つ事になります。

良し悪しは別として、いつの時代にも、上記のようなタイプの人は必ずいます。これらの人は、投機・投資で成功し、資産形成はできています。それ以外の、権力やビジネスのシェアを得る事、時価総額などの争いで、無理を承知でリスクを取っているので、本連載の研究対象ではありません。


B 研究対象として相場に取り組んでいる人

・ジェームズ・シモンズ氏(数学者・ファンドマネージャー)

数学者としても実績があり(理論物理学の発展に貢献した、チャーン・サイモンズ理論が有名)、現在、最も安定的なリターン成績を出している、ルネサンステクノロジーというヘッジファンドの代表でもあります。

あくまで、表に出ている情報での推測ですが、恐らく、数学、統計への関心が主であり、相場は研究対象なのではないか?と思います。ルネサンステクノロジーは、金融業界よりも科学者を優先して雇用するという話もあります。

・レイ・ダリオ氏(世界最大のヘッジファンド、ブリッジ・ウォーター・アソシエイツの代表)

最も著名なファンドマネージャーの一人であり、影響力も大きい人物ですが、国家の成功や衰退に関する著書(発売予定)、"危機"に関する著書など、数百年のスパンでのデータを基に、様々な社会現象を研究しているようです。もちろんファンドマネージャーの実務的な才能も豊かなはずですが、研究者としての側面も持っていると感じます。

・W・D・ギャン(1878年6月6日 - 1955年6月18日 米国の著名な投資家・テクニカル分析の開祖と言われる)

存命の人物ではないので、運用成績や手法などはわかりませんが、著書を読んだ限りでは、研究者気質の投資家だと思います。

また、私の知人に著書を出版している投資家がいるのですが、とにかくチャートや数字を見ているのが好きで、お金は勝手に増えるという捉え方をしています。

要はデータを使って、社会構造やパターンの分析に没頭するようなタイプの人達ですが、このようなタイプの人は、もっとも資産形成しやすく、成功者も多いため、お金に関する幸福否定は、ふつうの人より極端に弱いと考えられます。よって、本連載の研究対象ではありません。

但し、これらの人は、傍から見ると何の問題もないように見えますが、偏った人が多いため、人間関係が苦手であったり、日常生活の雑事が苦手であったり、本当は芸術家になりたかったのに、そちらは全く取り組めないなど、それぞれの幸福否定というものは存在しています。


C 所得を増やしたい、資産形成をするために相場に取り組んでいる人

大多数の経営者、事業主、被雇用者、いわゆる一般人。

生活資金や事業資金を増やしたいと思い、相場に興味がありながら、

・金融の知識がないために、相対的に自分の財産が減っているのに、根拠なく相場の勉強を否定する人
・相場の勉強に取り組めない
・相場をやってもうまくいかない

という問題点があり、うまくいっていないという人々です。

全体の半数以上の人が該当するのではないでしょうか?

本連載はこれらの人の、お金・相場に関する幸福否定の研究が対象になります。

D ギャンブルとして相場をやる人

次に、ギャンブルとして相場をやる人を考えてみたいと思います。

様々な事例が混在するので、まず、

1、ギャンブルの対象として相場をやる人
2.本来の目的は、資産を増やす事だが、結果的に博打的な売買になってしまう人

に分けて考えてみたいと思います。

まず、1のギャンブルの対象として相場をやる人"に関しては、近年ではギャンブルは、パチンコや競馬、麻雀、課金制のオンラインゲームなどが主な対象となっており、相場は対象になりにくいと考えています。

ギャンブル依存症で調べてみるとわかるのですが、ギャンブルは、胴元がいて、偶然性が高いものに金品を賭ける事を言うようです。また、性質として、"快感を伴う"という特性があります。(注3)

対して、相場に求められるものは、勉強(分析、検証)と自己規律ですから、例えば相場のデイトレードのように、チャートを何時間も見ながら観察し、タイミングを待つという作業は、ある種の修行のような感覚であり、快感とは遠いものがあります。

パチンコと比較するとわかりますが、相場においては、"没頭している間は、日常の嫌な事から解放される"という事もありません。

よって、相場はギャンブル依存症で定義されているギャンブルとは性質が違うので、1のケースは本連載では研究の対象としません。

次に、2の、"結果的に博打的な売買になってしまう人"関しては、次のようなケースが考えられます。

*勉強をせずに相場を始める人(上記C)

上記のCの人達は、勉強せずに投資や資産運用を始めるため、博打的な売買になります。しかし、すぐに損失を出すため、大多数が投資をやめてしまいます。

*成功後の反省の回避

次に、ある程度相場で成功した人が、自らが成功したルールが通用しなくなった時に、それまではルールを厳守した売買であったにも関わらず、博打的な売買に走り、損失を出し続ける事があります。

何冊かの本や、ブログ、動画、投資家の知人との飲み会などでの話を総合すると、これらは多くの人が通る共通の体験であることがわかってきました。

段階としては、

①自分が成功したルールが通用しなくなる。

②損失を取り返そうと、ポジションを増やし、損失を膨らませる。(精神的には、失敗を認めない状態)

③損失を取り戻そうとするため、自分が理解していない、他の投資法に投機的に手を出す。(根拠がない売買をやっているため、祈っているような状態)

④更に損失を拡大する

というような段階を踏む事が多いようです。


しかし、これらは相場に限った事ではなく、商売においても、

・あるお店で成功
・店舗拡大
・流行りが廃れて、全店舗で売り上げ減少
・他の流行りに手を出して、失敗

というパターンがあり、また、経営、スポーツチームや国家など、様々な分野で繁栄~衰退という流れで見られる現象だと考えています。

どの分野でも、成功したルールが通用しなくなったという時には、撤退、仕切り直しをするしかないのですが、実際に経験してみると、非常に難しい事のようです。

これらの現象に関しては、

・自分の許容範囲を超えた成功そのものが原因
・成功したルールが使えなくなった時に必要な、反省の回避

が本質的な問題となります。

この点については、ギャンブルとしての相場という視点よりも、様々な分野の"過剰な成功"や"失敗時の対応"という相場を超えるテーマになります。
相場そのものの抵抗からは外れるのですが、幸福否定という観点から、簡単に検証してみたいと思います。


相場において観察できる症状(心因性症状・異常行動)の具体例


次に、具体的にどのような症状としての異常行動が観察できるのかを見ていきたいと思います。

対象は、上述した通り、C

生活資金や事業資金を増やしたいと思い、相場に興味がありながら、

・金融の知識がないために、相対的に自分の財産が減っているのに、根拠なく相場の勉強を否定する人
・相場の勉強に取り組めない
・相場をやってもうまくいかない

という問題点があり、うまくいっていないという人々です。

現在、私が把握している症状に限定されてしまいますが、以下に①~⑤の段階に分けて、説明したいと思います。

①最低限の知識についての勉強ができない

具体的な例としては、

・利回りの目安(複利)
・資金配分
・勝っている人の割合
・チャート(ロウソク足)の読み方

など、基本的な事柄の勉強をしようとすると、娯楽に逸れるという逃避行動や、だるさ、眠気、頭痛などが出るという人がいます。

②自分のやり方を確立できない

ある程度、資金管理を勉強ができ、チャートの基礎的な見方もわかるようになると、"自分のやり方を確立する"という段階に入ります。

これは、やる事を決めるという側面もありますが、手を出さない事を決めるという作業にもなります。

・自分自身の適正を探る
・世の中の仕組みを知る(事実を知る)
・異種の事物の関係性を探求

という内容になるので、創造的な活動になるとも言えます。

③自分のやり方を確立しても、その通りに行動できない

代表的な例としては、

"ポジりたい病(ポジポジ病)”と呼ばれる不合理な行動があります。これは、自分自身が購入するタイミングではないのに、ルールに反してポジションをとってしまう現象です。

エントリー(何かしらを買う、売る)、利食い、損切り全てにおいて、ルールに反した行動をとってしまうという現象が見られます。

④自分のやり方通りにポジションを取っても、精神的に不安定になる。やめてしまう。

この点に関しても、長期に渡って利益を出し続ける人は、売買の勝ち負けに一喜一憂しないという特徴があるようです。自分の資産が増えたり減ったりする中で、喜んだり、落ち込んだりしないというのは、ある意味不自然という事になります。

仮に利益が出ていたとしても、疲れ果ててしまう人もいますし、緊張状態(これ自体が反応)から解放されたくて、ポジションを切ってしまう事もあるでしょう。

⑤自分のやり方を確立し、その通りに行動し、成功した後、ルールが通用しなくなり資金をなくしてしまう。

この点については、上述したように、相場だけではなく、経営、スポーツチームの戦略、国家戦略など、様々な分野において、観察できる現象だと考えています。

単なる"失敗"とは違い、"成功の終焉"という観点のほうが正確に検証できると思いますが、相場と経営や国家戦略は、

・経営や国家戦略は集団(社員や国民)の同意が必要なので、方針転換がし辛い。(逆に、スポーツチームなどは、現在うまくいっている戦略が通用しなくなる事が想定されているため、監督の交代という形で方針転換がしやすい。)

・相場は単独であるため、他者との関係はないが、サイクルが早い事と、レバレッジの問題があるため、歯止めが効かないという問題が起きやすい。

という違いがあります。


以上、便宜上、5段階に症状を分けましたが、次回から、一段階ずつ、具体例を挙げてながら検証していきたいと思います。

注1:
"本書で私が目指すのは、認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえて、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介することである。この分野のとくに重要な進歩の一つとして、直観的思考の驚嘆すべき点とともに、その欠陥が明らかになってきたことが挙げられる。(引用:『ファスト&スロー』(上)、カーネマン、2014、p26~27)”

注2:
2019年6月から金が上昇を始め、新型コロナウイルスにより経済成長への不信感が出てきている事から、金を保有が推奨されだしましたが、私が資産を移した2017年~2018年にかけては、現在とは状況が違い、金の保有を推奨する動きは、極一部を除いてありませんでした。そのため、自分自身の感覚としては、かなり勇気がいる行動であったと言えます。

注3:
病的賭博 米国の診断基準(DSM-Ⅳ 1994)

A,以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される持続的で反復的な不適応的賭博行為。

(1)賭博にとらわれている。(例、過去の賭博を生き生きと再体験すること、ハンディをつけることまたは次の賭けの計画を立てること、または賭博をするための金銭を得る方法を考えることにとらわれている)。

(2)興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をしたいという欲求。

(3)賭博をするのを抑える、減らす、やめるなどの努力を繰り返し、成功しなかったことがある。

(4)賭博をするのを減らしたり、またはやめたりすると落ち着かなくなる、またはいらいらする。

(5)問題から逃避する手段として、または不快な気分(例、無気力、罪悪感、不安、抑うつ)を解消する手段として賭博をする。

(6)賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を"深追いすること")

(7)賭博へののめりこみを隠すために、家族、治療者、またはそれ以外の人に嘘をつく。

(8)賭博の資金を得るために、偽造、詐欺、窃盗、横領などの非合法的行為に手を染めたことがある。

(9)賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育または職業上の機会を危険にさらし、または失った事がある。

(10)賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態を救うために、他人に金を出してくれるように頼る。

B,その賭博行為は、躁病エピソードではうまく説明されない。
(引用:田辺等『ギャンブル依存症』 NHK出版,2002)
参考文献:
『ファスト&スロー』(上、下)/ダニエル・カーネマン著 村井章子訳 早川書房,2014
『実践 行動経済学』/リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著 遠藤真美訳 日経BP,2009
『ギャンブル依存症』/田中等著 NHK出版,2002





いいなと思ったら応援しよう!