前回は、ロバート・ケネディJR氏の著書を参考にしながら、HIVウイルスの発見に関わった、ロバート・ギャロ博士とリュック・モンタニエ博士が、HIVウイルスとエイズをどのように関連付けているのかを検証しました。
本稿では、キャリー・マリス博士の著書『マリス博士の奇想天外な人生』(福岡伸一訳)から、科学者の倫理的な問題点を検証してみたいと思います。
=キャリー・マリス博士の主張=
当時、マリス博士は資金提供者に向けて、PCR検査でレトロウイルスを検出する方法を開発する計画の、経過報告書を書いていました。
以上がウイルスの検出方法の専門家であるマリス博士が、HIVウイルスがエイズを引き起こすという学説の根拠となる論文を探した時に、直面した科学者達の態度に関する文章になります。
次に、マリス博士はデューズバーグ博士が著名はウイルスの研究者であった事、ウイルスががんを引き起こすと考えていた事、その研究には多額の資金が投じられたが、自説の誤りに気が付いた事に言及し、その時の研究者の態度について以下のように述べています。
デューズバーグ博士の態度と、周辺の研究者の態度が真逆である事に言及した後に、「ウイルスががんの原因である」という説に従い、研究をしていた科学者が、一斉にHIVウイルスとエイズの研究に鞍替えをした事が書かれています。
マリス博士は、HIVウイルスがエイズの原因という証拠がない、という主張の後、エイズの診断がどのようになされるかについて言及しています。
以上が、キャリー・マリス博士の主張になります。
その後、「地球が太陽のまわりを回っている」と主張して自宅軟禁の刑に処せられた、ガリレオの例を挙げながら、
という主張になります。
マリス博士は、多くの科学者がお金や利権、権威に屈していると考えているようですが、私自身は、大半の科学者が「事実検証が最も重要な責務」という事について、認識すらできていない事、具体的にはデューズバーグ博士を非難した科学者の態度が、科学の世界でも一般的な社会でも普遍的に観察できる事に基づいて、幸福否定理論で言う抵抗が原因で、結果として権威に従属する事になる、と考えています。
=主要人物の主張の変化=
2024年現在、HIVウイルスがエイズの原因であるという、いわば政治的なコンセンサスが得られてから、約40年が経過しています。
前稿や本稿で扱った、1980年代~90年代にかけての主要人物がそれぞれ主張していた時代の科学的なエビデンスの量と、現在を比較すると、積み重なっている論文の量が圧倒的に違います(ロバート・ケネディJR氏の著書によると、約5万本)。そのため、現在において、それぞれの主要人物の主張が変わっているかどうかを確認する必要があります。
アンソニー・ファウチ博士・・・主に政治的な主導を行っているため、現在でも「HIVウイルスがエイズの原因である」という主張は変えていない。
ロバート・ギャロ博士・・・HIVウイルスがエイズの原因であるという立場は変えていないが、1986年にヒトヘルペスウイルス(HHV-6)をエイズ患者や慢性疲労症候群の患者から検出した、と発表。
1994年の論文「Human herpesvirus 6 ㏌ AIDS」においても、「HHV-6は免疫系の主要な細胞に感染し、殺す能力があるため、HIV感染を加速させる因子として働く可能性がある」と発表。研究論文では、HIVウイルスが単一でエイズを引き起こすとは主張していない。(参考:『人類を裏切った男(中)』/p291)
リュック・モンタニエ博士・・・表向きは、HIVウイルスがエイズの原因であるとの立場を続けるが、本人の著書や周辺の証言によると、1980年代からエイズの唯一の原因がHIVウイルスとの主張はしていない。晩年は、西洋医学、投薬、対処療法から離れ、自然治癒力を高める代替医療に傾倒しており、外部から侵入するウイルスよりも、ウイルス感染しながら発症しない宿主の身体の状態に関心が移ったと推察できる。
キャリー・マリス博士・・・2019年に死去したが、HIVウイルスはエイズの原因ではない、という主張は変えていない。同時に、PCR検査をウイルス検出に安易に使うべきではない、と主張している。
ピーター・デューズバーグ博士・・・HIVウイルスはエイズの原因ではない、という主張は変えていない。薬物、治療薬などエイズ(後天性免疫不全)を起こす原因を提示しながら、アフリカの人口の推移からHIVウイルスは危険ではないと主張している。(参考:「AIDS since 1984 no evidence for a new viral epidemic--not even ㏌ Africa」/Duesberg Lab)
以上が、1980年代から現在までの主要人物の主張の変化になります。
=南アフリカの人口推移=
デューズバーグ博士は、南アフリカでは、2000年~2005年の間に実質的に年間、約1万人しかエイズで死亡していないとしています。しかし、別の資料では、年間20万人強の死亡数になっています。
エイズの適用範囲を狭義にするか、広義にするかで、これだけ差が出てしまうので、部外者が年間死亡数で検証するのは難しいと言えます。
次に、一時期は成人の4分の1がHIVウイルスに感染していたとの説もある、南アフリカの1980年~2024年までの人口推移を見てみたいと思います。
(グラフ筆者作成)
出生率は1960年に約6人、1980年に約4.8人、2000年以降は2.3~2.4人に下がり、2024年まで横ばいを続けています。
私個人の見解としては、
・ギャロ博士、モンタニエ博士の主張には矛盾が見られる反面、マリス博士、デューズバーグ博士の主張には一貫性がある。
・南アフリカの人口推移から、国民の2割に近い人口が、死亡を免れず、母子感染する感染症に羅漢したとは判断しにくい。
と、考えています。
=どのような原因で免疫不全が引き起こされるのか?=
以上、HIVウイルスとエイズ(後天性免疫不全)に関する疑惑について書いてきましたが、HIVウイルスとエイズの関係に不自然な点があっても、エイズが存在しないというわけではありません。
一時期、慢性疲労症候群とエイズは同じ病気ではないか?と科学の世界でも言われていたようですが、免疫が正常に働かない状態であるエイズをはっきり定義する事が難しいという側面もあります。
免疫不全の原因は単一ではありませんが、まずデューズバーグ博士の主張から見ていきたいと思います。
=デューズバーグ博士のエイズの原因に関する主張=
また、上記の主張が書かれている、1992年に発表された論文『The role of drugs in the origin of AIDS』では、エイズの治療薬のアジドチミジン(AZT)が白血球減少などを引き起こし、エイズの症状が薬物と治療薬の副作用に相関があるという主張もなされています。
確認のため、筆者がAZT(商品名、レトロビル)の副作用を調べた所、赤血球障害、白血球減少、消化管障害などが2割前後の患者で起こっている事が記載されていました。当時は、現在の約3倍の量が投与されていたので、多数の患者に赤血球障害、白血球減少が起こっても不思議ではありません。
また、AZTの作用機序を調べた所、「本剤はHIVの逆転写酵素と競合しDNAに取り込まれた後、DNA鎖の伸長を停止することで逆転写酵素の活性を阻害する」(引用:日経メディカル 処方薬辞典 核酸系逆転写酵素阻害薬(抗HIV薬)の解説)と記載されています。
私自身、専門的な事に詳しいわけではないのですが、少なくともDNAに取り込まれ、作用する薬である事は間違いがないようです。
次に、状況証拠による相関関係になりますが、米国でのAZTを服用したエイズ患者の生存期間に関する記述を見てみたいと思います。
つまり、HIVウイルスではなく、薬物中毒や処方された薬によってエイズが引き起こされたとの主張になります。
実際に薬剤が慢性的な免疫疾患を引き起こす事があるのでしょうか?
次稿では、HIVウイルスから離れ、化学物質で引き起こされた免疫不全について検証してみたいと思います。