心が潤った小さな出来事
どうしようか迷いに迷ったすえ、やっぱり一生に一度のオリンピック気分を肌で感じたいと思い、ロードレースのスタート地点に見学に行った。
「何もこんな暑い中見に行かなくてもいいんじゃない?」
「沿道での応援は控えるように言われてるよ?」
「特別ロードレース興味ないでしょ?」
など行かないように自分で色々理由を作ってみたが、やっぱり行きたいという本音を優先することにした。スタートの15分前にそそくさとTシャツと短パンで自転車にまたがってスタート地点に向かった。
皇居や赤坂御所近くでしか私は遭遇したことがなかった、路上封鎖を見た。端々に強い日差しの中に立つ警察やオリンピック関係者の人々。「暑い中、ありがとうございます」って心の中で思い、小さくペコっと頭を下げながら通り過ぎた。
案の定、スタート地点はスマホを手に持って撮影している近隣の人たちで既に一杯だった。頭上にはヘリコプター、道路は報道関係、何台もの救急車やパトカーが待機していた。
スタートぎりぎりに到着した私は結局、選手たちはよく見えなかった。必死に背伸びして一目(ひとめ)見ようとしているうちに、「頑張れー!」という声もやみ、前の方で見ている人たちが解散していくのを見て、ああ選手たちは全員もう行ってしまったのだと知った。
アスリートの気迫を間近で感じて、暑いという理由ですっかりだらけ切ってしまった自分の気持ちの底上げをしたかったのでちょっと残念に思いながら何となく少し減った見学者の中に残った。
出発した選手たちの後には、選手たちの予備用と思われる自転車を車の頭に4台くらいずつ積んで運んでいく車の行列、オリンピック、報道関係車両、何台ものパトカー、救急車に白バイが続々と後をゆっくりついて行く。
この人たちもこれから長旅だなって思って見ていると、まだ残って見ていた人たちが「行ってらっしゃーい」「かっこいい」と温かい声援と共に手を振って見送った。車の中からも「行ってきまーす」というように手を振り返してくれた。
オリンピックの開催に関しては色々言われているが、こんなにも沢山の人がこのイベントを支えている。
そしてその人達にもエールを送る人がいる。
なんだかそのやり取りをみて、心がじーんとした。
やっぱり今日、来てよかった。
何のためにわざわざ見にきたかったのか自分でもわからなかったけれども、きっとこんな心の潤いを求めていたのだなと確信した。