【NFTアートチャリティーオークション開始記念対談】塩のアーティスト山本基×マネックスグループCEO松本大×Famiee代表内山幸樹
一般社団法人Famiee( https://www.famiee.com/ )はより持続可能で、多くの方々から共感いただけるような運営を目指し、2022年1月に「NFTアートチャリティーオークション」( https://charity.famiee.com/ )をスタートいたします。
その第一弾として、アーティストの山本基さんとマネックスグループの松本大さんが、同性パートナーシップ証明書の発行プロジェクトの支援のためNFT作品を提供。
これを記念して、山本さんと松本さんをお迎えした対談が実現いたしました。
お二人のつながり、提供作品『たゆたう庭』のエピソードをお聞きし、Famiee代表の内山からもプロジェクトに対する思いなどを語り合いました。
年明けに、Famieeの次のサービス開発に向けた資金集めのための「Famiee NFTアート・チャリティ・オークション」を開催します。
— Famiee ファミー (@FamieeP) December 29, 2021
本日は、第1回目の作品提供をしてくださるアーティストの山本基さん(@motoi_art )と作品所有者のマネックス松本大(@okimatsumoto )さんに対談いただきました。 pic.twitter.com/3zz76Nbni8
<参加者プロフィール>
●山本 基(やまもと もとい)様
Photo: Toshiyo Suzuki
1966 年広島県尾道市生まれ。現在、金沢市在住。
浄化や清めを喚起させる「塩」を用いてインスタレーション作品を制作。床に巨大な模様を描く作品は長い時間を掛け、一人で描き上げる。展覧会最終日には作品を鑑賞者と共に壊し、その塩を海に還すプロジェクトを実施している。近年は企業とのコラボレーションも手掛けるなど精力的に活動を展開している。
プロフィール詳細
HP: https://www.motoi-works.com
Twitter:@motoi_art
Instagram: @yamamotomotoi
●松本 大(まつもと おおき)様
1963年埼玉県浦和市出身。
マネックスグループ社長CEO、マネックス証券・カタリスト投資顧問・コインチェック・トレードステーション会長、Human Rights Watch Vice Chairmanなどを務める。
マネックスグループでは本社壁面を用い、社員とアーティストの共創プログラム「ART IN THE OFFICE」を実施するほか、個人で社会起業家やコンテンポラリーアーティスト支援の「ボイジャー2号」も運営。
公式ブログ:https://ameblo.jp/monex-oki/
Twitter:@okimatsumoto
●モデレーター:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]代表 塩見 有子(しおみ ゆうこ)様
●聞き手:一般社団法人Famiee代表 内山 幸樹(うちやま こうき)
※以下、敬称略
◆2人の出会い
(写真左上:塩見/右上:山本/中央下:松本)
きっかけは「ボイジャー2号」
塩見:
まずはお二人の出会いのきっかけについてお話いただけますか? 実は私もその時に立ちあっていたわけですが(笑)。
松本:
もう10年以上も前になりますね。私がコンテンポラリーアーティストとソーシャル・アントレプレナー支援をする小さな会社「ボイジャー2号」を持っており、2010年のスカラシップに山本さんが推薦を経て、応募してきてくださいました。
山本:
アーティスト活動をしていたものの、お金はないわ、行き当たりばったりで一番大変な時期でしたね。
当時ドローイングをした作品を撮影するための高性能なカメラがなく、スカラシップで得た支援でNikonのD800という最新のカメラを購入しました。私の作品は塩で作るものが多く会期が終わると無くなってしまいますが、それを写真に収め、より多くの方に見て知ってもらうきっかけも、このカメラが作ってくれました。
また新しい取り組みとして「渦巻」をモチーフにした制作を始めたのもその頃で、今回の作品「たゆたう庭」もそのシリーズです。
松本:
山本さんはプレゼンで「無くならないものを作りたい」と話していましたね。
その時僕は……これはまるで告白みたいなのですが、山本さんに出会うべくして「出会ってしまった」と思いました。
幼少期から黒白の作品に触れて、モノクロフィルムの現像してもいましたので、山本さんのドローイングや黒い背景に白い塩がある作品に惹かれましたね。
reincarnation-子ども達と訪れた天橋立
山本:
松本さんと再び接点が生まれたのは2019年頃でした。
塩見:
「海に還るプロジェクト」ですね。これは作品で使用した塩を作品に共感した方々とともに海に還すというアクションですが、これについてもう少し詳しく説明いただけますか?
山本:
2020年、私は銀座のギャラリーで、渦巻き模様を塩で描いたインスタレーション作品を展示しました。
松本さんはその展覧会の最終日に来てくださり、みなさんと一緒に作品を壊して手で塩をかき集め、それを持ち帰っていただきました。このプロジェクトはその塩を、各々が好きなタイミングで海に還してもらうというものです。
松本:
僕は娘と息子と3人で、ノープランで天橋立に行って、そこから塩を撒きました。この僕が塩を撒いている動画は息子が撮影・編集したのですよ。楽しかったですねぇ。
塩見:
山本さんの作品に参加して、どう感じられましたか?
松本:
親子3人での旅行は本当に久々で、もう中々ないかもしれない可能性もあるわけです。
だからreincarnationと言いますか、つながりを感じましたね。
この体験までが山本さんの壮大なインスタレーションでありアートなんでしょうね。
山本:
松本さんが銀座のギャラリーで、コリコリコリコリと塩を削っている背中を良く覚えていますよ。
こうやって楽しんでもらえることも、嬉しい、幸せだなと感じられるようになりました。
◆提供作品『たゆたう庭』について
たゆたう庭
個展:“海に還る”
ショー・ギャラリー、ソルトレイクシティ 2014
© Motoi Yamamoto
お清めの塩から……再生の渦巻き
迷宮
“Return to the Sea”
ホーズィー・インスティテュート・オブ・コンテンポラリーアート、チャールストン 2012
© Motoi Yamamoto
内山:
ちなみに山本さんが作品に「塩」を使う、「海に還す」ことにはどのような意味がこめられているのでしょう?
山本:
塩を使い始めたきっかけは、24歳で脳腫瘍によってこの世を去った妹の存在です。「彼女が亡くなった」という事実を自分の中で咀嚼して、どうすれば乗り越えられるだろうかと考えました。そこで「お葬式をテーマに作品を作ってみよう」「お清めの塩を使ってみたらどうだろう」と着想を得ました。
海に還す理由は「自分が塩を地球からちょこっと借りている」という感覚があり、出来ることなら自然に還したいと思っていたからです。
それに加えて、ある出来事が重なりました。
アメリカのチャールストンで展覧会をした時、美術館のスタッフの方が作品を片付ける際にモップで、“Thank you, Mr. Yamamoto.”と描いてくれました。その様子が新聞に取り上げられ、それを見た時すごく鳥肌が立ったんです。
私はあくまで自分のために作品づくりをしてきたつもりでしたが、「自分がやりたくてやっている活動の最後の一瞬も、多くの人に喜びや気づきを与えうるんだ!」ということを発見できました。
また今回の作品にもモチーフにしている「渦巻き」にも意味が込められています。渦巻きは「生と死、再生」のシンボルとして、主に東アジアで用いられることが多いようです。
渦の形が外から内へ、内から外に向かっているように見えることから、「再生」を意味するようになったのではと思っています。
渦は小さな思い出の一つ
山本:
「たゆたう庭」と題したこの作品は、ひとつひとつの小さな泡のような形を「大切な人との思い出」という設定で描いています。
例えば「小学校の頃、妹が冷蔵庫に隠していた僕のプリンを勝手にたべちゃった」みたいなこととか、「思い出」と言うまでもない日常の些細な出来事の積み重ねを、渦巻状に紡いでいく作品なんです。
メインモチーフは鳴門海峡の渦潮で、何度も取材に行きましたよ。
塩見:
松本さんは、山本さんの作品をどうご覧になっていますか?
松本:
僕はコンテンポラリーアート全般が好きなのですが、作者が同じ時代を生きている中、作品が見ている者に手を伸ばしてきて訴えかけるようなパワーを感じるのが魅力です。山本さんの作品は、その究極ですよね。最高です!
◆思いは渦のようにつながり広がって……
塩見:
では、改めて内山さんから今回の企画を通じてFamieeが実現したいことについてお話いただけますか?
内山:
僕個人の体験としては「法律で定められた家族」やいわゆる「お父さん、お母さん、そこから産まれた子どもという家族像」に昔から窮屈さを覚えていました。
その後、近しい友人が直面しているLGBTQのカップルは結婚できないという課題を知った時「こんなにも愛しあっているのになぜ?」と怒りが湧いたんです。
そこから考え続けて、「家族のカタチをアップデートしていく必要があるぞ」と思い、「多様な家族形態が認められる社会を実現したい」とミッションを掲げたFamieeを立ち上げました。
Famieeは2021年より同性向けパートナーシップ証明書を発行していましたが、より多様なニーズに応えられる証明書や契機を生み出していく必要も感じています。
これまでは企業や個人のご寄付で運営資金を賄っていたのですが、よりサステナブルな運営の在り方を探っていました。
この度、寄付してくださる方々にも「NFTアート」という恩返しをできるような形として、そして世の中の方にも、アートや様々な世界で活躍する方々をきっかけに認知していただけるように、「NFTアートチャリティーオークション」を実施する運びとなりました。
かつて、超ウルトラ問題児だった
塩見:
松本さんは以前からFamieeの活動を応援されていて、会社にも仕組みを導入されています。今回はさらに、作品も提供していただけることになりました。その思いを聞かせていただけますか?
松本:
価値観って十人十色のものです。価値観はその人にとっては人生の全てなんですよね? だからそれぞれの価値観が存在できる・尊重されるのは大切だと考えています。
なんで共感したんだろうな……私、小さい頃から超ウルトラ問題児だったんです。それを小学校の時の先生が受け入れてくれたのが原体験にあって。
他者のメガネを通しで歪められるのではなく、ありのままの価値観が存在できるようにFamieeが頑張っている姿を見て、「私にできることがあれば応援したいな」と思い、このプロジェクトにも参加しました。
死に方も家族のカタチも自分で決める
迷宮
“AIR 尾道 2007 ”
ガウディハウス、尾道 2007
© Motoi Yamamoto
塩見:山本さんも温かく「いいよ」と参加を決めてくださいましたね。
山本:
私はたぶん問題児ではなかったですけど(笑)、松本さんの考えとほとんど同じですね。
あと、塩見さんから今回の対談の企画のお話をいただき、改めて振り返ってみたときに、「自分たちで決める家族のカタチ」という言葉がすごく響いていたことに気づきました。
というのも、私の作品づくりの原点には「死に方は自分で決めたい」「自分達の大切な人、家族の最期のあり方を自分達が決めるんだ」という強い思いがあるからです。
妹が亡くなる前、彼女は「最期は自分の部屋で、、、」と訴えていましたが、1994年当時はまだ介護保険制度が整備されていなかったため、そのハードルは非常に高かったですね。なんとか病院や親戚、友人たちの協力を得て、家で看取ることができました。
実は、私は妻も5年前に亡くし、自宅で看取ったのですが、妹の時とは全てが違っていました。つまり、障壁となっていたのは「仕組み」や「制度」だったということです。
迷宮
個展: “ザルツ”
サンクトペーター教会、ケルン 2010
Photo: Stefan Worring
© Motoi Yamamoto
もうひとつ、妻とは同棲を始めて14年間日本の法律婚をしませんでした。その理由は夫婦別姓です。二人とも自らの姓を望み、そうになったら良いよねと話していたのですが、結局、その願いは叶いませんでしたね。
2005年、展覧会のためにイスラエルに渡航する前に法律婚をしました。当時は現地の治安が悪く「万が一何かあったら、制度的に家族ではないと最期に会えない」からとやむなく婚姻届けを提出したんです。
こんなふうに、夫婦別姓を望んでいた経験もあるので、私の作品をきっかけに少しでも前進するのなら嬉しいと思い、今回参加を決めたというわけです。
法律を変えなくても「民」からできることはある
塩見:
内山さん、心、震えたのではないですか?
内山:
感無量です。作品提供の裏側にこんなエピソードがあったとは……。同じ思いを持つ方々とこのように繋がれたことをすごく嬉しく思います。
これまでのプロジェクトでの経験をお伝えさせていただくと、「思いを持った人が集まって、自分のできることをしていけば、実は法律を変えなくても世の中をかえられるんだ」と実感しているということですね。
たとえば、生命保険の会社さんが協力してくださり「Famieeのパートナーシップ証明書を持っていれば、家族として保険金を受け取れるようにしますよ」であったり、自治体レベルでも証明書を受け入れてくださったりと。
みんなができる範囲のアクションを重ねることで、少しずつ世の中が変わっていく。これはすごいことですよね?
まるで山本さんの作品ですね。今回のプロジェクトからつながりが生まれて、それがどんどんどんどん、いろんな人に広がって、渦のように世の中が変わっていく。僕もその渦の1つとして、作品の中に入れたような気がしています。
松本:
ひも理論ならぬ渦理論ですね!
一同:(笑)
内山:
これからも渦のように人や社会を巻き込んで、この繋がりを広げていきたいと思います。
みなさん、本日はありがとうございました。
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FamieeのNFTアートチャリティーオークション企画では今後も様々なアーティストや作品をご紹介予定です。
◆Famiee NFT CHARITY (特設サイト)◆
みなさんのアートを楽しむ気持ちが「多様な家族の形」を実現する一歩になります。
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