USB PDってなんなん?

こんにちは。famichuと申します。
突然ですが、USB PDというワードを耳にしたことがあるでしょうか?最近ではiPhoneやiPadもUSB PDに対応し、家電量販店などで目にしたことがある方もおられるでしょう。

しかしながら、実際のところUSB PDって何のことを指しているのか、もしくはどのように動いているのかをご存知無い方も少なくないかと思います。
この記事では、USB PDとはいったい何で、どうやって動いているのかを噛み砕いて紹介したいと思います。

なお著者はあくまでUSB PD機器やその対応部品の愛好家であり、専門家ではないことをご承知の上お読み下さい。
また、本稿はより幅広い方々に読んでいただくために、かなりざっくりと噛み砕いて紹介しています。厳密に言うと説明を一部省略している箇所もございますが、予めご了承ください。

本稿内の情報は記事作成時点(2023年11月)の情報に基づきます。


そもそもUSB PDとは

USB PDとはUSB Power Deliveryの略で、文字通りUSBという大きな規格の中にある給電(電気を送ること)に特化した規格です。
馴染み深い用途でいうと、充電器とスマートフォンなどの間などで使われています。

充電器などの給電機器と、スマートフォンなどの受電機器間で電気をやり取りするための規格

この機器間の電気のやり取りは、従来のUSBでは最大15W ※1 程度しか許容されていませんでしたが、USB PDでは最大100W、将来的に240Wまで給電できるようになります。つまり高速で機器を充電したり、より幅広い機器をUSBの電源で利用できるようになりました。
また従来のUSBでは、許容電力やその給電方法はメーカそれぞれが独自に決めてしまうこともありましたが、USB PDでは許容電力の示し方や給電方法まで規格として決められています。

まとめると、USB PDの登場によって大きな電力を給電できるようになり、安全でなおかつメーカの垣根を超えた互換性も確保されるようになりました。

※1: 電力の単位W(ワット)。やり取りされる電気エネルギーの速さを表す単位。

USB PDを使うために

USB PDを使用するためには給電時に経由する全ての機器とケーブルが以下の条件を満たしている必要があります。

  • USB PDに対応している

  • Type-CコネクタまたはLightningコネクタのみを使っている ※2

Type-Cコネクタ(左)とLigithningコネクタ(右)

例えば以下のような構成の場合、USB PDで給電することができます。

USB PDで給電可能な構成例

対して、USB PD対応のスマートフォンを使っていても、充電器がPD非対応だったり、ケーブルの片側が四角い形状のType-Aだった場合はUSB PDを使用することはできません。こういった場合、従来のUSBとして低電力で給電されるということになります。

USB PDで給電できない構成例
USB PDには対応していないType-Aコネクタ

つまりUSB PDの恩恵を受けるためには、充電器、ケーブル、充電される機器、の全てをPD対応のものにする必要があります。逆に言えばPD対応のもの同士であれば気兼ねなく使い回せます

ただし、同じUSB PD対応製品の中でも、やり取りできる電力の最大許容量は製品ごとに異なり、価格や用途に応じて選択することが出来るようになっています。
また、この電力許容量は上限であるため、それ以下の電力でも使うことができます(≒大は小を兼ねる)。そのためPD対応機器は、許容電力量が大きければ大きいほど高価になる傾向にあります。
また、許容電力量が大きいと製品サイズも大きくなる傾向もあるため、用途によって選択することが望ましいです。

※2: 厳密に言うとこれら以外のコネクタでも、充分な数の接点があり、電流、電圧の許容量にも問題がなければUSB PDで使用する事は可能(より詳細な定義は次項参照)
しかしながら、現在出回っているUSB PD対応製品の殆どはType-CコネクタまたはLightningコネクタを使用しているため、ここでは簡単にUSB PDを使用するための条件として挙げる

参考文献: USB Power Delivery | USB-IF

USB PDの仕組み

USB PDのメリットや、PD対応機器を選ぶ必要があることはわかっていただけたかと思いますが、では何をもってPD対応機器で、どうして安全に使用できるのか?という点について説明していきたいと思います。

何をもってPD対応なん?

USB PDに対応しているかどうか、というのはもちろんその製品のパッケージや説明書を見ればわかります。
ただ、同じType-CコネクタやLightningコネクタを使っていてもPD非対応の製品も世の中には出回っています(出回っているんです…)。
これらの違いは何でしょうか?

結果から言うと、以下のどちらか、あるいは両方に該当するものがUSB PDということになります。

  • USB PDに対応したICチップを搭載している

  • 3A ※3 までの電流を流すことができるケーブル

まず1つ目のUSB PDに対応したICチップを搭載しているかどうか、という点についてです。
USB PDに対応した充電器やスマートフォンにはUSB PD対応のICチップが搭載されています。更にはケーブルでさえもUSB PD対応のICチップを搭載していることがあります。

コネクタ付近に搭載されたeMarker

中でもケーブルに搭載されるICチップはeMarker(イーマーカー)と呼ばれており、eMarkerを搭載したケーブルは必ずUSB PDに対応したケーブルということになります。
ただし、このeMarkerは100W対応のケーブルには必ず搭載されていますが、60W以下のケーブルでは搭載されていない場合もあります

なお、電気を給電する側の機器(充電器等)や、受電する側の機器(スマートフォン等)にもUSB PDに対応したICチップが搭載されていますが、これらに特定の呼称はなく、単にPDコントローラやPDコントローラICなどと呼ばれることが多いです。

次に2つ目の3Aまでの電流を流すことができるケーブル、についてです。
これは先述の、eMarkerを搭載しない60W以下対応のケーブルに該当するものになります。
現行のUSB PDのルールでは、ケーブルに流れる電流が3AまでであればケーブルにeMarkerを必ずしも搭載する必要はない、と記されています。

※3: A(アンペア): 物に流れる電気の流量を表す、電流の単位。電圧×電流が電力となるため、やり取りできる電力を考える際に重要になる。

参考文献 : USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.3 | USB-IF


以下は、60W以下のケーブルにeMarkerが不要な理由についての考察です(必要でなければ読み飛ばしてください)。

現行のUSB PDのルール上では、電力をやり取りする際の電圧は主に以下の4パターン ※4 となっています。

  • 5V

  • 9V

  • 15V

  • 20V

今着目している電力とは、この電圧に今流れている電流を掛け算したものになります。
つまり、20Vで3Aを流した場合60Wということになります。また、100Wがやり取りされる場合は20Vで5Aを流すということになります。

規格上で3A以下のケーブルにeMarkerが不要な理由については特に触れられていません。しかしながら、5A(100W)時と比較すると発熱の危険性や偽造品・粗悪品が出回る可能性も低いといった点より、eMarkerが必須ではなくなったと推測できます。
また、eMarkerを搭載するにもコストがかかるため、それが規格の普及の足枷になる可能性を憂いたとも考えられます。

ただし許容電流が3A以下のケーブルで、eMarkerが搭載されていない場合でも、給電機器と受電機器のPDコントローラ間で通信を行うための配線は必須です。※5
これが無い場合、USB PDでは給電が開始されません。その理由は次の項で説明します。

※4: 厳密には過去のUSB PDにあった12Vや、現行のUSB PDのオプションにあるPPSと呼ばれる可変電圧も使用される場合がある。
※5: USB Type-Cケーブルは電力供給用の導線以外にも、データをやり取りするための導線など複数の導線が被覆の中で束ねられている。例えeMarkerが搭載されていなくても、PDコントローラ同士が通信するための導線がその束の中に含まれている必要がある。


なんで安全なん?

本稿冒頭で、USB PDの台頭により、安全で、なおかつメーカの垣根を超えた互換性が確保された、と述べましたが、具体的にはどのように動いているのでしょうか?

前項で述べた通り、USB PDでは少なくとも電力を給電する側の機器、そして場合によってはケーブル、受電側の機器にも専用のIC(以下PDコントローラ)を搭載しています。
そして、その各機器に搭載されたPDコントローラ同士が以下のようなやり取り(一般にネゴシエーションと呼ばれる)を行うことで、安全な電力の供給を実現しています。

  • 対応機器が接続されるまで電力は供給されない

  • 電力を供給する前にケーブルの許容電力を給電側へ共有しておく

  • 必要な電力がそれらの許容電力を超えていない場合のみ電力を供給する

  • 電力供給中も、許容電力を超えておらず、また正常な温度かを監視する

こういったルールのお陰で、従来のUSBと比較すると安全に大きな電力を供給できるようになり、メーカが異なる機器間での互換性も確保されるようになりました。

ちなみにこういった対策が講じられていない従来のUSBでは、ケーブルの定格を超えた使用(例えば細いケーブルに大電流を流したり)が可能で、発熱やショートが起こり、最悪の場合火災に繋がることもあります。
USB PDでは電力を供給する機器が、電力を媒介する機器の電力許容量を予め把握することで、こういった事故を未然に防ぐことができるようになりました。


余談ですが、USB PDのネゴシエーションをもう少し詳細に表すと、以下のようなステップになっています(必要でなければ読み飛ばしてください)。

  1. 機器の接続を検出すると、最低限の電力(15W以下)が給電側より供給され、全機器のPDコントローラを起動する

  2. 給電側と受電側が、互いにUSB PDに対応しているか、そしてどちらが給電側かを確認する。

  3. USB PDに対応していた場合、給電機器のPDコントローラはeMarkerとやり取りし、ケーブルの許容電力 ※5 ※6 を確認する

  4. 給電機器のPDコントローラは接続されたケーブルと自分自身の両方が許容可能な電力を把握し、必要であれば受電機器へ共有する

  5. 受電機器側のPDコントローラは、現在の構成で使用可能な電力の情報を給電機器側から受け取り、それを考慮して必要な電力の供給を給電機器へリクエストする ※7

  6. リクエストに問題がなければ給電機器側は電力を供給する

  7. 電力の供給中は受電側給電側共に供給されている電力(電圧・電流)および機器の温度を監視し、何らかの要因 ※8 でリクエストした値を超えた場合は直ちに供給を停止する

※5: 芯線の太さや、充電器の性能などに応じて予め設定が固定された状態で出荷され、出荷後は基本的に書き換えできない。
※6: eMarkerが搭載されていなかった場合、多くの給電機器はケーブルの許容電力を60Wとして扱う。
※7: 給電機器とケーブルの許容電力を確認せずに、固定のリクエストをダメ元で投げる機器もある。ただし、許容できないリクエストだった場合はステップ6で電力が供給されない。
※8: 例えば機器の水没や断線などによるショートや、あるいは機器の故障でより大きな電圧がかかってしまう等様々な問題が起こりうる。


そんな高電力いらんときは?

ここまでで、USB PDに対応した機器同士が電力をやり取りする仕組みはわかっていただけたかと思います(分かっていただけてなかったらすみません…)。
では次に、電力的には従来のUSBでも十分賄えるけど、利便性や安全性のためだけに、機器をUSB PDでも充電できるようにしたいというケースはどうでしょうか?つまり、省電力な受電側機器をPDで使用する場合です。
身近な例でいうと、例えばワイヤレスイヤホンの様な機器がそれに該当します。

省電力な機器をUSB PDで使いたい場合の構成

こういった機器にもPDコントローラを搭載し、ネゴシエーションを経て小さな電力を要求することももちろんできるのですが、PDコントローラを使うための回路やPDコントローラ自体にも、コストと搭載するためのスペースが必要となるため、製品自体の単価や、サイズ面での制約が増えてしまうというデメリットがあります
こういったケースを想定し、PDコントローラを使用せず安価にUSB PD機器から低電力を供給させるオプションがUSB PDの規格上に用意されています。

それは受電機器側の抵抗素子という部品を搭載する、という手法です。

PDコントローラの代わりに抵抗素子を入れた例

先述の通り、USB PDでは機器に接続されるまでは電力が供給されません。
逆に言えば、給電機器は何かを検出することによって機器の接続を認識しているということになります。実はそこで検出されているのがこの抵抗素子なのです。※9

給電機器のPDコントローラは受電側機器の接続を認識し、従来のUSBと同程度の15W以下 ※10 の電力供給を開始します。
PDコントローラが受電機器側に搭載されていた場合、他機器の許容電力の共有や、電力の要求などをこの後行いますが、PDコントローラを搭載しない場合は給電機器側へ何もリクエストされないため、このまま15W以下の電力で動き続けます。

抵抗素子という部品は、電子部品の中で最も低価格と言っても過言ではないほど安価な部品で、なおかつ米粒よりも小さい部品です。
つまり部品コストやスペースを殆ど必要とすることなく、従来のUSBで使用されていたような省電力な機器もPD対応させることができるようになっています。

ちなみに、この場合許容電力などのやり取りは行われていませんが、給電機器側による給電中の電流、電圧、温度の監視は行われるため、従来のUSBと比較すると安全性も確保されているといえます。

※9: 実はPDコントローラを搭載している場合でもこの抵抗素子は搭載される。
※10: 従来のUSB規格に準じ、電圧は5V固定となる。

デメリットないの?

様々な課題を解決すべく満を持して?策定されたUSB PDですが、もちろんデメリットや危険性も全くないわけではありません。ここではそういった注意点についてまとめます。

見た目ややこしすぎ問題

先述の通り、ケーブルや機器の許容電力は搭載されているeMarkerおよびPDコントローラに依存します。つまり、外観から対応電力を判別することはほぼ不可能に近いです。
充電器やPCなどは、対応する許容電力が筐体に印字されていることが多いですが、特にケーブルには殆ど言っていいほど許容電力が記載されていません

スマートフォンやモバイルバッテリのような機器は、必要な電力が比較的小さいためあまり問題になりませんが、60W以上の比較的大電力が必要なPCなどでは、ケーブルの許容電力が足りず、充電が出来なかったり、電源が入らないといったこともあります
もちろん許容電力を超えると動かない点については、USB PDの安全設計が正しく機能していると言えますが、外観で許容電力の見分けがつかない点は単純に運用面で不便になります。
筆者は、所有している全ての機器をカバー可能な60W以上対応のケーブルしか買わないし使わない、という方法でこの問題を回避しています。

また、このデメリットについては規格としても対策が検討されており、2022年の10月にはポート及びケーブルのロゴに、許容電力および対応通信速度を表記するようなガイドラインを発表しています。
そのため今後市場に出回るケーブルでは、許容電力がよりわかりやすくなる可能性があります

eMarkerがハッタリかましていた場合

安全性に関する項で述べた通り、USB PDでは、それぞれが自身の許容電力を予め共有した上で電力をやりとりするため、ケーブルの定格を超えた使用は起こりえないことになっています。
本当にそうでしょうか?

実を言うとUSB PDに対応していても本当に安全とは言い切れません
例えばもし本当は60Wまでしか扱えない細いケーブルに、100W対応と応答するeMarkerが搭載されていたらどうなるでしょうか?
そういった場合でも、受電側の機器が要求すると給電側の機器は何の疑いも無く100Wの電力を供給してしまいます。

つまり、ケーブルのメーカが製品原価の節約等のために、ケーブルの能力を偽ったeMarkerを搭載していた場合、従来のUSBケーブルと変わらないリスクを孕んでいることになってしまいます。
この問題については、なるべく信頼のおけるメーカが作ったものを選ぶ、というのが最も簡単な対策になるかと思います。

また、ケーブルの導線の太さや電流の流れにくさは、ケーブル自体の抵抗値で数値化することが可能です。抵抗値だけでは何Wまで許容できるのか、は厳密にはわからないのですが、ケーブルの抵抗値が低ければ低いほど電力供給時に起こる損失が少なく、発熱も少ない、ということになります。
抵抗値を測定するテスタを使用したり、抵抗値を測定されている方のレビューを参考にするというのも一つの手かなと思います。

ちなみに、USB PDの規格上にはC-AUTHというeMarkerやPDコントローラが偽物か否かを判定するための仕組みもオプションとして定義されています。ただし運用面での壁も多く、実際のところ未だに実用されていません


C-AUTHについてです(必要なければ読み飛ばしてください)。
C-AUTHはスマートフォンやPCといったインターネットに接続した受電機器側が、eMarkerから読み取った情報と、インターネット上のサーバの情報とを照らし合わせることで、ケーブルに搭載されたIC自体が本物であるか否かを判定する仕組みです(実際はWebページなどで用いられている証明書チェインそのもののようです)。
ただし、これはあくまでeMarker自体がコピー品か否かを判断するための仕組みで、ケーブルの性能を偽った正規品のeMarkerが搭載されていた場合には何の効力も発揮できません。
そのため、この仕組みを本格的に導入するためにはeMarker自体の流通から厳しく取り締まる必要があり、最終的なケーブルの価格に見合った価値が産まれるかは疑問です。また、インターネット回線も必須となるため、そもそも受電側機器のバッテリ残量が全くない状態では使用できない等といった問題も想定されます。

参考文献: 規格が守るUSB PDの安全性 〜偽造品を見逃さない機器間認証(C-AUTH)〜 | Renesas


PD対応のType-Cケーブル・充電器では充電できない機器がある

高電力が不要な場合、の項で説明した通り、PDでは低電力機器の場合でもPDコントローラ、または規定の抵抗素子が搭載されている必要があります。

しかしながら、従来の機器のポートをType-Cポートに変えただけで、PDコントローラや抵抗素子の何れも搭載していない残念な機器も稀にあります

こういった機器をPD対応の充電器・ケーブルと接続しても、充電器側が接続を検出することができないので給電が開始されません。つまり、低電力で充電することすらできないのです。

PDからでは低電力でさえ給電できない構成

これでは、せっかくType-Cポートを使用していても、その機器のためだけに従来のケーブルと充電器を用意する必要があり、USB PDの利便性が損なわれてしまいます

これはUSB Type-CおよびPDのルールが複雑化してしまったことも一つの原因ではあるため、一概にメーカ側に全ての非があるとは言えないかもしれませんが、規格の中に低電力機器向けのルールが用意されているだけに残念でなりません。
こちらについても実際に使用するか、分解する他知るすべは無いので、実際に購入された方のレビューやメーカのWebページなどを確認した上で購入する他ないかと思われます。

ちなみに、PDのルールに則って抵抗素子が追加されている場合でも、片側が四角いType-A端子になっている従来のケーブルで充電することはできるため、このルールを遵守したことによる使用上のデメリットは全くありません。


USB PDで給電できない機器はどういった接続になっているのか、という説明です(必要なければ読み飛ばしてください)。

こういった機器はType-Cポートを使っていますが、内部的には従来のUSBと同じ使い方をしています。
Type-Cには24本の接点がありますが、その内従来のUSBにある4本、あるいはそれ以下の接点しか使用していないというケースです。

PDで給電できない機器と、給電できる機器の配線の違いのイメージ

USB PDではType-CコネクタのCC1、CC2という接点の先に、PDコントローラあるいは規定の抵抗値が接続されている場合のみ給電を開始するため、これらのいずれも搭載されていない場合は給電が始まりません。

つまりこういった機器は、USB PD機器から給電される想定を全くしていないか、あるいはUSB PDの存在を知らない開発者が作った機器ということになります。


規格を無視して延長・変換された場合

市場ではType-Cをマグネットで接続可能にするアダプタや、Type-Cを従来のUSBコネクタに変換するものなども見られますが、USB PDのルール上にこれらの扱いは明記されていないため、規格外での利用となります。

こういった物を間に挟むことによって、PDコントローラがネゴシエーションに失敗し、低電力で給電されるもしくは給電されなかった場合、危険性はほとんどありません。
しかしながらこれらを挟んでいるにもかかわらず、万が一その延長機器の許容電力を考慮せずに高電力で供給が行われてしまった場合、発熱や発火に繋がる可能性は無いとは言い切れません

個人的には使用を推奨しませんが、使用される際には、実際にそこでやり取りされる電力がどのくらいなのか、またUSB PD上ではどのような扱いで給電されているのかを把握した上で、発熱、発火、機器の故障などに備えて使用されることをおすすめします。

USB PDが作られた経緯

USBは本来パソコンやスマートフォン、周辺機器などUSBのポートを持った者同士をつなげてデータをやり取りするための規格でした。
かつてUSBポートのコネクタには様々な形状がありましたが、形状こそ異なるものの電気的な特性はどれも似たようなもので、主に機器のサイズや用途(挿抜耐久性やコネクタにかかりうる物理的な負荷)によって使い分けられていました。以下は過去に普及した有名なUSBのコネクタ形状です。

過去に普及した有名なUSBのコネクタ

そんな中2000年あたりから、充電できるタイプのバッテリを搭載した携帯機器が増えてきます。この頃からデータのやり取りに使われていたUSBポートが、充電や給電にも使用されるようになり始めました。
しかしながら先述の通り、USBで使用されていた従来のコネクタの電気的な特性はいずれも似たようなもので、いずれのコネクタでもたくさんの電気を送ることには向いていませんでした。一方で携帯機器のバッテリ容量や消費電力は増加し、高速充電が求められていました

当時のUSBでもコネクタ毎にやり取りできる電力の上限は定められていましたが、その上限を無視して使用することも実際可能であり、それによる発熱や火災のリスクが孕んでいました。
また各メーカが機器ごとに独自のコネクタや変換ケーブルなどを販売したり、電圧を独自に改変して使用をすることもあり、互換性の面でも課題がありました。

そして2012年、USBの規格としてType-CコネクタおよびUSB PDプロトコルが策定されました。 ※11

※11: 厳密にはUSB PDが策定されるまでにも、従来のUSBポートを使用したUSB BCという給電用の規格は策定されていたが、USB PDほど高機能ではなかった。

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