2/13 次の夜へ
今日も今日とてバイトでコーヒーをしばいていた。とはいえ、おれは早々に店長に教育を諦められたので、ブレンドと水出しアイス珈琲しか作れないのだが。もう入ってから一年も経っているのに。この前新しく入ってきた美少女JKとはじめて勤務が被った。初めて見た時は、大学一年生くらいか?と思ったが、聞いてみると高校一年らしくかなりビビった。しかも化粧も、性格の方もしっかりしている。おれの妹も高三で結構、垢抜けている方だがそいつと同い年くらいの雰囲気がある。なんなんだ?乱れているのか、「性」がよ。おれが高校一年の時分なんて、制服の股間のファスナーにペットボトルを突っ込み、そこからロケット花火を発射してゲラゲラ笑っていたぞ?今もまだ、青春という舞台で踊り続けています。
仲のいいパートのおばちゃんが、今日一緒にいた社員が嫌いすぎてめちゃくちゃイラついていた。仕事をやる上でかなりそりが合わないらしく、思い詰めすぎて胃に激痛が走り、かなりの時間行動不能になっていてウケた。ストレスに弱いポケモンだ。パートのおばちゃん程、仲間にすると頼もしい存在はない。更木剣八が敵キャラとサシで戦うときくらいの安心感がある。しかも、話題に事欠かない。
17時ごろにつつがなくバイトを終えると、そのまま渋谷へ。19時開演だがギリギリのところで滑り込む。ドリンクチケットと交換したキンキンのハイネケンを片手に持ち、ライブ会場にいる人々との一体感を楽しみながら「これだけでいい。そう、これだけでいいんだよ。」とひとりごちる。おれの周りには誰も寄せ付けないぜ。本日みるバンドは、カナダはモントリオール出身の新鋭DIY3ピース、「Men I Trust」だ。フランスの香りを残したモントリオールで育った彼らが作る音楽は、ダンサンブル・チル・ポップで、言わばチルって踊れる最高最強の音楽である。まあ超絶楽しかったのは間違いない。とりわけ、ギターボーカルのエマの声が凄かった。何がすごいかというと、声に説得力がある。全ての詩的なものを賛美するサブカルキッズが、イマココのライブ会場にいないなら、彼らの美学は全て欺瞞である、というような。カリスマだけが持ちうる、ある宗教的な力を帯びた声。官能的なグルーブとそれに追従する耽美な声。「押忍!耽溺バカ一代!」って感じ。急にふざけるのをやめろ。めちゃいいライブを観てる時って「あ、これおれの人生のエンドロールじゃん。」てなるよね。わかりますか?
とまあここまで褒めちぎっているが、それは何より、ボーカルのエマがごつ盛りの美人だったから、公正な評価ができていないのに他ならないのかもしれない。おれはそういう人間だ。でも、会場にいたほとんどの人がその声とルックスにバチ惚れしてメロメロだったのは間違いないが……。あと、会場にいる人たちが偏ってないのがよかった。いろんな人たちがいた。鼻が高く、ツンとしたパリジェンヌからNo Busesっぽい人たち、ガチ陽キャっぽい営業マンまで。以前まではイケイケのひとたちに囲まれると、自分の所属に対してコンプレックスを抱いたりしていたが、今日はいろんな人たちがいてなんか、いいなと思った。
終演後、いつものごとくそそくさと帰るのではなく、喫煙所で煙草を吸っていると、外人のハンサムマンとホットなガールに声をかけられる。どちらもルックスがすこぶるいい、なんなの。どうやら、紙のタバコが欲しいらしい。いいよ。あげるよ、いくらでも。なぜだかおれは、どこにいてもタバコを一本、とせびられることがやけに多い。外人だけでも十数回はある。中華系のマフィアっぽいおっさん、フランスの乞食、ドイツ人の抱き合ってるカップルからでさえ。少しその2人とおしゃべりした。聞くところによると2人はアメリカ人で、横浜に住んでいるらしい。こういう時、もっと英語ができれば、ともどかしい気持ちになるが少しでも他人と会話できて楽しかった。やっぱライブ終わったあと、感想を言い合ったりせず、一人でとぼとぼ帰るのが一番寂しい。特に渋谷だし。
道玄坂にあるマンモスというつけ麺屋さんで飯を済ます。まじでうまいなここの店は。道玄坂付近のライブハウスを出た後は、この店に行くという黄金ルートが、おれの中で確立しつつある。
とにもかくにもいい一日になった気がする。帰り道でthe kooksを聴く。気分にぴったりじゃあないか。それでは、次の夜へ。