今更ながら種目別選手権をふりかえる

種目別選手権の感想について、つらつらと書いていきたいと思います。

まず、全体を通しての感想として、総合的にみて見ごたえのあった試合だったなと。体操の面白さ、良さといった所だけでなく、体操の難しさや、一発勝負ならではの儚さなど、色々なものが詰まった試合だったなと、欲を言えば生で見たかった試合でした。また、演技が男女交互に行われるので、女子の演技についてもじっくりと見ることができたのが良かったなと。

まず、やはり何といっても男子の世界選手権代表争いは激しかったですね。あん馬終了時点で杉野選手が貢献度で追い上げを見せ、平行棒では翔選手が思ったよりも得点を伸ばせず、杉野選手が、鉄棒で予選のような演技が出来れば代表に内定するという状況の中で、終末技前まで完璧に演技を行い誰もが杉野選手の逆転を思った中での終末技でのミス。しかも着地のミスというわけではなく、うまく手が離れずひねれなかったという、普段ほとんど見られないミスだったのが何とも言えないですね。勝負の世界に言い訳は通用しないという事はわかりつつも、何とも言えない幕切れになりました。ただ、翔選手も杉野選手も全日本・NHK杯と熾烈な代表選考を戦い抜き、素晴らしい演技をたくさん披露してくれましたし、もちろんその中でミスもあったと思います。そうして全ての試合を戦い抜いた結果が今大会の代表決定につながっていると思うので、やはり翔選手を称えるべきかと思います。世界戦でも素晴らしい演技を期待したいですね。


ちなみに今大会、代表争いという要素を加味せずに、個人的に一番印象に残った演技は、女子の方の、山口幸空選手の演技(特に床)ですね。ここはまた後日、別の投稿で書きたいと思いますので、詳しくはそこで触れたいと思います。とにかく、一つ一つの技の質が高く、かつ体の使い方がしなやかで、指先まで意識の行き届いた演技に感動させられてしまいました。


男子の方の振り返りに戻りたいと思います。

まず、床ですが、土井選手、橋本選手、南選手の優勝争いにしびれましたね。また、この3選手+三輪鉄平選手がリ・ジョンソンを実施してくるという、なんともすごい時代に突入したなと思わされました。組み合わせで加点を取るのが難しくなった分、無理に組み合わせで加点を取りに行くよりは大技を複数実施する方がDスコアを伸ばしやすいというルール背景もあるとは思います。優勝は僅差で南選手でした。Dスコアは何と驚異の6.6で、現在のルールでこのDスコアは驚異的です。

あん馬についてですが、完璧に通し切った杉野選手、序盤で少しミスが出ながらも最後まで落ち着いて通し切った谷川翔選手ももちろんすごかったですが、個人的には石澤選手が3位に入ってきたことが嬉しかったですね。石澤選手は開脚旋回、閉脚旋回どちらとも非常に高い質の旋回で実施することができる稀有な選手だと思っています。大体どちらか得意な方に偏っている選手が多いかなという気はするので。演技中盤やや乱れましたが、それでもEスコアが8点台というのは質の高い旋回ゆえだと思います。今後あん馬優勝争いの常連になっていくのと思います。

次につり輪についてですが、武田選手の現役最後の演技、高橋選手のバランディンもりもりの演技、山崎選手選手の力技ゴリゴリの演技など、見所がととても多かったです。個人的には、高橋選手はあん馬もできるので今後日本代表に必要な選手になっていくと思っています。今後の活躍にさらに期待したいですね。

跳馬についてですが、まずリザーブから繰り上がった小森選手がバチバチに決めてきたところがあつかったですね。ヨ―2もとても良かったんですが、ローチェが高くて、そして足をあまり開かず実施しているので好きなんですよね。あと今大会は実施してないですが、小森選手はドリッグスが一番うまい選手だと(個人的には)思っています。そして内田選手のローチェ着ピタも激熱でしたね。あの場面であの実施が出せる思い切りとメンタルが素晴らしいです。そしてローチェを決めた後の2本目のヨ―2を落ち着いてしっかりまとめられたのが大きかったと思います。(予選は少し乱れていたので)優勝は貫禄の安里選手でした。やはり今の跳馬の種目別ルールだと安里選手が有利なのではないかと思っていましたが、きっちり優勝してくるのはさすがですし、スペシャリストという感じがします。今回跳馬は新たにローチェをやってくる選手や、ユルチェンコ跳びをやってくる選手が何人か見られましたが、まだ全体的に仕上がり切っていない選手も多かった印象でした。これがまた来年、再来年となってくると、跳馬の勢力図というのも変わってくるのかなと思います。

平行棒ですが、貢献度を稼ぎたい谷川翔選手の演技がまず注目でした。棒下ひねりで少し乱れるも、その後は完璧でした。代表争いがかかったあの場面で少し乱れるだけでもその後ずるずるといきそうなもんですが、あん馬と同様、修正能力が非常に高いなと感じます。市船時代の全日本団体選手権の翔選手の演技の解説で、解説の人(多分水鳥さん)が「非常にゲームのうまさを感じる選手」と言っていたのを思い出しました。ミスを最小限にとどめることも団体戦ではとても大切なスキルだと思います。そして北園選手、川上選手が平行棒ワンツーでしたが、どちらともとても安定していてさすがという演技でしたね。特に北園選手は全日本、NHK杯とあまり振るわなかったので、ここで実力をきっちり見せつけてきました。

最終種目鉄棒、杉野選手の下り技での幕切れについては冒頭で触れた通りなので、それ以外の選手について触れていきます。平行棒に続き、ここでも北園選手、川上選手が躍動しました。北園選手はアド1減点なしじゃないかというぐらい素晴らしい実施、手放し技も完璧だったように思います。着地は前に1歩動きましたが、それでもEスコア8.3は少し辛いんじゃないか?という気はします。カッシーナやコールマンにいく前の膝曲がりや、チェコ式の所が少し窮屈な実施になっている所が引かれているのかなとは思いました。そして何より川上選手の完璧な演技には鳥肌でした。川上選手は歴代の体操選手の中でも、トップクラスの鉄棒のスペシャリストになる資質があると思っています。手放し技とひねり系の技を両方あのレベルで実施することができるのは歴代でも川上選手ぐらいなのではないかなと思います。ブレットシュナイダーも練習しているとのことで、今後がさらに楽しみです。また田中佑典選手の鉄棒も年齢を感じさせない素晴らしい演技でした。やはり一つ一つの技の質は日本トップだと思いますし、普通に鉄棒2位はすごいです。

話はそれますが、鉄棒のひねり技に関して、リバルコやシートリバルコ、ヒーリーなど、最近また大逆手系の技をやる選手が出てきたなという感じがします(川上選手、土井選手、田中選手など)。ただ、どの選手も恐ろしいくらいの技の実施であることは間違いないので、普通に実施するならやはり減点が大きい技の系統であることには違いないと思います。むしろ減点が大きいと分かっている中でやってくるという事は相当自身があることの表れだともいえるかもしれません。何だかんだ大逆手系の技はかっこよくて好きなので、またやってくる選手が増えるといいなと思っています。


全日本選手権、NHK杯に関しては、ルール変更に苦しめられた選手が多いという印象もあったのですが、この種目別選手権で今回のルールの中でどうやって戦っていくのが正解か、道しるべが各選手少しづつ見えてきている印象も持ちました。世界選手権が非常に楽しみですが、それよりもまず各国がどの程度仕上がっているかという経過が気になります。そのあたりもまた機会があれば記事にしたいと思います。




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