初恋が終わった言葉
小学四年生の時、女の子が転校してきた。
キタスカキセという珍しい名前の子で、転校を繰り返してきたらしく、すぐに打ち解ける術を心得た女の子だった。
女子よりも男子と遊ぶのが楽しいらしく、男子に混じって一人、帰り道の田んぼでカエルを捕まえたり鬼ごっこをしたりしていた。
まだ好きという感情がよくわからない年だったのだが、その子が楽しそうにしているのを見ると嬉しくなるし、帰る時間が迫ってくると寂しくなった。
その子は僕のすぐ近所に住んでいたので、最後は帰り道二人きりになる。
二人きりになるとやっぱり子供で、急に照れくさくなりお互い喋らなくなって、少し距離を開けて歩くのが常だった。
ある日の帰り道、この曲がり角で分かれるという時、勇気を出して「バイバイ」と後ろ姿に口パクで言ってみた。口パクて。バイバイて。今でこそそう思うが、内気な小学生の限界がそこだった。
ところがその口パクをその子は見ていたらしく、しかも多分「バカバカ」とでも言ったように誤解したんだろう、同じく口パクで「バーカバーカ」と悪口を返してきた。
心の中で「違うんだー!」と思いながら、僕も「バーカ」と口パクで返した。
その日以来ギクシャクして一緒に遊ばなくなり、その後すぐまた転校してしまった。
まさか初恋が口パクで終わるとは思わなかった。