「World Is Myself」第10話(第4章)
**第2幕**
建物の外に出ると建物の前は広場になっていて、広場を囲むように茶色の煉瓦造りの建物が並んでいた。見える建物は概ねお店が並んでいて、多くの人が行き交い活気が溢れている。
顔をあげると、どこまでも続く雲と真っ青に
彩られた空が広がっていた。
遠くには、青々と木々が生い茂る4、500mほどの高さの山や遠目にも4階建てはある大きくて綺麗な学校、その他にも色んな施設も視認できる。基本的に平面な地形であるがゆえに遠くまで見えやすいが、このワールドはかなり大きい。
少なくとも、住居が設けられているワールドでしかも独自にエリアが区切られているのはここくらいだろう。
周りを見渡していると、後ろから肩を叩かれた。
「ようやく出てきたな。説明ちゃんと聞けたか?」
シスターが手の指を前後に動かしながら、ニヤッと笑顔を見せて話しかけてきた。隣にはスノウちゃんもいる。
2人は既に話を聞いて外に出ていたのだろうか。
「うん、ちゃんと聞けたよ。シスターも聞いたの?」
首と手を左右に振って否定した。
「私は以前に来たことあるから、いらないんだ。スノウは、知ってたんだっけ?」
「はい、私は事前に書籍や話などで情報を得ていました」
2人とも説明を聞かずに先に出て、待っていてくれたみたいだ。もっと、細かく聞こうかと思っていただけに話を深掘りしなくて良かったと安心した。
「2人とも、待たせてごめんね。行こうか」
「気にすんな、それで何処に向かうんだ?」
「うん、コウっていう占い師がいるらしいんだけど、まずはその人に会いに行こうと思う」
「コウ、、」
「そうだよ、知り合い?」
「いや、知らないよ」
「そっか、その人ならわたしの悩みを何か知ってるかもしれないと思ってるんだ。まずは探してみよう」
「さちの悩みって仮想空間で暮らすことか?」
わたしは首を左右に振ると、シスターとスノウちゃんへわたしが小さい頃に来たことがあること、コウとはわたしの母親の名前であること、そしてハル子がみたわたしそっくりなプレイヤーの話をした。
「んー、なるほどな。でも、それだけでそのコウという人物が関わっているかは分からないぞ」
「うん、それは分かってる。だから、空振りだったらそれはそれでいいの。気になることを心のしこりとして残したくないの。ぜーんぶすっきりさせて、笑顔でいたいから」
2人にニコッと笑って見せた。
「私はさち様が仰るならその通りついて行きます」
「分かったよ、私も付いていくから、まずは足の確保とコウという占い師の居場所を探すところからだな。順にこなそう」
いうが早いか移動を開始したシスターの後をわたしとスノウちゃんは追った。
****
ワールドインのポイント周辺は、活気が溢れている分だけお店も多い。
目的のお店もすぐに見つかった。
バイクのライトに目が描かれた看板が目印のそのお店は移動に使用するバイクのレンタルを行っている。
お店の中に入ると、小太りで体格のいい丸い鼻が特徴的な鼻からマリオみたいな髭を生やしたオジサンがレジに暇そうに立っていた。
お店の中にはさまざまな二輪車が所狭しと飾られていて、見た目が派手なものから、小さいものまである。
入ってきたわたし達に視線を向けずに手元を見ていたオジサンは、シスターが目の前まで来たところで初めて顔を上げた。
「よ、久しぶり丸太のオッチャン」
「おめえも随分ぶりじゃねえか。もう来ないと思ってたぜ。それと、丸太のオッチャンはやめろ。周りが真似するだろうが」
オジサンの名前を見ると、ウッドだったので納得した。
「この子たちと私の3人分、準備して欲しい」
「なんか希望はあるか?」
「違法改造して時速200kmまで飛ばせるやつまだある?」
「ねえよ、お前がぶっ飛ばして押収されたままだよ!まだ懲りてねえのかよ」
なにやら、物騒な会話が聞こえた気がするが気のせいだと思っておこう。
オジサンは、わたしとスノウちゃんのほうを向いた。
「おまえさん達は希望があるか?」
「はい、二輪より四輪を運転してみたいです!」
「身を守れる武器を備えたやつはないでしょうか?」
オジサンが頭を抱えた。
「全員、口閉じて外で待ってろ!」
わたしたち3人は、お店からグイッと外に押し出された。
残された店内に残ったウッドは、1つため息をこぼした。
「全く、親子でよく似てやがる」
手近においてあった赤いバイクを手に取り、軽く指でなぞった。
****
「馬鹿どもこれを持っていけ」
大中小といった感じの体のサイズにあった二輪車が3台目の前に並んだ。シンプルな外装で白いラインがバイクの先端から後方にかけて引かれているだけだ。
色はご丁寧に、青赤黄の3色なので信号機みたい。バイクと称しているが、現実世界で眼にする自動二輪車とは形状が違う。
それがバイクにあるハンドルがない代わりにモニター付きの操縦桿が付いている。画面を覗くとニライカナイのマップが表示されている。
「これって、レンタル料おいくらですか?」
わたしがオジサンに聞くと、ふん、と鼻息を出した。その拍子にマリオのような髭が軽く揺れた。
「どうせ、過去のプレイヤーが残していった遺物だ。タダでやるよ」
「それは嬉しいですけど、何か申し訳ないです。何かお手伝い出来ることはないですか?」
わたしの言葉にオジサンは、静かにわたしの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でた。
「ガキが余計な気を使わなくていいんだよ。気持ちだけ貰っといてやる」
「わかりました、オジサン1つだけ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「コウっていう、占い師の方知りませんか?」
「コウ…、直接会ったことはないが最近その名前を聞いたぞ」
「ほんとですか!?」
「ああ、つい先日からこの辺りを拠点に活動している歌絵(うたえ)って名のプレイヤーが会いにいくって言ってたな。どうも、そのコウってやつは同じ場所にいないらしいぞ。何か知ってるかもしれんぞ。すぐ近くの水仙て名前の飯屋で、よく食事してるらしいから行ってみたらどうだ?」
「そうしてみます!ありがとう」
「この程度のことに礼なんぞ言ってないで目的果たしてこい」
「うん、いってきます」
「ああ…、行ってこい馬鹿娘」
「もう、馬鹿馬鹿酷いよ」
「なあ、丸太のオッチャン」
「あん?」
シスターがオジサンをバイクに跨り、声をかけた。顔だけを左斜め後ろにいるオジサンに向けた。
「あんた、研究エリアに行ったことあるかい?」
オジサンが眼を細めて、意図を読み取るような表情見せた。数秒の間をおいて、
「ああ、あるぞ」
簡潔に返答した。
「そっか、ありがと。悪かったね、変なこと聞いて」
「身体に気いつけてな」
2人は交わした言葉は、少なかったけど言葉の裏にあるやり取りがあることは雰囲気から感じられた。
モニターで水仙を検索して、設定すると自動でバイクが動いて移動を始めた。
振り返ると、オジサンはお店に入るところだった。わたしは、見てないことはわかっていたけど、手を振って別れを伝えた。
****
しばらくバイクが自動で走った後、目的のお店の目の前に着いた。
驚くべきことにこのワールドにあるバイクはお互いの位置や速度など全てをネットワーク管理されている。
一切の衝突なく最短ルートで到着できるように設定されていて、運転要らずでただ乗っているだけでいい。マニュアル運転も可能だが、レースなど限られたタイミングだけらしい。
お店は和食の雰囲気で、暖簾があり横開きの扉だ。ガラガラと扉をあけると中に入った。
「らっしゃいませー」
お店の人のよく通る元気な声が響いた。
中から、ツインテールの可愛らしい風貌の若い女性が顔を出した。
「すみません、歌絵さんという方を探していまして、店内にいらっしゃいますか?」
「歌絵ならここにおりますよ」
店員さんが自らを指差した。
「えっと、店員さん自身がそうなんですね。てっきりお客かと思ってました」
「ここの唐揚げが美味しすぎて思わず弟子入りしちゃってー」
てへ、と言った顔でベロを出した。
「お客様なら早よ座ってもらいな」
中から、より大きな女性の声が響いた。
はいはーい、と怯むことなく歌絵さんは返すと、
「まあまあ、皆さん、ご飯食べていってよ!私も仕事中だから終わったらお話ししましょ」
ビシッ、と敬礼をして中にたたたーと駆け出していった。
忙しない人だけど、面白い人だなと感じた。
「とりあえず、腹を満たすか」
シスターの言葉で近くにあるテーブル席に座ると、わたしたち3人はメニューを見始めた。
「改めて、初めまして!椎山 歌絵です」
本名で自己紹介をされたのは、仮想空間に来て初めてだ。歌絵さんは、慣れた雰囲気で、ちなみに、と言葉を続けた。
「皆さんは本名じゃなくてよかですか。私は現実も仮想空間も分けて考えてないだけなんで」
歌絵さんの言葉に、なるほどと合点がいった。それは、歌絵さんのアバターが通常誰もが行っている現実の自分よりもよく見せようとする修正した後を感じないからだ。
着替えた歌絵さんは、黒髪のツインテールに赤と緑混じったリボンをつけて、緑のパーカーに赤いバックパックを背中に背負っている。
今はお店の中の座席の一画を借りて、話をしている。
「わたしはさちです。こちらの長身の金髪美人がシスターで、こちらの白髪の可愛い子がスノウちゃんです」
わたしの紹介に2人は、まあいいか、と若干諦めたような顔をした。
「さちさん、シスターさん、スノウさん、ですね。覚えました!それで本日は私にどのような用件で?」
「はい、わたし、コウさんという占い師の人を探していまして。最近歌絵さんが、会おうとしていたことをバイク屋の店主さんに伺って詳しい話を聞きにきました!」
ぽん、と手のひらに拳を叩いて、なるほど、と歌絵さんが口にした。
「それはそれは、納得です!確かに私会ってきましたよ!むしろ、今は私しか分からないかもですね」
うんうん、と納得した様子だった。
「私しか分からない?」
思わずわたしが言葉をおうむ返しすると、歌絵さんがはい、と頷いた。
徐ろにわたしたち3人が見えるように、宙にマップ画面を表示させた。
「コウさんがいる場所はここです!」
ポンと指をさすと、マップの一点が点滅した。そこは、ニライカナイ北部にある山の頂上だった。
わたしは大事なことを忘れていたことをここにきて思い出した。ハル子は、体力お化けだった。
第11話に続く
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