復興シンドローム【2016/01/01~】⑯
凍えるような寒さの中、まだ闇に包まれた早朝。
新年のあいさつも忘れ、僕らは仕事に出かける。見慣れたホテルを後にしてセブンイレブンで買い物をする。店内は作業員でごった返し、とても早朝とは思えない賑わい。
今日は元旦。店内BGMだけは正月の装い。
出稼ぎの作業員、警備員はこぞって故郷に帰り、現場は動かない。しかし、帰還困難区域と居住制限区域の警備は相変わらずなのである。365日見張らなければならない。
僕らの警備も365日フル稼働だ。かといって出稼ぎ警備員は懐かしい故郷に帰る期間でもある。そう、盆と正月は警備業界は人不足になるのだ。自分は地元の人間だから里帰りする必要はない。毎年、盆と正月はフルで手伝う羽目になる。
もう慣れたことだが、この時期は何故か寂しくなる。セブンイレブンのBGMとは違って帰還困難区域の朽ちていく家屋や、枯草の生い茂った街並み、屋根のあちこちが壊れている建物を見る度に正月のにぎやかさとは正反対の映像が脳裏に焼き付くのである。
しかし、この仕事をして数年経つが、経済的にはかなりの助けになっているようだ。特に自分はダブルワークをしているので体を壊さないよう、細心の注意を払っている。絶妙なバランスの中、震災後の人生を歩んでいるのだが、それなりにうまくいっているのである。
だが、ボクの心の中にはある種の革命が起きていた。今考えれば、違和感しかないのだが、この時のボクはこの考えこそが正しいと思っていたのだ。
「ここの住民は王侯貴族だ。生活の保障をされ、有り余る富、そして被災者という無限パスボートを持っている。ボクらとは違う人種なんだ。彼らは被災者じゃない人間を自分の下としか考えていない。そう、罵詈雑言はもとより、被災者であることをフルに利用している奴らだ。できるだけ関わらないようにしたい」
そう、通行証のチェックをする仕事をしているうちに、彼らに対する見方が180度変わってしまったのだ。
ボクは彼らに対しての同情の気持ちや哀れみがなくなり、『厄介な奴ら』というレッテルを貼った。毎日の仕事をこなしていくうちに、心が擦れてしまったのか、それとも新しい考えに目覚めたのか、はたまた退化したのかは分からない。
しかし、自分の正直な気持ちはその方向に動いてしまったのだ。
出稼ぎの警備員たちと話しているうちに彼らがこの被災地の住民に抱いている感情に同化してしまったのかもしれない。
正月に帰郷してきた住民に対しての通行証確認は淡々とこなす。
何を言われても。どんな言葉を投げかけられても。
自分たちと違う人種だと思えば、辛い場面も難なくこなしていける。そう、本当に怖い震災の影響は数年経った自分の心の中身はっきりと芽吹いたのだ。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》