復興シンドローム【2016/08/30~】⑲
復興真っ最中。
明け方には多くの作業者が現場に向かう。コンビニに人波が押し寄せて、やがて一気に引いていく。見慣れた風景が明け方の街並みを緩やかに染めていく。
早朝のコンビニにボクはいた。やっとのことで開店したコンビニ。
24時間営業は到底無理。復興の象徴の1つとして担ぎ上げられたオーナーがやっとのことで14時間営業を決断した。自分は早朝の4時間をこなしながら、夕方には別な仕事に向かう。
そんなルーティーンが自分の日常として体に染みついてきたついこの頃。
薄暗い闇夜に軽自動車を走らせて、仕事場に向かうのは警備員と同じだ。ただ、コンビニ店員から世の中は結構違って映るものだと気が付いた。あくせく店内に入ってくる作業員たちを何とか捌き、弁当やおにぎり、フライヤーまで売れるものは何でも売るといったスタンスで朝のラッシュを迎える。
「早くしろよ!」
朝礼に遅れそうな作業員が僕らに怒声を浴びせる。平謝りしながら、ただ黙々とレジを流していく。コーヒーガラを捨てて、ドリンク補充。弁当を追加して、ポットのお湯を確認。そのあとはゴミ袋を抱えて外へ。
そんな慌ただしさの中、時計は7時を過ぎていく。
手取りは低くなったが、そんなことは自分にとってはどうでもいいこと。
毎日の生活が時間に追いかけられ滝のように過ぎていくのをもう一人の自分がただ眺めている。
そんな自分はただ時間を垂れ流していただけ?
そんな中で常連の作業員が話しかけてくる。彼は「おじさん」というより「おじいさん」。60代だろうか。似合いもしない金髪をタオルで隠して、こう言う。
「兄ちゃんはいいなぁ。働き盛りで。オレは守るべき家族もいない。身内もいない。だから金を残したって意味がねえんだ。その日暮らしで稼いだ金だって風俗とパチンコで消えていくよ」
年甲斐もない無邪気な笑顔に自分は苦笑いで返すしかなかった。
続けてその作業員はこう言う。
「俺みてぇなヤツはいっぱいいるんだ。みんな出稼ぎさ。ここは稼ぎがいいから今はここにいるってだけだ。オリンピックがあればその準備に行くし、今では大分銭も安くなったし、俺も東京の現場で働くか。兄ちゃんも来るか?」
もちろん行くわけはない。
「いやぁ、自分には無理ですよ」
福島はさすらいの賞金稼ぎの巣にでもなったのか。はたまた日雇い作業員たちの集いの場になったのか。
ここが廃れたら彼らはまた次の集いの場に向かうだろう。その道で倒れるその日まで彼らは歩き続ける。
「守るべき家族はいない」
彼の言葉が自分の心にいつまでも残っていた、そう、いつもまでも。
家族を失った人々。物理的にも精神的にも離れ離れになった人々。
自分もその一人だろう。
そこを元に戻す仕事をしている人たちもまた孤独なのだ。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》