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VINTAGE⑤【言葉の魅力】

炎天下、土曜日の昼下がり。前期試験中。
例のごとくボクはvintageにいた。ワールドカップ一色の話題なんてつゆ知らず。話題は総合格闘技についてだ。


「八百長ってあると思います?」

「どうかな。テレビ放映がある以上、何かしらはあると思うけど・・・・・・たとえば『○○分から〇分の間でお願いします』なんてのはあるんじゃないかな」

「それならプロレスと変わらないじゃないですか」

「多かれ少なかれ『興行』なんだから仕方ないと思うけど」

「そうかなぁ。自分はどちらかといえばK-1ファンなので八百長があって欲しくないっていうのが本音です」

「K-1だってそういう話はあって不思議ないと思うよ」

「えっ!そうなんですか」

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白熱した議論を大学生ともう一人のおじさんがしている。最近ではこの店での見慣れた風景だ。そのおじさんは髭の伸びた西洋人・・・のような顔、やせ形で自転車に乗ってやってくる。季節は夏、炎天下。汗だくでやせ形なので倒れてしまわないか心配になるくらいだ。ミュージシャンで詩人・・・だそうだ。あまり詳しくは聞かなかったが、とにかくすごい人らしい。話がとにかく面白い。頭脳明晰で博識、そして人見知り・・・だそうだ。初めて会ったときはそう言っていた。ボクはその点に関してとても信じられない。初対面の自分と1ヶ月もたたない間にこれだけ打ち解けて本音で議論できるのだから。

少なくとも自分は本音で彼と話している。だから彼も本音だろうと勝手に推察しているに過ぎないのだが。地元のつまらない大人とは比べものにならないほど博識で話も面白い。こんな大人がいたのかと思うくらい出会ったことのない人種だった。

たまに彼の話に出てくる「たまさか~」という言葉が気になった。話の脈絡からすると、どうやら「仮に、もし」とかいう意味らしい。不思議なものだ、同じ日本語でも分からない言葉がたくさんあるものだから、自分の小ささやあの田舎がいかに狭い世界で生きていたかを突き付けられ、そして打ちのめされたようであった。

彼とはどんなに意見が違っても、対立した思いがあっても決してその人間性は嫌いになれないほど本当に密度の高い信頼関係を構築していった。本当に彼と話すのは面白い。自分の無知を改めて気づかされる。日々自分の愚かしさを認識し、自省するためにこの店に来ているのかもしれない。彼のギターを聞きながら、最後の一口を流し込み
「ありがとうございます」

と一礼して、その店をでた。

今日もたくさん話をした。
言葉って偉大だ。
これほどまでに「知る」ことができるのだから。

『沈黙は金』
そんな言葉があるが、そんなのは嘘っぱちだ。言葉には力がある。しかも鏡にもなる。たくさんの話をして、たくさんの話を聞かないと、ボクは人として成長できないと思った。


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fal-cipal(ファルシパル)
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》