【全年齢版】ケモミミ少女になったのでエンタメで覇権を取りたいと思います①
あるおっさんが、目覚めたらケモミミ少女だった話。
こういう時に"気がかりな夢"を見るのはお決まりだろう。
朝起きたらケモミミ少女になっていた。
後にも先にも、ただのおっさんがケモミミ美少女に変化したなんて話は聞いたこともない。
鏡を見れば分かる。小さくて可愛くて大きな耳と九尾の尻尾。
金髪の髪と緑色の瞳。
声から何から全てが可愛かった。
耳を触れると感触があるし、触った音がする。
尻尾もふんわりしていて、掴むと確かに感触もある。それどころか、耳も尻尾も意識して動かす事もできる。
本物だった。コスプレではない本物の耳と尻尾だった。
俺は元々三十代の俗に言う子供部屋オジサンだ。
母親は健在だが、俺の仕事は非正規だし、父親は亡くなったし、兄弟が居るわけでもない。まぁ何と言うか詰んでいるタイプの男である。
それが美少女に変化するなんて、二階級特進どころか、三等兵から元帥にのし上がったようなものだ。
一人で小躍りし、ただただ鏡を見つめる。
しかし待てよ、俺は頭がおかしくなったのかも知れないぞ?
認識がおかしくなっていて、他の人間からはただのオッサンなのに、一人で美少女と思い込んでいるのかも知れない。
と、その時、無遠慮に扉が開けられた。
私はサイズの合わないパジャマを無理にたぐり寄せている状態だ。
母親は涙ぐんで立っていた。
「コ……コウジ?」
「あんたは誰だ」
と言われると思ったが、そうでもなかった。
「貴方、コウジなのね!?」
「そ……そうだよ……」
「こんなに可愛くなってぇ」
母親は私に泣き付き、そして立ち上がると頭を撫でてくれた。
「えへへ」
つい笑ってしまった。
机には菓子パンの袋が残っているだけだった。
母親は急いでレトルトご飯と味噌汁と目玉焼きを用意してくれた。
いつものような朝飯じゃないんだな。
なんとなく違和感を感じたがまぁいいか。
「お母さん、仕事だから帰ってくるまで大人しく待ってるんだよ! 服はその時買ってくるから!」
確かに我が家に私の着られそうな服はない。
大人しく待つとしよう。
もし俺に友達がいれば、多少は自慢もできる筈だが、リアルにもネットにもそう呼べるような人はいない。
SNSもやっているが、創作も自慢できることもない俺は、基本的にROMに徹していた。
パソコンを立ち上げ、今日のニュースを見る。
「あぁ、この事件の犯人捕まってたんだ。最近は裁判も早いんだな。ひとつき前ぐらいの事件がもう公判なんて」
窓から見える風景は殺風景で、庭のない家の並ぶ住宅街だ。
しかしそれでも、外は何処となく寒々しく思えた。
そろそろ秋だな。
SNSにログインしようとしたが、アカウントがロックされている。
スマホで認証通さないといけないなと、スマホを探すのだが、それが見つからない。
机にはスマホケースがあるだけだ。
中身はどこへ行ったのだろう?
もしスマホがあれば会社から呼び出しがあるだろうに。
埒が明かないし、SNSにはどーせ友達もいない。
新しいアカウントを作ろうか。
名前はどうしようかな。
どう見ても九尾の狐だし、殺生石絢香とでも名乗ろう。
中二病臭いけど、この見た目なら許してくれるだろう。
あとアイコンだ。
こんな容姿だから顔写真が良いだろう。服を買ってきてもらったら全身も撮ろう。
確か押し入れに古いスマホを放り込んだはずだ。
記憶を頼りに見つけたので、取り敢えず充電だな。
充電しているうちに腹も減ってきた。
確かカップ麺のストックがあるはず!
そしていつものところに転がってる幾つかを物色する。
「狐そば!」
写真に写っているジューシーなおあげによだれが出てしまう。
ポットのお湯を沸かす。
台所の様子がやや淋しげだ。
母さんは料理が好きだったから、色んな調味料を用意してるはずなのだけど、それがごっそりなくなっていたのだ。
不思議に思いつつ、カップにお湯を注ぎ、居間へと持っていく。
テレビを付けて芸能ニュースなんかを見る。
何だか見たことのない芸人が、びくとも面白くないリズム系の芸をやっている。
テレビ局も必死だな。
話を聞いていると、ここ一年ぐらいで人気だという。小学生にインタビューすると、ガキンチョ二人がキャッキャしながら真似ていた。
どーせ子役だろう。
ネットにでも落ちてきてないブームなんて、どうせ広告代理店が仕込んでるだけだ。
私は斜に構えた態度でニュースも見ていた。
ふと神棚に目を向ける。
父方の祖父母と親父の位牌が並んでいる。
そして、その隣に骨壷らしい白い包みがあった。
親父の遺骨は既に納骨している。
じゃぁ、アレはなんなのか?
蕎麦と言うか、おあげが兎に角美味しく思えた。
なんだかそれだけで心が踊った。
カップ麺一つで腹がいっぱいになるとは、いささか便利な身体だな。
部屋に戻るとスマホの充電がそこそこになっている。
写真を撮るぐらいはできるだろう。
自撮り……って初めてだな。
ドキドキしながらインカメラにする。
インカメラなんて使った覚えがないな。
なるべく見栄えのする方向で撮りたいな。
少なくともおっさんの部屋と言うのは良くない。
カーテンを閉めて、そこを背景にして顔写真を撮った。
表情が硬いとか、何だか目が半開きだとか、案外難しい。
うっかりと裸の胸元が写ったりとか、使えない写真ばかり撮ってしまった。
何枚も撮影して、やっとでそれらしい写真を撮影できた。
作ったアカウントにログインして、アイコンをアップロードする。
ついでに、その写真もポストしよう。
悩んだ挙げ句、「人間界初めてのポスト」と打った。
そう言えば、ネットマンガの更新がある。
読まなくちゃな。
スマホがないのでPCでサイトを開く。
「こんな漫画の連載あったっけ?」
などと思いつつ、お気に入りのページへと進むと、話がずっと先に進んでいた。
無料で読める期間を過ぎていて、最新話は全く分からない展開になっていた。
誰だよこいつ、あのキャラいつ死んだの!?
混乱しつつ、他の漫画も読んでみる。
連載が終わったものや、休載のお知らせなんかもあったりする。
どういうことだよ!
日付を見てみると、明らかに一年過ぎている。
俺は寝ている間に一年が過ぎていたのか!?
恐ろしくなって来た。
そうしているうちに、SIMの入っていないスマホはしきりに通知音が鳴っている。
PCの方でSNSを開くと、通知が99+と表示されている。百件以上!?
山盛りのリポストといいね。
「かわいい!」
の大量のリプライが付いている。
怖い。
急に怖くなった。
全てが恐ろしくなった。
全部閉じて布団に倒れ込む。
寝よう。
夜になって母さんは大荷物と共に戻ってきた。
私用の服と、晩御飯の材料だ。
「コウジ……って、この呼び方も変ね。
なんて読んだらいい?」
私は「絢香って読んでよ。そう決めたんだ」と伝える。
「絢香ちゃんね! 可愛い名前!
お母さん、久しぶりに腕を振るうね」
母さんは台所に材料をおろし、下ごしらえを始める。
私は、母さんの買ってきた服を物色する。
どれも可愛い系の服だ。
どれもスカートだった。
確かにパンツ系は尻尾が邪魔だろう。
取り敢えず来てみよう。
明らかに女児服だけど、このサイズの他の服はあるまい。
下着を着て、ワンピースを身につける。
問題はショーツの後ろが明らかに尻尾と干渉して、きちんと履けないぐらいだろう。
なんだか具合が悪いので脱いでしまうしかなかった。
ワンピースの丈はちょうどぴったりだった。
フリフリとしたデザインで凄く可愛い。
姿見の前で自分の姿を映してみると、可憐で可愛くて自分でも自分を好きになってしまいそうになる。
母さんは料理をしながら私の様子を気にかけてくれる。
今日はどうだったかとか、服は気に入ったかとか。
「服はすごく好き。可愛くていいよね。
それで、あのさぁ……神棚の遺骨って誰の?」
俺は危険な質問をしているのをわかっている。
でも聞かないでは済まされなかった。
母さんは、明るい声で語りかける。
「裏のお稲荷さんあるでしょ? 町内会で掃除しているところ。
お母さん、一年前からあそこの掃除を毎日しているんだよ。
仕事が終わってから一人だと、ずっと暇だったから、生活にハリをつけなくちゃって思ってね。
だから、毎日箒で掃いたり、雑巾で拭いたりしてたの。
それで昨日、夢の中で一匹の狐が出てきたのよ。
望みを一つ叶えてやるって言われて、私、”コウジを返して!”って言っちゃった」
母さんの声は明らかに弾んでいた。
「それと遺骨ってどう関係するの?」
私が疑問を持つと、母さんは急に焦ったように叫んだ。
「どうって……あなた一年前に会社で死んじゃったのよ!?」
死んだ? 一年前に!?
記憶を呼び起こしても、昨日の記憶はあやふやであった。
別に何がどうという話でもなく、単純に昨日も一昨日と同じで、普通に会社に行き、普通に仕事をしていた筈だった。
代わり映えのしない毎日の仕事、昨日がどうだったかは特に何も考えることはない。
母さんが言うには、私は脳溢血で死んだらしい。
過労死のセンで色々と弁護士のお世話になったけど、結局、なんの保証もないまま放り出されたらしい。
「私はね。あなたがどんな姿でも、この世に戻ってきてくれて嬉しいんだよ。
だから、ずっと一緒にいてね」
「う……うん。よろしくね。お母さん」
SNSで凄い反応があるとか、そんな話をしながら夕飯の時間になった。
カレーと豚の生姜焼きと筑前煮、豚肉と大根を炊いたやつ。
どれも母さんの得意料理でどれも大好きな料理だ。
私は「こんなに食べ切れないよ!」と言いながら、本当に楽しい団欒を迎えた。
懐かしい。こんなに楽しい晩ごはんはいつぶりだろう?
母さんにとっては、自分の料理を誰かに食べてもらうと言うことさえも一年ぶりだ。
母さんが泣いている。
私ももらい泣きする。
「美味しいよ! 本当に美味しいよ!」
それから、古いスマホで私の写真を撮ってもらう。
SNSの反応は凄いことになっていたが、いちいち見ていられなかった。
概ね好意的なのは分かる。
私は綺麗に取れた一枚をSNSにアップロードして「みんなありがとう!」と書き添えた。
翌日は土曜日だ。
母さんもお休みなので、今後どうするか考える。
私はこの世に戸籍のない人間だ。
そもそも人間かどうか怪しいまである。
少なくとも、個人認証の必要なサービスは使えまい。
「絢香ちゃん、可愛いから動画でおしゃべりしたら良くないかな?」
母さんはどうやら、テレビでちょこちょこ話題になるストリーマーに興味を持っていたようだ。
母さんは私の化粧をしてくれる。
「肌が綺麗だから、化粧していても楽しいわ」
眉毛を整えて、薄いファンデーションを掛ける。アイブロウマスカラアイシャドウチーク。
まったくよくわからないけど、どんどん可愛くなる。
最後に口紅を細い筆で丁寧に塗って完成した。
「凄い! 可愛い!」
私も自分の可愛さに驚き、そして写真を撮ってSNSにアップロードする。
何はともあれ、私と母さんは配信に使えるカメラを買いにパソコン屋へと出かけた。
いわゆるオタク街だ。久しく来ていないうちに、あれこれと店が変わっているのに驚く。
待ちゆく私を皆が注目する。
かわいい! コスプレ? 凄い!
そんな言葉が投げかけられる。
「写真撮っていいですか?」
そんな言葉も一人や二人ではない。
お店に着く頃にはヘトヘトになってしまった。
パソコン屋で事情を説明すると、店員はニコニコしている。
確かに配信はいいアイデアだと言うような話をしながら、配信向けのカメラやマイク、それに配信するなら配信用のパソコンは別なのが良いという話までされた。
しかしいくらなんでも、それらの金額は予算オーバーだ。
その時、店長さんが現れた。
「ここでセットアップしませんか? 初めての配信で、店の紹介をしてくれたら、お代は頂きません」
つまり、ここでお店の人に設定をしてもらって、この店の中で配信開始して、そこで店の紹介をすれば良いのだという。
「そんなことでいいなら」
気付いたら、店は人だかりになっていた。
セットアップ中、お兄さんが色々と説明してくれる。
パスワードお願いします。アカウント名はどうしましょう? SNS連携しておきますね。お客さんならすぐに収益化しますよ。その時も設定に困ったら店に来てください。
そんな話を矢継ぎ早にされる。
「配信のときは、のじゃロリ風にすると良いですね。
あと巫女服のほうがウケますよ!」
色々準備と説明を受けているうちに、店員の一人が巫女服風のロリータを買ってきた。
「これ着ましょう!」
スタッフルームの奥で、母さんに手伝ってもらいながら着替えた。
店員さんに「これを押したら配信開始です」と言われた。
胸がドキドキする。脇では母さんが目を輝かせている。
「こ、こんにちは! 妾は殺生石絢香じゃよ!」
一度喋りだすと、何だか妙に馴染むものを感じる。
「妾は昨日、人間界に来たばかりでのぉ。
皆の幸せを祈るためにこうして配信を始めるのじゃ!」
何だか台詞が勝手にするすると出てくる。
配信の同接数が信じられないぐらいに伸びていくのが分かる。
コメントが嵐の如く流れていき、目につく限りでは、好意的な意見ばかりだった。
「おお、皆の衆、喜んでいてくれるな!
妾も嬉しいぞ。
そうじゃ、今日は一つ、ここにおる皆のために祈りの歌を歌おう」
そこから自分の目の前には美しい山々と草原の景色が広がる。
口を開けば、自然と歌になった。
自分でも美しい歌だと思う。
手を伸ばし、生きとし生けるものへの讃歌を歌う。
静かで穏やかで、そして伸びやかなメロディが紡がれる。
自然と感情が高ぶるのが分かる。
高揚とした気分の中で、まるで日本の原風景を目の前にしているようだった。
私が歌い上げると、観客は暫く魅了されていた。
「妾は皆の幸せをいつでも祈っておるぞ」
私の一言で、眼の前の店員がハッとする。
そして拍手を始めた。
周りを見渡すと、涙を流している人が何人もいる。
拍手はすぐに広まり、店内は人でいっぱいなのに秩序だっている。
店長も涙を流す一人であった。
彼は素晴らしいと叫び、顔からは全ての喜びが滲んでいた。
「そうそう、今日はじゃな、大須のパソコンストア、キャノットさんにお邪魔しておるぞ!
初心者でも親切に教えてくれるし、最適な一台を選んで貰えるからのぉ。皆も一度来るといいぞ」
そう言って配信を閉じる。
その後は、店長さんに家に送ってもらった。
運転してる彼はいたく感動していて、「貴方のためなら何だってお任せください」と熱っぽく喋っていた。
疲れた。
たった一日のことなのに疲れた。
「母上、昨日の残りがあるだろう。
それを温め直すだけだよいじゃろう」
妾が提案すると、母上は「もう、絢香ちゃん! もう二人だから普通に話していいんだよ?」と笑う。
妾はそんな意識は微塵もないのだけれど。
妾の不思議そうな顔に、母上は顔面蒼白になり、「大丈夫!? 私のこと覚えてる!?」と肩を揺すった。
「なんじゃ? 何があった!?」
妾の返事に、「覚えてる!? 家族の思い出とか?」と肩を揺する。
何がと思ったが、聞かれたので答えねばなるまい。
「妾が中学生の頃、志摩に生牡蛎を食いに行ったが、その時、母上だけが当たって大変なことになったなぁ。
あの時は心配したのじゃよ。
まだ幼き故、素っ気ない態度であったがな」
妾の思い出話に母上は、「そう……覚えているならいいわ」と心配そうな顔をしておる。
「心配するでない。妾の母上はお主のみだ! 妾唯一の肉親。何も忘れる事はない」
と言って後ろから抱きしめると。
「ありがとう。本当にありがとうね」
と笑った。
一日経っても母上の料理は美味しくて、それだけで気持ちが前向きになる。
「妾は母上の料理が一番好きじゃ」
「ありがとうね。いつも美味しそうに食べてくれて」
「美味いからに決まっておろう」
そうして二人して楽しい夕餉を食べたのだ。
それから稲荷神社の掃除をする。
もう日は暮れて、街頭の明かりのみになったが、日課なのでやらないではいられない。
昨日の母上は、一人で掃除をして感謝を捧げたという。
今日は妾もいっしょじゃ。
捨てられたゴミを拾い、落ち葉を掃く。
そうして神社が綺麗に保たれている。
妾が幼かった頃よりもずっと綺麗に見える。
「そう言えば」と、母上が楽しそうに語る。
「今日って化粧ののりが良かったのよ。
化粧が楽しいって思ったのは久しぶりなのよ」
確かに何だか綺麗に見える。
翌日、いち早く収益化のお知らせが入っていた。
昨日の配信だけで一瞬で基準を満たしたのである。
すぐにSNSで報告すると、ものすごい反響であった。
差し当たり、収益化の設定をしてくれると言うので、再びキャノットを訪れた。
店長さんも店員さんも、凄い凄いと喜ぶし、それに「殺生石さんのお陰で昨日の売上が過去一でしたよ」とホクホクしている。
税金のこととか、様々なことを教えてくれるし、とにかく親切な人達だ。
妾が店内にいるだけで、客入りがとても良いと笑う。
「皆に幸多からん事を祈ろう」
手を合わし、頭に浮かぶ言葉を告げる。
この時、その言葉の意味が分かっている自分と、分かっていない自分の二人いることに気付く。勿論、だからといって自分の中に問いかける自分とか、二方向から人格がぶつかり合っているとか、そういう訳ではない。
それは自然に自分であり、そして同時に自分ではなかった。
暖かくも冷たくもないぬるい水風呂のような感覚だ。瞬間暖かく、次の瞬間は冷たい。それが延々と満遍なく続く。
大須からの行き帰り、相変わらず沢山の人に声を掛けられ、妾は幸せを祈る言葉を掛ける。
それだけのことで、老若男女誰もが笑顔になる。
それを見ると、妾も嬉しくなるし、母上も喜んでくれる。
家に帰ると部屋を片付ける必要があると感じた。
奥の納戸を綺麗にしたほうが良いだろう。
業者を呼べば、すぐに行けると言う。
納戸にはいつか使うと思っていた来客用の布団や古い服、使わなくなった家具やブラウン管のテレビが入っている。
小さなテーブルと椅子は残すにして、他のものはゴミ同然、そして思い出も大したものではなかった。
廃品回収の業者は、回収代金はいらないと言ってくれる。
何だかんだで有料で売れるものだから、お代を取ったらバチが当たると笑った。
そういうものなのかと見送り、部屋を整える。
如何にも普通の民家だけど、まぁ気にしない。
配信や夕食にはまだ早い。
稲荷神社の掃除をしよう。
二人で掃除をしていると、近所の人が声を掛けてくれる。
中年の女性はニコニコしている。
「性が出ますね! いつもありがとうございます。
あぁ、ちょっと待って! すぐに戻ってくるから」
そう言って、しばらくすると、柿を持ってきてくれた。
「旦那の実家から送ってきたの。
食べきれないから是非食べてね!」
妾が感謝を述べ、そして「お主にも幸多からんことを」と述べると、「ありがとうね。本当にいいことが起きそうよ」と笑った。
掃除は終わりに近かったけれど、彼女も少し手伝ってくれて、そして三人でお稲荷様に手を合わせる。
清々しい気持ちになって、夜の配信ができそうじゃ。
「母上よ、何かとろう」
ポストにフードデリバリーの割引券が入ってた筈だ。
そうね……でもこういうの初めてで。
妾は母上のスマホを触りながら、アプリのインストールと、割引コードを入力した。
「どこにしようか?」
近所のお店を中心に色々並んでいる。
母上は「ここにしましょう?」と、近所の洋食屋さんを選んだ。
父上がまだ生きておったころ、度々出かけたお店だった。
「代替わりしたって言うけれど」
母上が表情を曇らせるので、「きっと美味しいじゃろう」と笑った。
二人でハンバーグを頼むと、思ったよりもすぐに届いた。
心配していた味は、完全に記憶のそれを再現している。
ケチャップとウスターソースをベースにしただろうソースは少し甘く、そして肉の旨味を引き出してくれた。
「懐かしい味じゃな」
「そうね。また今度行きましょうね」
そうじゃ。一緒に行こう。
思い出は大切にしなければな。
えっちな完全版(有料&R18)はこちら
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全年齢版とR18版の違い
https://note.com/fakezarathustra/n/n8a1f872357e9