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鉄道150年特集バックステージ③・昆布うどんはうまかった

月刊『東京人』2022年月号「鉄道をつくった人びと」特集に寄せて

内田利次さんは鉄道模型のモデラーとしても知られており、「冗車会」というサークルも主宰しておられます。設計はお手のもののCADで、工房には小型工作機械が揃えられ、真鍮材から自作された模型の数々がずらりと並んでいます。ことにクラッチ機構を組み込んでモーターの動力を切り離すことで実物が惰行するさまを再現した自由形機関車や、ご友人が作られた、実物と同じ機構を組み込んだ台車など、どう考えて作られたのか思考を追うと面白くて仕方がない模型の数々。原稿は「開業時謎の機関車190形」の謎解きをしていただくというコンセプトが決まり、お持ちの明治時代の絵葉書をご提供いただくお許しもいただいて目的は達したのですが、話が次々に発展して止まらなくなりました。

夕方、一緒に明石駅に出て、内田さんが艤装設計を手がけられた山陽電車に乗り、神戸板宿(いたやど)へ。駅から5分ほど歩いた市場の中に電車バー「日乃電」があります。入口は戦前に作られた阪神電車の前面を模していて、正面ドアはガラスの天地が大きな、「喫茶店」というニックネームで親しまれたものを再現。カウンターの上にはHOゲージのレールが敷き回され、模型が走るのを見ながらお酒が飲めます。カウンターで運転も可能です。

内田さんはハンドルネームにされているラム酒「クラーケン」を召し上がっています。この日は内田さんと私だけでしたが、事あるごとに趣味人が集まる店。日乃電のマスターの岸さんもモデラーであり、Oゲージ(1/45)で製作された、新幹線開業以前に東京—大阪間を結んでいた特急「こだま号」(黒澤明『天国と地獄』に出てくる列車と同じ)は、映画「続・三丁目の夕日」に登場。石崎ヒロミ(小雪)が東京から去るシーンで疾走しました。料理は奥様の担当。アイデアあふれるつまみもさることながら、締めの昆布だしのうどんが絶品です。体内が浄化され、酔いが覚めていく感じもします。日乃電はもともと「岸日の出堂」という昆布の小売店。高級昆布が安定して手に入る恩恵と言えましょう。

日乃電を後にして、内田さんとふたたび山陽電車で明石まで戻ります。チェックイン前の時間に荷物を預けてきたビジネスホテルから「本当に泊まるんですか?」という電話がかかってきました。お目にかかってから9時間以上もしゃべり詰め。内田さんとお別れしてJRに乗り換え、西明石駅近くのホテルにたどりついたのは午前0時近く。雑誌のページがこれで成立するという安堵感に包まれながらバッタリとベッドに倒れ込み、起きたのはチェックアウトギリギリの時間。朝食時間を寝過ごしてしまいました。(偽)

鉄道模型BAR日乃電 神戸市須磨区飛松町2-4-11-104きたいちば内 078-732-3364
営業時間:17:00〜22:00、電話での確認が望ましいそうです。
BARは無休、臨時休業あり

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