見出し画像

『Fairy's Dress 小さな妖精と幻想の世界展』ギャラリートーク

このnoteは、2024.12/14〜2025.1/27に長島美術館にて開催された個展のギャラリートーク原稿です。行けなかった方が内容を知れるように、また自分にとってもこれまでの経緯や思いなどを開示する良い機会かと考え、記録を兼ねて投稿することにしました。

進行役:colette plan様
会場:長島美術館第七展示室


展覧会のテーマ

Q.今回の展覧会のテーマは何ですか?

妖精たちのいるようなファンタジーや幻想の世界を植物で表現しました。
妖精たちが息づく世界を覗き見るような感覚を味わっていただけたらと思います。

“妖精のドレス”を作るきっかけ

Q.“妖精のドレス”を作ることになったきっかけは何ですか?

もともと自然の中でよく遊んでいましたし、子どもの頃から植物やファンタジーの世界が好きでした。ガーデニングも8歳ごろに始めました。
それから、『花ものがたり 春』という子ども向けの本の中の、すずらんと妖精の出てくるお話がお気に入りでした。
自分でも何故かは分かりませんが、なんとなく妖精さんは植物から出来た洋服やドレスを着ていると思っていました。
子どもの時に草花遊びの延長線の感覚で「お花で妖精のドレスを作りたいな」と思ったことがありました。その時は失敗してしまって終わり、それからずっと忘れかけていましたが、2021年、うつ状態の療養中の時に、庭に咲いていたスノーフレークというすずらんに似たお花を見て、子供の頃に妖精のドレスを作ろうと していたことを思い出し、作ったことがきっかけです。

ロゴマークについて

Fairy’s Dressのロゴマーク

Q.ロゴマークにもすずらんが使われていますね。何回も打ち合わせを重ねました。このロゴマークにはどのような思いが込められているのか、改めてお聞かせください。

子供の頃、妖精とすずらんの出てくるお話が好きだったこと、それをきっかけに妖精のドレスを思い出したことで、すずらんは思い入れのあるお花です。 大人になってから、一枝に13輪のお花をつけたスズランは幸せをもたらすという言い伝えがあることや「幸福の再来」という花言葉を知りました。 妖精のドレスを見つけた人や、それを誰かに贈る人が幸せな気持ちになるといいなという願いを込めたロゴマークです。

創作のきっかけ

Q.ところで、“妖精のドレス”を作るようになったきっかけと、ものづくりをするようになったきっかけは別とお伺いしましたが、どういうことでしょうか?

ドレスを作るきっかけについては今まで話していましたが、 創作するようになったきっかけはずっと話してきませんでした。 創作そのものをするようになったのは療養の中での経験からです。
12歳で起立性調節障害になり、体調が悪い状態が長く続き、中学校では授業を受けることもできませんでした。 やがて思い悩んでだんだんとあまり食べられなくなり、 そのうち痩せすぎてしまって、脳に栄養がいきわたらなくなり、 16歳の時、幻覚と幻聴が1か月ほど続いた頃がありました。私もそうなるまで知らなかったのですが、痩せすぎるとそういったことが起きる場合があるそうです。
この時の自分の状態を例えると、まるで嵐の中の小舟のように翻弄された状態でした。
ですが、ある時、幻覚・幻聴で見えたもの聞こえたものを、言葉にしたり絵に描いたり、作ったり、ということをすると不思議と少し楽になることに気付きました。ひとりでに体というか、手先が動いたり、材料の上に幻覚の線が見えるので、そのまま切ったりと、形にしていきました。
この楽になったという感覚を表すと、嵐の中の小舟が、自分で少し舵を取れるようになるという感覚です。
つらいはつらいので、嵐自体は変わらないのですが、なぜか楽になりました。
心が楽になるとはまた少し違って、感覚が澄み渡るような、しっくりくるような、言語化しにくいものです。
何回も繰り返していくうちに、だんだんと舵を取るのも上手くなってくるというか、 何かを得た感覚がありました。
その当時に作った作品を一点だけ今回展示しています。 小さな貝を使った作品です。 その時見えた世界の中の幻想的な植物を写し取るように作りました。 その時見えたのは、くるくるとした銀色のつるに水色の花か実がついている様子です。

当時の作品 『-銀の幻想植物-』

学校に行けなかったということもそうですが、今お話しした体験は虚言を疑われるのではないかと 思い、また、そのことで耳目を集めるのに抵抗があり、ずっと創作するようになったきっかけをひた隠しにしていました。

Q.なぜお話しされようと思ったのですか?

だんだんと自分の本質を誤魔化しているようで息苦しさを感じるようになり、また、創作物は人生の発露であるとも思っているので、創作の元となった経験の話をすることにしました。

Q.今でもそのような感覚で創作されているのですか?

体重が増して栄養が足りてから、幻覚も幻聴もなくなりました。 今では苦しみながら別の世界に潜るような感覚はないですし、自然に創作できるようになりました。
ただ、パズルのピースがぴったりとはまる時のようなはっきりとした確信めいた、 これを表現するんだというバチっとした感覚、表現するものの空気感・存在感を掴んだ時の感覚は今でもまざまざと覚えていて、そういったクリアな感覚を元にものづくりをすることが日常です。 また、思考よりも先に瞬間的な閃きがあることや、瞬間的にビジョンが見えることはよくあります。

Q.そうなんですね。ちょっとお尋ねしたいのですが、やはりご家族や親せきの方に クリエイター系の方がいらっしゃるのでしょうか。

いえ、もともと家族や親戚に芸大や美大を出た人はいないですし、クリエイター系を職業にしている人もいないです。会社員とか何か資格を持っているとか、分かりやすい職業の人ばかりです。 私も元々はかなり安定志向だったので、高校に行って大学に行って、資格を取ってちゃんとしたところに就職して…ということを思い描いていました。 思いもよらない方向になりましたが、喜んでくれる方も多いですし、私自身も感覚や感性を活かすことが楽しいですし、私の行き着く所が気になるので、これで良いのかなと今は思っています。

作品の素材や技法について

Q.アートパネルについてご説明をお願いします

壁に展示してあるアートパネルですが、 これらの作品は生の植物でドレスを作り、庭の片隅で撮影した写真をアートパネルとして形にしたものです。稀にいただきもののお花が萎れてきたら使うこともありますが、ほとんどは自分で育てたものです。
ドレスのお花は自然の物ですので、20分から1時間程度でしおれてしまいますが、 写真に写すことで、植物の放つ一瞬を残しています。
アートパネルを鑑賞することによって、光や暗い場所でのコントラスト、自然や花々の表情も含めてお楽しみいただきたいです。

壁面に展示したアートパネル

Q.ドレスのオブジェについてご説明をお願いします

これらのオブジェは、プリザーブドフラワーを使用した作品です。どこか箱庭のような、妖精たちの世界を覗き見るようなイメージで作っています。 しゃがんで目線を低くしてご覧いただけたら、より世界観を味わっていただけると思います。生のお花は長時間もたないものなので、花びらやツタなどのプリザーブドフラワーを使って作りました。 プリザーブドフラワーとは、脱水液と着色液に付けて乾燥させ、長期保存できるようにしたものです。

プリザーブドフラワーのオブジェ 『ピンクの薔薇の妖精のドレス』より
プリザーブドフラワーのオブジェ『妖精たちの物語』より

作品について気を付けていること・苦労

Q.作品について、気を付けていることや苦労したことを教えてください。

花びらはとても繊細なので、跡がついたり破れたりしないように集中して手先の感覚に気を付けながら作っています。 花びら一枚一枚を慎重に扱い、その形や色、輪郭をひきたたせるよう集中して作るので、体力がいります。
それから、気を付けている点は、最終的にすべての植物を土に還していることです。 もともと自然の循環を尊重したいという思いがずっとあり、花がらや剪定した枝も土に還していました。 その流れで妖精のドレスも最後には土に還しています。 植物が虫や微生物などたくさんの小さな生き物たちに分解されて、良い土になり、 その土がまた植物を育むという循環の中にあります。

これまでの道のり

Q.ここに来るまでの道のりを簡単に教えてください。

先ほどもお話ししましたが、2021年に妖精のドレスを作るようになりました。 4種類のドレスをSNSに何気なく投稿したところ、18万いいねという多くの反響があり、驚きました。
その後も投稿を続け、個展やイベントへの出展もするようになりました。

当時の投稿 *現在は非公開アカウント

鹿児島のギャラリーさんでの個展や、関東での展示やイベント、その他百貨店さんにもお声掛けいただき出展したりと、様々な活動をしています。
たくさんの方とお会いしてお話したり、作品のことを誰かに伝えてくださる方々がいらっしゃるお陰で 今があるという気がします。

アニミズムについて

Q.ところで、桃月さんの作風にはアニミズムという概念があるとお聞きしたことがあるのですが、
このアニミズムについてご説明いただいてもよろしいでしょうか。

はい。私の作品には「アニミズム」という考え方が息づいています。 アニミズムとは人間以外の生物を含む、木や石など、すべての物の中に魂が宿っているという考え方です。
元々、植物は動物のような意識や意志ではないけれども、何か宿るものがあるのだろうなとずっと 思っていました。
それから、人の寿命など比べられないくらいの自然の営みや、自然そのものに どこか畏怖してしまうようなものを感じていました。
ガーデニングしたり、自然の中にいるだけで、植物や生物が枯れたり朽ちたりして土に還り、またその土が 植物を育むという、遥か長く繰り返されてきた循環の一端に触れることができます。
それから、今回、作品に水晶やアメジストも使いましたが、鉱物も長い時を経て、原子が結合し、 結晶として結実して形になっていること、その途方もなさと揺るぎのなさに心が澄み渡ります。 その存在感が妖精の世界としっくり合う感じがします。

水晶 『白銀の幻想世界 -白百合の妖精-』より

Q.展示されている写真のコラージュからも、植物や虫、動物、空、土など 自然の循環を垣間見ることができますね。 これらに対する愛情も感じられる写真の数々ですね。

ありがとうございます。
子供の頃から自然の中で木登りしたり草花で遊ぶのは 楽しかったですし、一緒に暮らしていた動物たちとも、とても楽しい時間を過ごせました。
植物という自然の恵みの一端を享受して、輪郭や色彩や存在感を生かして、より引き立たせて、 誰かに楽しんでいただければと思いながら、そして自分も楽しみながら作品を作っています。

壁面のコラージュ

今後の制作についての展望

今後も自然や妖精をテーマに、色々な作品を作っていきたいと思い描いています。
それから、妖精のドレスをウエディングドレスやバレエや舞台、フィギアスケートのお衣装などに 展開していけたら良いなとも思いますし、人形用の着せ替えのお洋服やドレスにできたらなとも思っています。 企業さんからお声かけがあったら嬉しいですね。
作りたいものややってみたいことが本当にたくさんあります。


いいなと思ったら応援しよう!