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健康経営とコーポレートガバナンス・コード

(2021年6月15日修正)

上場企業が守るべき”コーポレートガバナンス・コード”と"健康経営"には深い関係性があることをご存知でしょうか?

多くの企業では健康経営の担当部署(人事部/健康保険組合など)とコーポレートガバナンスの担当部署(経営企画部など)が異なっているため、両者をを結び付けて考えている方は少ないと思います。
しかし、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は新たに”人的資本”への投資について具体的な情報開示が求められることになりました。「健康経営に係る取組の情報開示がコーポレートガバナンスの観点からも求められるようになる」ということを本noteではお伝えします。

健康経営に関するお役立ち情報をお届けする「健康経営のすすめ」は、健康経営支援ツール"FairWork survey"をご提供する株式会社フェアワークが運営しています。フェアワークへのお問い合わせはこちら

健康経営とは

経済産業省は以下のように定義しています。分かりやすく言うと、企業の経営目的達成のために、企業で働く人たち一人ひとりの健康を大切にしよう。という取組です。

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことで、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待される。

コーポレートガバナンス/コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンスとは「企業統治」とも言われ、「会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」とされています。

コーポレートガバナンス・コードとは「企業統治原則」とも言われ、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則として東京証券取引所が定めているものです。5つの基本原則から成り、上場企業は各原則を順守する(comply)、もしくは順守しない場合は説明責任を果たす(explain)ことが求められています。

2015年6月から全上場企業への適用が開始され3年ごとに改訂が行われています。前回の改訂は2018年6月に行われており、最新版は2021年6月になります。(リンク:東京証券取引所

コーポレートガバナンス・コード2021年版改訂のポイント

コーポレートガバナンス・コードの2021年改訂事項の中から、特に健康経営と関係の深い箇所を説明します。
2021年改訂の大きな変更点は以下3点です。

1.取締役会の機能発揮
2.企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
3.サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

3点目の「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み」の中に、”人的資本への投資”という文言が盛り込まれています。

サステナビリティに関しては、従来よりE(環境)の要素への注目が高まっているところであるが、それに加え、近年、人的資本への投資等のS(社会)の要素の重要性も指摘されている
~略~
企業の持続的な成長に向けた経営資源の配分に当たっては、人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいとの指摘も鑑みれば、人的資本や知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分等が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うことが必要となる。

また原則3-1の補充原則には、人的資本への投資を自社の経営戦略・経営課題と整合して説明することが求められています。

人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。

上記の記載は健康経営の定義と同義であり、健康経営の取組についてステークホルダーに積極的に情報発信していくことが、コーポレートガバナンス・コードにおいても求められてくることがお分かりいただけるかと思います。

健康経営とコーポレートガバナンスを結び付けた例

従来のコーポレートガバナンス・コードには人的資本への投資が盛り込まれていなかったため、コーポレートガバナンス報告書(上場企業が証券取引所に提出する適時開示情報の一つ、コーポレート・ガバナンスの状況を記載した報告書)に健康経営について記載している企業が多くはありませんが、健康経営とコーポレートガバナンスを結び付けている企業の例を紹介します。

なお今次改訂で「人的資本への投資についての具体的な情報開示・提供」が求められるようになるため、今後は掲載した事例よりも更に踏み込んだ項目や数値の開示が上場企業には求められます。

<事例1:オムロン>

<健康経営について>
オムロンは、働く社員一人ひとりの健康が経営の基盤であると捉え、2017年度に「健康経営宣言」を制定し、経営トップ自らがリーダーとなって健康経営を推進しています。
仕事における集中力や豊な人生に直結する要素として「運動、睡眠、メンタルヘルス、食事、タバコ」の5項目を「Boost5」として指標化し、国内グループ各社において、それぞれの目標達成に向けた取組みを実施しています。
社員の健康状態の見える化や、産業医・看護職からの指導・教育機会を通じたサポートによる気づきや習慣化を促すなど、「Boost5」への継続的なアプローチによって、将来にわたる健康リスクの低減とともに心身共にタフな人財を育成し、笑顔溢れる職場づくりを目指しています。
このような取り組みが評価され、経済産業省および東京証券取引所による「健康経営銘柄」に2年連続(2019,2020)で選定されました。
(出典:オムロン/コーポレートガバナンス報告書/ステークホルダーの立場の村長に係る取組み状況

<事例2:ファンケル>

≪働き方改革/ワークライフバランスの推進≫
2017年8月「健康経営宣言」を制定し、「在宅勤務の本格展開」や「有給休暇取得の奨励」「メンタルケア対策」など、働き方改革に取り組んでいます。
2018年4月より、全国の直営店舗で働く契約社員の雇用区分を廃止し、新たに「エリア正社員」を設け、雇用期間、賞与の支給ルール、休日日数などの処遇を改善しました。また、当社グループの本社部門、工場部門で働く契約社員とパート社員、直営店舗で働くパート社員のすべてを、契約期間の定めのない「無期労働契約」へ切り替えました。
2019年4月には、正社員の雇用区分として、新たに「アソシエイト正社員」を設け、「介護」や「長期療養が必要な身体の病気」、「身体障がい」を抱える方が本人の希望する時間や日数でフレキシブルに勤務することが可能です。また、2020年4月、正社員の人事制度を改定し、定年年齢を60歳から65歳に延長いたしました。
人生100年時代と言われる中、従業員が安心して長く勤めることができる環境を整備し、年齢に関わらず活躍できる場を提供してまいります。
従業員がワークライフバランスを実現し、充実した毎日を送れるよう、週3回のノー残業デーを実施し、全社的に労働時間短縮と時間外労働削減に取り組んでいます。また、2009年に「社会貢献休暇制度」を導入し、従業員が社会貢献活動に参加しやすい環境を整えています。2018年度は、のべ3名が社会貢献休暇制度を利用しました。
(出典:ファンケル/コーポレートガバナンス報告書/ステークホルダーの立場の村長に係る取組み状況

<事例3:富士フイルムホールディングス>

【健康経営について】
当社は、企業理念・目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる従業員の健康維持増進を経営課題として捉え、健康経営をより力強く推進するため、2019年9月17日に「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定。
<富士フイルムグループ 健康経営宣言>
富士フイルムグループは、社会に新たな価値を創造するリーディングカンパニーであり続けるために、従業員が心身ともにいきいきと働ける健康づくりを積極的に推進すること、そして「100年を生きる時代」の社会の人々に、生きる力、生きる楽しさを提供していくことを宣言する。
健康経営を推進するため、以下の活動方針に沿って具体的な施策を展開する。
<活動方針>
◆従業員が心身ともに明るくいきいきと働き続けることができるよう、生活習慣病、がん、喫煙、メンタルヘルス、長時間労働を重点課題とし、健康レベルの向上に取り組んでいく。
◆従業員自身の健康に対する意識向上を図るための教育や、健康維持増進に向けた指導など、会社として積極的に関与していく。
◆世界の各地域、国の実情に合った、適切な従業員の健康増進を後押ししていく。
◆ヘルスケアにおける「予防」「診断」「治療」に関わる製品・サービスにイノベーションを起こし、「100年を生きる時代」の世の中の人々、そして従業員の健康推進に、活かしていく。
◆健康経営を実践した成果を社内外に発信し、社会全体の健康意識の向上に貢献していく。
<健康推進体制>
当社では、健康経営宣言のもと、従業員一人ひとりが健康でいきいきと働けるよう、全社一丸となって取り組む体制としている。
※体制図は下記リンク先をご参照ください。
https://holdings.fujifilm.com/ja/sustainability/vision/policy/health-safety
2018年7月より、当社の健康推進機能のさらなる強化を目的に「健康推進グループ」を立ち上げ、統一方針のもと、実行計画を策定・推進している。
(出典:富士フイルムHD/コーポレートガバナンス報告書/ステークホルダーの立場の村長に係る取組み状況

まとめ

コーポレートガバナンスと聞くと取締役会や機関投資家といった従業員サイドからは縁遠い話だと感じる方も多いと思いますが、企業が中長期的に企業価値を向上していくためには、適切な人的資本(従業員)への投資が重要だとする機運が高まっています。

実際に、これまでのコーポレートガバナンスコードでは「非財務情報」の一部として扱われていた人材に関する項目が、2021年の改訂では「人的資本」として独立項目となりました。

従業員の健康や活力向上に繋がる健康経営の取り組みは正に人的資本への投資であり、健康経営に係る取組の情報開示がコーポレートガバナンスの観点からも求められるようになってきています。

健康経営担当の方は自社の取組がコーポレートガバナンスの観点からも重要であること、そしてコーポレートガバナンス担当の方はこれからのステークホルダーとの対話においては健康経営の取組についても具体的な説明責任が求められてくることを意識して、社内連携を深めてみてはいかがでしょうか。

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