ほんとよかった「KIMONO」問題
とても気になってたんです。
アメリカのタレント、Kim Kardashian West(キム・カーダシアン・ウェスト)氏が新たに立ち上げる下着製品のブランド名を「KIMONO」と6月25日にツイッターで発表したことで日本や米国を中心に各国から大きな批判が起こっていました。
※ここ↑にツイッターでの新ブランド発表のツイートを貼っていましたが、削除されたのかな。文字だけに変わっています。
カーダシアン氏はインスタグラムのフォロワーが約1億4000万人という膨大な影響力と財力を持つ人物です。
「KIMONO」がブランド名として浸透してしまえば、Kimonoと聞いて日本の着物ではなく、この下着ブランドを連想されてしまうかもしれないという危険な事態です。
カーダシアン氏は批判を受けながらも日本文化への理解を強調した上で、27日まではブランド名を変えるつもりはないとの姿勢を保っていました。
しかし署名活動がすぐに始まり賛同者の数はあっという間に3万と報じられ、現在およそ14万もの署名が寄せられています。
カーダシアン氏のツイッターやインスタグラムの投稿には「Change the name(名前を変えて)」とのコメントが相次ぎます。「文化の盗用」との声もあがっていました。
京都市はカーダシアン氏にブランド名の再考を求める抗議文を送りました。これ↓
先日,米国のリアリティ番組でのスターであるキム・カーダシアン・ウェスト氏が,「KIMONO Intimates」社から発売予定の下着製品に「KIMONO」で商標登録申請したと発表した件について,京都市では,同社に対し,「きもの」「きもの文化」を御理解いただき,ブランド名として「KIMONO」の使用について再考いただくよう,別紙のとおり,理解を求める文面をお送りします。(京都市情報館)
門川大作市長がカーダシアン氏にあてて送った文書の一部はこちらです。
「きもの」は,日本の豊かな自然と歴史的風土の中で,先人たちのたゆまぬ努 力と研鑽によって育まれてきた日本の伝統的な民族衣装であり,暮らしの中で 大切に受け継がれ,発展してきた文化です。また,職人の匠の技の結晶であり, 日本人の美意識や精神性,価値観の象徴でもあります。
(中略)
私たちは,「KIMONO」「きもの」「着物」の名称は,きものやきもの文化を愛するすべての人々共有の財産であり,私的に独占すべきものではないと考えます。(市長名文書より)
ツイッターでは「#KimOhNo」のハッシュタグが生まれ広がります。「KIMONO」とカーダシアン氏の「Kim(キム)」という名前や落胆の心情「Oh No」をかけています。
それにしても元祖の「#Me Too」から派生して、あれこれハッシュタグができるもんですね。すごい上手なネーミング。「#KuToo」もご存知ですか? 「靴」と「苦痛」をかけたもので、職場での女性へのハイヒール強要をやめさせようという運動のハッシュタグです。こちらも署名活動は続いています。
私は「#KuToo」運動も気になっていましたが、今回の「KIMONO」騒動はさすがに署名に参加しようかと思っていました。
でもよかった。
カーダシアン氏が「KIMONO」の名前を取り下げる発表をしてくれたんです。
「慎重に熟考した結果、新しい名前で補正下着ブランドを売り出す」そうです。
門川京都市長からのお礼状はこちら。一部掲載します。
貴社から販売予定の商品について「KIMONO」の名称を再考されるとのこと、あなたの思慮深い御英断に心から敬意を表します。「きもの」「きもの文化」を愛する世界中の多くの方々の熱い思いを御理解いただけたことを大変嬉しく思います。
(中略)
世界中の「きもの」ファンの皆様
世界中の「きもの」「きもの文化」を愛する皆様、この度は多大な御理解・御支援をいただきましたこと感謝申し上げます。世界中に多くの「きもの」「きもの文化」を大切に思う方々、さらにそれぞれの国の歴史や伝統、服飾を含む文化を継承される方々がいらっしゃること、心強く感じました。
(門川大作京都市長)
一件落着です。
やっぱりKIMONOを他国で別のものとして使われるのはあり得ないと思い、あぁ私は「着物」を愛する日本人だなと改めて感じた出来事でした。
私からも一言。
カーダシアンさん、ちゃんと考えてくれてありがとう。
#エッセイ #KIMONO #カーダシアン #京都市長 #ありがとう #ツイッター #英語 #翻訳
ガーディアン紙のこの問題に関する一部分を抜粋します。
Kardashian West faced a storm of criticism over the name of the brand, with critics complaining her choice of “kimono” disrespected Japanese culture and disregarded the significance behind the traditional outfit.
(カーダシアン・ウェスト氏はこのブランド名をめぐって嵐のような批判を浴びた。批判する人たちは「KIMONO」を彼女が選んだことは日本文化を軽視する行為で、伝統的な衣装のもつ重要性を考慮していないことだと言った。)
海外メディアも今回の騒動を問題として取り上げてくれたからこそ、たくさんの人が知るところとなって、多くの他国の人たちも「それはだめ」って声をあげてくれたんですよね。ありがたいことです。
ここからは少し英語のお話です。
disrespectはrespect(尊敬する、尊重する)の否定の言葉なので、「尊敬しない、尊重しない」になります。辞書には「軽視する、軽蔑する」などの掲載があります。どこまでこれを厳しい口調に訳すかは翻訳者の意識にかかってきます。
はじめ「ないがしろにする」という言葉にしようかと迷いましたが、それだと語調がきついと感じたので「軽視する」にとどめました。
disregardも同じくです。これは「無視する、軽視する、考慮しない」という意味で、disrespectとよく似た言葉なので、言葉の繰り返しのような雰囲気です。同じ日本語訳をつければ文が平易になりすぎ、語彙力不足が露呈する形になるので、少し言葉を変えつついずれかを選ぶことになります。強めるか弱めるかも翻訳者次第です。
原文を読まずに日本語に翻訳されたものだけを読む場合は、翻訳者やメディア側の方針・意図で微妙にコントロールされてしまうものです。少し歪められたイメージを与えられる可能性を秘めているとも言えます。