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【傍聴記】万引きという名の病

「主文  被告人を懲役3年10月の刑に処する。未決勾留日数のうち40日を刑の一部に算入する。判決は以上ですーー」


証言台の前に座るは70代半ばの小柄な老婆。
特に動揺する様子も無く裁判官を真っ直ぐ見つめていた。

懲役4年弱と言うのは結構重めな分類で、ましてや孫もいる年齢の高齢女性。懲役3年10月も打たれるようことをした極悪人には全く見えない。一体何をしたのだろうか?

傍聴記を眺め、最近の記録を捲る。

・眠っている同僚の現金や高級腕時計など時価総額700万円分を盗んだ男:懲役1年6月
・飲酒した状態で運転し働き盛りの男性を死亡させた女:禁錮2年4月
・女子高生2人にわいせつな行為をし怪我させた外国人:懲役2年6月
・シャブをキメて運転し通行人に怪我させた男:懲役3年
・同居する孫に対し4年以上も性的暴行した祖父:懲役3年
・女子高生を買春し行為中の様子を撮った男:懲役3年6月
・元恋人を滅多刺し、殺人未遂で裁かれた女:懲役3年8月
・闇バイトで総額650万円窃取したZ世代男子:懲役3年10月

ざーっとこんな感じである。
懲役4年ともなると強盗や強姦など世間一般で言うかなり重い罪だ。
紀州のドンファン嫁の巨額詐欺事件ですら懲役3年6月である。

それを上回る懲役3年10月の刑を宣告された高齢女性のしたことは・・・コンビニでたった1200円分の食料品を万引きしただけだった。世間一般で言う窃盗罪だが、彼女は常習累犯窃盗という罪で裁かれた。

累犯と言うシステムがある。
懲役刑の刑期を終えて5年以内に、再び懲役刑が科せられる犯罪を行うこと

覚せい剤や窃盗に圧倒的に多く、累犯ではない刑よりも重くなる。例えば田代まさしの場合、1回目は懲役2年・執行猶予3年、2回目は懲役3年6月、3回目も懲役3年6月と一般的な覚せい剤取締法違反の被告事件より重くなってる。

常習累犯窃盗とは過去10年以内に窃盗罪の実刑判決を3回以上受けた者のことで、通常の窃盗に比べ一気に量刑が重くなる。窃盗の場合、懲役10年以下の懲役または50万円以下の罰金で、初犯や2回目かつ被害額が少額であれば略式起訴で済むことも多い。ところが常習累犯窃盗になると被害額関係なく、例え未遂であっても3年以上20年以下の懲役刑で必ず実刑になる。たとえ被害額が数百円でも容赦なく懲役3年以上の実刑が打たれる。

この老女の場合、前科8犯を有し(全て窃盗)
10年間以内に懲役2年8月、懲役3年、懲役3年6月と3回目も実刑判決を打たれている。出所して1年以内に再度刑務所に収監されており、極めて高い常習性が伺える。

そんなに高い頻度で窃盗を繰り返す老婆は孤立無援でさぞかし困窮しているのだろうと普通の人は思うだろう。しかし全くそんなことは無かった。

身上経歴によると、婚姻歴があり子供も2人いる平凡な主婦だったが、被告が50歳の時に夫が他界し犯行当時は年金暮らしだった。
年金暮らしとなると贅沢は出来ないし人によっては困窮するのも分かるが、被告は持ち家があり、刑務所暮らしの間に年金が自動的に積み立てられたはずで、決して困窮していた訳では無い。

女性の窃盗犯は食うに困って窃盗というパターンは少なく、貯金が減るのが嫌だったとか節約のために万引きしたとか、そういう動機の者が多い。この被告も例に漏れず「年金暮らしで将来が不安だったから盗んでしまった」と弁明していた。被告人質問の際に、老女に700万円近い貯金があることも判明した。
一方、男性の窃盗犯は所持金が数百円レベルでガチめに困窮していて、食う困って盗んだみたいな場合が多い。同じ窃盗犯だが女のソレと男のソレは全然違う。

弁護側証人に被告の息子が出廷し、出所後は母の面倒を見る旨も約束していた。勾留されてる割に身なりが整っているのは、服を差し入れする家族がいるからだった。

裁判所に行くと毎日のように窃盗犯が裁かれているが、巨額窃盗団や車両窃盗団みたいな大規模な窃盗犯は少なく、大半はこういう年寄りの万引き犯ばかりだ。もっと言うと詐欺事件なんかも頂き女子りりちゃんや羽賀研二みたいな大掛かりな巨額詐欺事件はレアケースで大半は食うに困って無銭飲食したみたいなショボい詐欺が多い。

窃盗は刑法の中でも軽い犯罪に分類されるが、繰り返すと被害額の割にビックリするほど重い判決が下されるのは意外と知られていない。それを知っていても繰り返す者が後を絶たないのは中々に闇が深い。

あの老婆も4年近く刑務所暮らしになるが、出所の頃には年金もかなり貯まるはず。次こそは家族のサポートを受け、万引きせず大人しく暮らしてもらいたいモノである。




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