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健太くん
こんにちは☺︎
エッセイ投稿します!
少しほろ苦いような懐かしいような思い出のはなしです。※作中の情報にはフェイク設定を入れています☺︎
読んでいただけたら嬉しいです☺️
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かっこいい人だなあと思った。
彼は目が綺麗な、同世代のさわやかな青年だった。私はそのころ大学生で、かっこいい人は大体好きな女だったので、彼と話しているのは楽しかった。健太くんと知り合ったのは大学関連の集まりで、その場にはいろんな年代の人がいた。集まりが始まる前に、彼と買い出しに出かけた同じ大学の女の子がうれしそうにしていた。
私は健太くんと隣の席になった。狙って座ったわけではなかったと思う、多分。会話する中で、付き合っている人の話になった。自分がなんて答えたかはよく覚えていない。当時は恋人がいない時期だったのだと思う。私は自分が答えた後、健太くんにも聞き返した。彼には恋人がいるらしかった。かっこいいからなぁ。私は少しがっかりした。健太くんは、返事の後に、男だけどね、とつけたした。
私は深く考えずににこにこ相槌を打って、恋バナ聞きたい!とかなんとか言った気がする。ちなみに彼は、まったく身元の知れない女に突然打ち明けたわけではなく、そこには信頼できる友人たちがいて、話してくれても特に驚かないような場だった。健太くんはほのかに驚いたような表情をして、その後、私にSNSやってる?とたずねた。私たちはその場でアカウントを教え合った。その後も、色々なことを話して楽しかった。話が盛り上がっていたら、近くに座っていた人から楽しそうと冷やかされた。私は内心うれしかった。
帰り道にSNSを見てみた。健太くんはほとんど更新していなかったけど、しょっちゅう知り合いと思われる色々な人からメッセージが来ていたので、人望があるんだなと思った。本人の人当たりはさらっとしているけど、人気があるタイプだ。
当時の自分なりに、同性同士の恋愛へネガティブな反応が世の中にあるのは分かっていたけど、理由を理解することができなかった。そこらへんの政治家の言葉で言えば子供が生まれず、生産性がないからなのだろうか。でも将来子供を産まなければ、私だって同じだ。私たちは子供を産む駒ではなく人間で、皆事情がある。そう思うと、そういう意見へ声高に同意することはとてもできなかった。
健太くんの少し驚いた顔を思い出していた。多分今日みたいな反応は珍しかったのかな。
でも、人を好きになったら、その人の話ししたいし聞いてほしくない?私はしたいよ。自分が本当に思っていることを、隠さなければいけないのはつらい。そんなことを考えながら電車に乗って帰った。
その後は特にやりとりも交流もなかったが、健太くんはわたしの誕生日におめでとうのメッセージをくれた。私はありがとうと返信した。2人で会うような間柄ではなかったし、この先会う予定もなかったけど、連絡をくれたことがうれしかった。
その年の春に私は大学を卒業して、就職を機に上京した。就職してから知り合った人と結婚して、文句を言いながらも日々暮らしている。あの時教え合ったアカウントは、就職してから次第に更新しなくなり、ある時なんとなく消してしまった。
特にきっかけはないのだが、最近ふと、ここまで書いてきたようなことを思い出していた。
健太くんとつながりがあったSNSで、私は入籍の報告や、結婚式のことをうれしさのままに書いた。今思うと、あれで傷つく人がいたかもしれないし、もしかすると彼もそうかもしれないと分かっていたのに。私は彼から大切な気持ちの一部を、明かしてもらっていたのに。その時の自分は舞い上がっていたけど、もっとよく考えればよかった。考えると胸がちくりと痛んだ。
私はこれまでの人生で、自分の生きたいように生きればいいと思ってきたし、今もそう思っている。ただ、大人になって、それではいけないのかと悩む気持ちや、世の中にとってメリットのある選択とは違ったものを選ぶときの怖さが分かるようになった。だからこそ、今になってこの記憶を思い出すようになったのかもしれない。
健太くんは元気だろうか。一度会い話しただけだけれど、私は彼のことを覚えている。明るい街で幸せに暮らしていてほしいと願った。
人の差別心にも痛みにも、今よりもっと鈍感だったころの思い出である。