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 主人と周平くんのフェスを見る。

「どれから見ようかなー」

「あの丸っこいのは?」

「丸っこいの?」

「あんたの嫌いな奴」

「あぁ、ベイマックスか。あんたベイマックス好きやな」

「そういうダメな奴から見たいんだよ」

 わたしが勝手にチームホスホスと呼んでるアーティストを見る。キーボードを弾く女性アーティストと、アコギの周平くんの組み合わせ。いつもこの組み合わせなので、もはやユニットである。

「歌、へったくそだなー」

「この人はもう成長しないよ」

「チャラ男のギターとも合ってねぇだろ、俺でも分かるぞ。チャラ男意地悪だなこれ」

 ズレっズレの演奏である。
 わざとやってるのかなんなのか謎だ。

「なかなか面白いよね。「お前が俺に合わせろ」って感じ。周平くん、ちょいドS入ってるからね、命数的に」

「占いか」

「命数24、26、24だから。下一桁4の人はデブが嫌いなの。それを2つも持ってるから、モタモタしたデブが大っ嫌い」

「俺は?」

「あんたも34で、1つ持ってるよ。だからわたし絶対太らないようにしてるじゃん。その努力を褒めてほしいわ」

「もういいよ。次」

 わずか1分ほど見て次に進む。

「じゃあ次はこの人ね。わたしこの人の声好きなんだ。今回初めてフルバンドで出ててね……」

「俺この髪型トラウマなんだよ」

 シルバーに近い髪色の女性アーティスト。
 主人の推しちゃんは今シルバーの髪色をしていて、絶賛萎え中の主人は、その髪色を見たくないらしい。
 わたしとしては今回1番見てほしかったのだが残念だ。

「そっか。じゃあ次ね。えーっと……この子も今回色っぽくて良かったんだけど、あ、この子も金髪か……」

 ドルオタの主人なので、髪色NGがある。

「あんたのオススメは?」

「オススメ……」
 数秒考える。

「オススメいないんだよね」

「いないんか。チャラ男だけか」

「みんなパッとしないんだよね。清香ちゃんとかゆめのっちと比べちゃうと」

「ゆめのちゃんは、俺久しぶりにヒットしたなぁ。この前のライブ見ただけだけど」

「あの子、大分で賞とか取ってるから、そもそも歌上手いんだよね」

「ライブが仕上がってるんだよな」

「じゃあいつもの白い子見ようか。黒髪だし」

 運営メンバーの通称【白い子】を見る。この日は灰色のドレスを着ていた。

「まぁ安定だな」

「安定だけど、オタクつくような歌い方じゃないよね」

「というと?」

「いや、なんか、オタクつく子ってちょっとへっぴり腰じゃん。白キャンの梓とか。この子は完璧すぎて隙がないんだよね」

「俺の推しちゃんはいつもへっぴり腰だけどな」

「あれはヘッポコすぎ。もうちょい品良くした方がいい」

「次」

 ザッピングは本当はよくないのだけど、7時間以上あるフェスをずっと見ているわけにもいかない。でも、本当に優れたアーティストなら、3分見るだけで客を引き寄せる魅力を持っていると思う。

「この子はね、1番オタクついてる。さっきの子と比べてちょっと陰がある感じじゃん?」

「ふーん」

 赤い衣装でミニスカート。綺麗な足を存分にアピールするのはポイントが高い。

「この金髪のベースの人いるじゃん? この人はパパさん」

「パパ?」

「もうお子さん1歳くらいになってるの」

「あぁ、そっちのパパか」

 どっちのパパだ。

「なんかここに出てるアーティストのほとんどの曲を作ってるみたい。だからすごい人なの」

「すごいな」

 どういう団体なのか分からないけど、1人のベーシストが曲を作りまくって提供している謎の団体である。

「じゃあ次はこの人ね。この人も安定してる」

「この曲聞いたことあるな」

「あぁ、何回も見てるからね。マジックタイムっていうの。曲良いよねー。ギターソロ、今回周平くんまともに弾いてた」

 周平くんのギターソロを聴く。

「いつもまともじゃないんか」

「曲の雰囲気ぶち壊してるソロ弾いてるもん。ピロピロピロって。曲と全然合ってねぇなって思ってたけど、今回はまとも。でもさ、こういう音楽やってる人はわたしよりも音楽に詳しい
わけだから、わたしが「全然合ってねぇ」って思う方がおかしいのかな」

「音楽に詳しい奴が客になるわけじゃないんだから、普通に聞いてて微妙なら微妙なんだろ。チャラ男ってギター上手いんか?」

「上手いかは分からないけど、めっちゃ地味なギター弾いてると思う」

「地味?」

「なんか1回だけこのフェス、ギターが周平くんじゃないとき見たんだけど、全然違った。ギターの音が結構大きかったし、メロディーとかガツガツ弾いてたし、ボーカルとも被ってて聞きづらくてね。周平くんと比べると「うるせぇな」って思うギターだった。それを良いとするか悪いとするかは価値観の問題だけど、周平くんのギターはそれと比べるとだいぶ静かで地味」

「まぁサポートだったら、うるさすぎても問題だろ。次は?」

 次は……。

「今回この人のチケット買ったの」

 中央で歌う男性アーティストと、アコギの周平くんの組み合わせ。

「チャラ男真面目に弾いてるな」

 ときどきアーティストさんの表情を見て、呼吸を合わせようと弾く周平くん。

「ね。チームホスホスと全然違うっしょ。サポートはアーティストに合わせて弾くんだよ。この人ね、映像作るの得意みたいで、いつも映像使ってソロで歌うんだけど、今回なぜか周平くん使ってるから、なんか申し訳なさ感じて応援券1000円課金しちゃった」

「チョロいな」

「いやー、だって嬉しいじゃん。周平くんが一推しなわけだからさ、わたしは」

 周平くんが映ってる時間が1秒でも長い方が良い。

「あんたどうせライブレポ書くんだろ」

「いや、今回は書かんよ」

「なぜ」

「お金払ってライブ見て、その感想を自分のnoteに書いてるだけなのに、それを無料で見てるくせにグチグチ言う恩知らずな奴がいるからね」

「ベイマックスか?」

「見なきゃいいだけなのにね。ライブレポってさ、他のアーティストさんは結構見たがるんだよね。人間って、自分のことを悪く言ってる人には反発するけど、自分以外の同業者の悪口に関しては、「たしかにそうだな」とか「そう思う人もいるよなぁ」って、案外冷静に聞けるんだよね。それで、自分は気をつけようって気を引き締めるの。うちらだってさ、同業店の口コミ結構見るじゃん?」

「たしかに」

「他店がボロクソ書かれてたりするとちょっと笑うじゃん。こっちは気をつけよってなるじゃん。だから勉強熱心な人ほど他人のライブレポを見るんだよ。客の言葉がストレートに書いてあるからさ。それが分かってないような奴がいるから、書かないわ」

 書いてやらなーい。

 とっても素敵なライブでした! みなさん一生懸命頑張ってて、楽しかったです!
 次回のライブも期待してます! これからもずっとずっと応援してますので、頑張ってください!


 

 ボクシングの世界チャンピオン内藤大助さんが、ゲッターズ飯田さんにこう質問した。

「僕の悪いところを教えてください」

「なぜですか?」

「悪いところを直していかないと、トップにはなれないからです」

 すでに世界チャンピオンなのに、そんなことを聞くのかと、驚いたそうだ。

 良い言葉よりも、悪い言葉に敏感な人の方が成長する。

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