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推しとクレープ




「堀江、わたしは気付いてしまった」

「あんたも堀江だよ」

「ライブに行くより、原宿にいってクレープを食べた方が楽しい」

「まぁ、価値観は人それぞれだから」

「クレープ屋に並んでると、若くて可愛い女の子に紛れられるし、グラマラスな外国人のお姉さんもいるし、最高だ」

「それはあんた、無銭ガッツキって言うんだよ」

「ガッツかないよ。女の子たちが幸せそうに推し活してるのが見れるから楽しいんだ」

※無銭ガッツキ=ドルオタ用語で、物販準備中や休憩中のアイドルさんに話しかけたりすること。無銭でガッツク=無銭ガッツキ


 原宿の竹下通りにあるマリオンクレープ。平日の昼間なのに、20人くらい並んでいた。少し歩いた先には別のクレープ屋さんがあるのに、そちらは誰も並んでいない。でもどうせ買うなら並んでいる方が人気店っぽいので、行列の最後尾、20代と思われる女性2人組の後ろに並ぶ。

 若い子が注文する様子をガン見する。
「41番で!」

 どうやらマリオンクレープは、メニュー名ではなく、メニューに振ってある番号で注文するのがルールらしい。並んでいるときにメニュー表が見えるので、それを見て決める。

 10分ほど並ぶと順番が来た。思ったより早かった。

 「74番で」
 イチゴとチョコと生クリームとアイスが入った王道のクレープを注文する。

「かしこまりました! 横にズレてお待ちください」

 先に並んでいた女性2人組も、一緒に横にズレて並んでいた。

「43番の方ー!」
 店員さんが声をかけると、2人組のうちの1人が「あ、はい!」と返事をしてクレープを受け取った。もう1人の子は先にクレープを受け取っていた。
 可愛いなぁとチラチラ眺めていると、2人してカバンの中を漁り出した。そして、取り出した。

 あれは……

 推しぬい!?

 おそらく男性アイドルと思われるぬいぐるみを取り出した女性。そしてもう1人の女性は、男性アイドルと思われるトレカを取り出した。

 【マリオンクレープ】と書かれた看板の前で、クレープと推しグッズを掲げ、スマホで写真を撮る女性たち。

 こんなにも堂々と……。

 恥ずかしくない?
 いや、気持ちはすごく分かるよ。めちゃめちゃ楽しいよねそれ。大好きな推しとクレープを一緒に撮るのめっちゃ楽しいよね。常に推しと一緒だし、デートしてる気分になるよね。でも周りの視線が気になって、わたしはコソコソしちゃうんだけど。

 2人組の女性は互いに撮った写真を見せ合って、本当に幸せそうに笑っていた。

「ま、まぁ、友達いると堂々とできるよね」

 1人だとちょっと痛いもんね。
 そう思って、わたしは移動する。

 少し離れた場所に行き、食べようとしたら1人でいる女性が近くにいることに気付いた。年齢は、わたしより少し若いかなというくらい。

 そしてその女性、なんと先ほどの女性と同じように、器用にトレカとクレープを片手で持ち、スマホで撮影しはじめた。

「まじか……」

 その女性をよく見ると、カバンには同じ男性アイドルの缶バッチが大量についてる、いわゆる痛バッグ(推しグッズが見えるように、表面が透明になってるもの)を持っていた。
 撮影するなり、1人なのにすごく嬉しそうに笑って画像をチェックして、満足したのか食べ始めた。

 原宿ってすごい……。

 ここがもし渋谷だったら、もっとキャピキャピした人もいて、推しグッズではなく、「クレープと可愛い私」とタイトルがつくような自撮り写真を撮るのだろう。もちろん原宿にもそういう子たちはいるけど、渋谷より、オタク率が高い気がする。

 最先端のトレンド発信地、原宿。

 アクセサリーショップには「推しカラー」と書かれたカラフルなヘアアクセが並び、

 若者ブランドのWEGOには、推しぬいポーチやうちわ入れもあり、

 3コインズ原宿店には、ペンライトポーチや、推しお守りまで売っていた。

 推し活ってもはや一部のオタクがやることではなく、ファッションの一部。
 持ち物の一部に「推し」をつけるのが、最新のトレンドなのではないか。

 渋谷や新宿だと、ハイブランドを身につけて歩いている人ばかりいるけど、ここ原宿では、推しぬいポーチを身につけている人が多い。量産型のハイブランドより、自分だけの「推しぬい」の方が遥かに個性的で、カッコよく見える。

 そう! 個性的なことがカッコいいのだ!  原宿は!

 クレープを持ちながら、周平くんぬいを腕に抱えて写真を1枚撮った。
 やっぱりすこし恥ずかしかった。



「そんな感じでさー。もうほんと原宿の女の子たち、めっちゃ推し活楽しんでてさ、もう見てるだけで幸せ。クレープと推しを一緒に撮るだけで幸せになれるんだよ。ほんと素敵すぎた」

「あんたみたいな変態が多いんだな」

「ドルオタもそうだけどさ、推しと関わることが前提の推し活ってもう流行らないよ。あれってだってAKBが築いた文化じゃん。もういい加減時代遅れ。おかしいと思わない? なんでアーティストがチェキ撮ったり水商売もどきの接触物販して小銭稼いでんの? 歌えよって話じゃん。なんで接触目当てに物販行くの? なんでいらないグッズを買うことが応援になるの?     もっとよく考えた方がいいよ。原宿の女の子たちの方がよっぽどまともに推し活してたよ。推しと関わらなくても楽しんでた。推しが出るテレビ見たり、写真とかグッズ集めたりして楽しむんだよ」

 推し活は、もはや個性を表すもの。
 一人一人に、推しがいる。推しがいるということが、個性になる。

 2023年の下半期頃から、芸能人はどんどん事務所から独立している。

 そして迎える2025年は「個性」や「個人」の魅力が輝いてくるインディアン座の時代。1人でも楽しめるような人が、最高の運気になる。

 そして、その後にくるのが貴族の時代。「貴族」である羅針盤座が登ってくる。

「AKBってさ、庶民の星の時計座の時代に登ってきたんだよね。庶民だから、ファンの人とも分け隔てなく関わろうっていうのが流行って、握手会とかやり始めて登ってきたの。それがもう12年経って一周まわってるから、そろそろ終わりにして次のやつが出てくる運気なんだよね」

「次は何が出てくるんだ?」

「その空気感を見るために原宿行ったんだけどね。完全に「推し活」ってのが独立したトレンドになってた感じ。「推し」じゃなくて、「推し活」がメインなの。だからたぶん、「推し活」を楽しませてくれるような「推し」が出てくると思うんだ。それが何かは、ちょっとまだ考え中なんだけどね」

 2025年は、時計座が弱くなる。だから、貴族が良くて、庶民が苦しくなる。
 品よく、貴族らしく生きた方がいい。インディアンも上がってるので、みんなと一緒ではなく、個性を主張すると良くなる。


 原宿から渋谷に移動した。
 イシバシ楽器の上の階にある、アニメイト渋谷店。
 店内にいる半分以上のお客さんが、カバンに推しぬいや缶バッチをつけている。

 もちろんわたしのカバンにも、推しの周平くんぬいがついている。

 エスカレーターを上がってすぐのところにあった【ぬい撮りスポット】
  ぬいぐるみに合わせたミニチュアのディスプレイ。
 お気に入りの推しぬいを置いて、写真を撮れるスポットだ。

 ここでは他人の視線を気にする必要がない。みんな「推し」に夢中で、推しに夢中になる人の気持ちも分かる人。

 堂々と周平くんぬいをポーチから取り出し、ぬい撮りスポットに置いた。
 しゃがんで、周平くんと視線を合わせながらスマホで撮影する。

 めちゃめちゃカッコいいし、めちゃめちゃ可愛い。
 角度を変えて、カメラマン気分で撮影しまくる。
 我が推しは最高だ。だってこの人はただのギタリスト。わたし以外に、この人を推している人はいない。最高の個性である。

 撮った写真はあとで印刷して職場に飾ろう。

 これが、最先端の推し活だ。

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