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見てほしい気持ちは同じ





「なんでチャラ男メガネかけてんだ?」

 わたしが作った推しのぬいぐるみ(周平くん)を見ながら主人が言う。

「それ100均で買った。最近周平くんまたメガネなの。サングラスもあるよ〜」
  
 サングラスも周平くんぬいにかける。

 周平くんには定期的にサングラスブームがあって、そのときはまともな現場以外は基本サングラスをかけている。ちなみにサングラスとわたしは言っているけど、以前本人に確認したら「度入りの色眼鏡」だそうだ。

 【色眼鏡】というと比喩表現で、【先入観のせいで物事が正しく捉えられていない様や偏見を意味する】ので、要するに病み期だとわたしは思っている。
 女に振られたか、仕事がうまくいっていないか。自意識過剰になり人に顔を見られたくないのだろう。そんなときもある。頑張れ周平。

「ますますチャラくなったな」

「性格はクソ真面目だけどね。ちょっとはネタの通じる性格になってほしいわ」

 外見と内面は真逆の場合が多く、チャラチャラしてる人ほど、自分の地味で真面目な性格を嫌っているので、わざと派手で奇抜な服を着て、個性をアピールする。

 そして大人しくて綺麗めの服を着ている人ほど、内面はアホで幼稚で変態だったりする。個性的になろうとしなくても、幼少期から個性的すぎてハブられた経験があるので、一般受けして周りに馴染む服を選ぶ。
 そう、わたしのことである。絶対に浮きたくないのである。


「そんなことより聞いて! わたしの書いたnoteに梓からいいねきたの!」

 真っ白なキャンバスのラストライブについて、主人との会話を書いたnoteに、メンバーの小野寺梓からいいねがついた。

「さすがだな」

「ほんとだよ。フォロワー7万人とかだよ? ライブのポストだけで数千件はポストされてるのにね」

 いったい1日にエゴサする時間をどれほど設けているのだろうか。

「で、あんた梓フォローしたんか。チョロいな」

 いいねされた直後に梓をフォローしたわたし。

「いやー、オタクなんてそんなもんでしょ。チョロいんだよ。推しはいるけど、いいね来たらすぐ流れるよ。これなんだよね結局、オタクが離れないのって」

 ドルオタの浮気っぷりは凄まじい。推しと呼んでるアイドルはいても、バレないように隠れてコソコソしながら別現場に行く。

 理由は「いいねたくさんくれたから」「フライヤーくれたから」「突然リプが飛んできてさ」「フロアで声かけてくれたから」

 と、真面目に歌やダンスを頑張ってる人からしたら、

 え? そんなことで?

 と、びっくりするくらいの理由で軽ーく流れて浮気する。 
 もちろん見た目の可愛さは重要だけど、オタクがつくかどうかはそこじゃない。オタクに「もしかして僕のこと好きなのかもしれない」と思わせられるかどうかである。いや、そこまで重くなくてもいい。「オタクのことをちゃんと見てますよ」と、アピールできているかどうかだ。

「今はいいね欄見れなくなっちゃったけど、梓のいいね欄ヤバかったもん。最後に見たの、いいね数60万とかだったよ。桁違い。ダントツ」

「ん? いいね数ってどこで見れるんだ」

「自分のは自分のいいね欄から普通に見れるよ」

 主人にいいね数の見方を教える。

「俺5万だな」

「わたしは22万」

「あんたもヤバいな」

「いや、わたしも結構やってる方だと思ってたけど、梓のを見たとき「この子やばい」って思ったもん。本気すぎて怖い」

 今は他人のいいね欄は見れなくなってしまったけど、オタクは絶対にアイドルのいいね欄をチェックする。そこで、どれくらい本気なのかを見抜く。いいね欄がオタクから見れなくなった今でも、梓は全然関係なく、オタクにいいねをしまくっているのだろう。絶対にオタクを手放さないために。
 
「顔の可愛さとか、パフォーマンスとか、自分の魅力でオタクが勝手につくと思ってる奴が多すぎるんだよね。アイドルにしても、アーティストにしても。そんなわけないってどうして気づかないんだろうね」

 例えばYOASOBIとか、もうすでに世間に知れ渡っているアーティストなら、顔も名前も知らなくても曲だけ聞いてハマることもある。実績があるから。みんな知ってるから。
 自分の魅力だけで引き寄せられるのは、ごく一部の天才か、実績がある人だけである。

 受け身の奴らが圧倒的に多いから、「攻め」ができる人が上に行く。

「ライブ来てください」「チケット買ってください」

 という、一見攻めているようで、100%受け身の姿勢。

「頑張ってたくさんDM送ります」

 は?

 「見てください」と、オタクを待ってるだけの受け身の姿勢。その傲慢さに苛立つ。

 オタクはみんな思う。

「お前はオタクを見てないよな」と。
 
 だから、オタクをしっかり見ているアイドルに、オタクは流れる。
 
「昔はさ、アイドルってテレビでしか見れない感じだったから、受け身でよかったんだけど、今ってそうじゃないじゃん。ライブなんて気軽に行けるし、SNSもあるし、顔可愛い人も歌上手い人もたくさんいるじゃん。その中で上がってくるのは【オタクから見られるアイドル】じゃなくて、【オタクを見る】アイドルだと思うんだ」

「なるほど」

 オタクが1人もいないということは、1人もオタクを見れていないということ。
 自分のことばかり。魅力もないのにいつかオタクがつくと勝手に思ってる受け身な人。

 オタクが10人いる人は、10人のオタクを見れている人。

 オタクが100人いる人は、100人のオタクを見れている人。

 オタクが10000人いる人は、10000人のオタクを見れている人。

 いいね数60万超えの小野寺梓は、今までに何人のオタクを見てきただろうか。
 1つ1つのライブを大切にして、しっかりオタクを見てきた。
 だからこそ、7年で、幕張メッセに立った。
 出会ったオタク1人1人を見続けた。今もずっと、見続けている。

「見てほしい気持ちは、オタクも同じなんだけどね」
 
 俺を見てほしい。私を見てほしい。と、アイドルやアーティストは言うけれど、オタクだって同じ。

 同じなんだけどなー。

 そう思って机の上の周平くんを見た。
 
 サングラスの奥の瞳は、隠れていてよく見えなかった。

 

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