はいせーの
「下北沢で面白そうなイベントやるんだけど、俺20日仕事で行けないんだよな」
「なにそれ」
「ミツバチロックサーキット。100組くらい出るんだ。idoressも出る」
下北沢にある10個のライブハウスを使って、総勢111組もの女性アーティストが出るイベント。ざっと見た感じ、アイドルが多いけど、シンガーソングライターもいる。
「え、これチケット1枚で色んな会場行き来できるってこと?」
「そう。ドリンク代かかるか分からんけど」
「シャングリラあるじゃん! LIVE HOLICも LIVE HAUSも、あ、DY CUBEもある。結構行ったことあるわ。ライブハウス見学に行くのも面白そうだね」
「行くか? 行くならidoressで予約して」
タイテ画像を拡大してidoressを探す。ついでに他の出演者も見る。
「あ」
「ん?」
見たことある人がいた。
「まって、結芽乃ちゃんいる」
「ゆめの?」
「前に横浜のミントホールだったかな、清香ちゃんと対バンした子。大分から上京してきたのは知ってたけど。へー、頑張ってるんだぁ」
前に見たときにフライヤーを貰ったので覚えていた。たしかフォローしてたなと思い、結芽乃ちゃんのXを確認。
見ると、シンガーソングライターなのに、アイドル系のイベントにも出演していた。上がっている動画を見ると、ステージでギター弾き語りをする結芽乃ちゃんに、オタクたちがコールをし、シンガーソングライターらしからぬ盛り上がり方をしていた。
「これやばくない?」
動画を主人に見せる。
オタクたちお決まりの「はいせーの」のコールがかかっている動画。
「ドルオタってすごいよね。初めて聞く曲でも「はいせーの」ってピッタリ入れられるよね。あれどうやってんの?」
「感覚だな。入れにくい曲もあるけど、だいたい入れられる。逆にコール入れられないアイドルは人気ない」
とくに無銭現場だと、接触よりもライブで騒ぎたくて来ているオタクが多い。オタクたちは初めて見るアイドルさんでも、初めて聞く曲でもガツガツコールを入れて、誰彼構わず盛り上げる。
「シンガーソングライターの弾き語りで「はいせーの」かかってるの初めて見た。結芽乃ちゃんさ、若いし、アイドルでも通用するルックスだし、曲も分かりやすくてオタク受け良いんだろうね」
「曲は重要だな。オタク見てればクソ曲かどうか分かる」
なるほど。と思う。アーティストが「手拍子お願いしまーす」と言わなければ盛り上がらない音楽ライブと違って、アイドル系は盛り上がって当然の現場なので、そこで盛り上がらないグループは、そもそもがやばい。曲も、雰囲気も、魅せ方も。
「いやー、自分の魅せ方分かってる感じだね。アイドル現場でもいける!って思わないとここには出れないよ普通。頑張ってるねー。20日見に行こっかな」
「予約はidoressにしといて」
「やだよ。わたしそのへんはシビアだよ。ちゃんと頑張ってる人のチケットを買うって決めてるの」
「1000円払うから」
「せこいな。やだよ。結芽乃ちゃんで予約する」
ワンマンより、対バンが好き。
推しはいるけど、推しだけを見たいわけじゃない。
色んなライブに行くので、色んな人からたくさんフライヤーを貰う。でも、軽く見たらだいたい捨ててしまう。 それでも、記憶は残る。
「フライヤーって大事だねー。手渡しで貰うと記憶残るもん。わたし現場広いからさ、頑張ってる人とは自然と何回か会うんだよね。別にその人目当てでライブに行ってなくても。2回目3回目って目にしたときに、成長してれば「推そう」ってなるからさ。idoressももうちょっと現場広げて頑張ってほしいな。今回は結芽乃ちゃんの方が上だよ」
頑張ってる人より、もっと頑張ってる人がいると、頑張ってる人は、頑張ってない人になる。
大分から上京してきて、路上ライブをガツガツこなし、韓国で路上ライブもし、アイドル現場にも足を踏み入れた結芽乃ちゃん。
約半年ぶりに見る。どのくらい変わっているのか、期待する。