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贔屓する





「はじめましてですよね! ありがとうございます! お名前聞いてもいいですか?」

「堀江と申します」

「堀江……、え!? さっきの……え!?」

 またやってるよと思いながら物販でCDを買う主人を見る。結芽乃ちゃんの物販で、わたしが先にワンマンのチケットを買って挨拶し、その後に並んだ主人はCDを買った。

 年の差19なので、アイドル現場に行くと、主人を知ってるアイドルさんはわたしを見て「どういう関係?」と、不思議がられる。「奥さんです」と主人がわたしを紹介すると驚愕の表情をする。

 わたしの現場に主人を連れていくのは初めてなので、この先もわたしは結芽乃ちゃんと会うことを考えたら、ちょっと恥ずかしい。



「結芽乃ちゃんのCD落としたから聴いていいよ。あれだな、結構ポップ系の曲が多いんだな」

「え、そうなの?」
 
 帰宅するなりさっそくCDを聴く。

「これはあれだね。YOASOBI系だね」

「だな。弾き語りとはイメージ違うけど、良いな」

 主人もわたしもYOASOBI大好きなので2人してノリノリでハマる。

「また推しが増えちゃうな。清香ちゃんもいるし」

「チャラ男のフェスはどうした」

「周平くん界隈はもういいかな。周平くんにしか興味ないし」

「他界だな」

 
 好きなアーティストは好き。
 嫌いなアーティストは嫌い。

 この前ゲッターズ飯田さんがブログに書いていた。

「学校ではカンニングはしちゃいけませんって言われるけど、社会に出たらカンニングする人の方が上手くいく。
学校では「えこひいきはだめ」と教わるけど、社会に出たらえこひいきする人と、えこひいきされる人が人生を上手く進められる」

 上手くいってる人からどれだけ盗めるか。
 贔屓して、贔屓されるようにどう生きるか。

 

 主人と見たアイドルの特典会は、オタクよりアイドルの方が多い現場だった。オタクの人が言っていた。

「この前の特典会なんてアイドル6人いるのに、オタクは僕1人で気まずかったんですよー。誰のチェキ撮るんだって。さすがに6人分のチェキは撮れないし」

「箱チェキないとキツイですね」

 そんな会話をしたけど、結局その人は推しちゃんとだけチェキを撮った。
 推しちゃんは当然喜ぶ。そして、自分とだけチェキを撮ったオタクを贔屓するようになるので、オタクも嬉しい。
 ここで箱チェキを選択していたら、ただのDD(誰でも大好き)と思われて、相手にされなくなる。
 誰でも大好きな人は、誰のものでもないので、アイドルさんたちはちょっと距離をおく。DDにガツガツ営業していると、グループ感の仲も悪くなるのかもしれない。
 アイドル物販は、その心の動きを想像するのが楽しい。


「10人アーティストがいたらさ、「この人とこの人はめっちゃ好きだけど、こいつはマジで嫌い。顔も見たくない。周平くんに関わるな」って人ができるじゃん? そいつが推しのアーティストに関わってたりするともう心理的に無理になっちゃうんだよね。もっとお互い競ってバチバチしててほしいわ」

「俺は気にしないな」

「あんたDDだもんね」

 公平なんてあり得ない。みんな仲良くなんて絶対にない。関わるべき人と関わって、ソリの合わない人とは距離を置く。その判断が「えこひいき」というだけ。


「結芽乃ちゃんわたしのこと認知してくれたから好きだな。ワンマンのチケット今40枚っていう「40」の数字、わたしが書いたんだ」

「あの40って写真、たくさん上がってるな」

「でしょー。もっと大きく書けばよかったな。贔屓されると贔屓したくなっちゃうな」


 たくさん贔屓して、たくさん贔屓されるようにどう生きるか。



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